返事③
◆
……フラれて、しまいましたね。
いえ、覚悟はしていたのですが……いくら傷つく用意が出来ていたとしても、傷ついてしまったことに変わりありませんから。
だから、私がこのように自室で涙を流しているのも、仕方がないことなんですよ。
「……メグ? ご飯できたから……お腹が空いたら、降りてきてね」
ドアの向こうから、母の気遣う声が聞こえます。公園から帰ってきた際の私の顔を見て、親である母は悲しみを感じ取れたのでしょうか。事情を把握したのでしょうか。
今はその優しさが、孔の空いた胸に響きます。母の優しさが、悔しさを余計に強めてしまいます。涙が、どんどん流れて出てしまいます。
「何が、足りなかったのでしょうか」
……駄目です、このような考えを持ってしまっては。
過去の努力を理由に、選んでくれなかった琥珀さんと、選ばれた朱李さんを恨んでしまいます。恨んでしまってはいけないのに。恨むことは、筋違いだというのに。
あ……でも今だけは本音を言ってもいいかもしれませんね。部屋に一人ですし。
せ〜のっ
「なんで私ではなかったのですか。何故朱李さんだったのですか。私頑張りました。貴方の気を引こうと必死でした。朱李さんとも正々堂々と競いました。私は客観的に見ても可愛いと思います。性格は酷いものでしたが、最近は改善しようと努力していましたし現に効果は表れています。スタイルも良いと思います。勉強もできます。母は一会社の社長を勤めているので経済的にも支えられます。貴方を甘やかしたいのに。夢の中ですが、キスも初めても捧げましたのに。乙女の心を裏切るのですか。私を選ばなかったことを後悔してしまえばいいのに。朱李さんと共々不幸になってしまえばいいのに――」
ぶつぶつと、見苦しく、恨み言や文句を吐き出します。
今の醜い姿など、誰にも見られたくないです。特に、あのお二方には。
「……こういうところ、なんでしょうね」
彼はかつての共同夢で、私のことを優しいと言ってくださいましたが……そんなことはありません。今日で、そのことがよく分かりました。
醜い嫉妬。幸福への恨み。見苦しい懐古。情けない自己肯定。理想への羨望。
私は真っ黒なのですよ、琥珀さん。
これらも本気の恋心、その裏返しと言ってしまえば簡単ですが……簡単、だったのですが……そうも上手くいかないのが、現実です。
私は彼に選ばれなかった。彼は朱李さんを選んだ。朱李さんは彼に選ばれた。
それだけなんです。
それだけ、なんです。
それ、だけなん、ですから……
「――止まってくださいよ、涙なんか」
『プルルルル、プルルルル』
何方からの電話でしょうか?
「はい、黒咲です」
『……黒咲さん? 銀城だけど」
「銀城さん……どうさなさったのですか?」
嘘です。なんとなくの予想がついています。
このタイミングで銀城さんが不要な連絡を取るとは思えませんし――
「いえ、私がフラれたことをお聞きしたのですよね? 琥珀さんか朱李さんの、どちらかから」
『っ! 流石、黒咲さんだね。でも勘違いしないでほしいのは、この電話はどちらからの指示で行ってるものじゃない。私が黒咲さんにかけたかったから、今話しているんだ』
やはりですか。
「お気遣いはありがたいのですが、私はもう持ち直しました。なのでご心配いただかなくてもよろしいですよ」
『嘘だ。気づいてないようだけど、まだ鼻声だよ』
……本当でした。私は私の気付かないうちに、悲しさが再び襲いかかってきていたようです。
『まだ色々と溜まってるんじゃないのかい? 話すだけでも楽になるというのは、黒咲さんがいつも話していた言葉じゃないか。私で良かったら聞かせてくれないか』
ここで断ることは至極簡単です。
しかし、せっかく話を聞いてくださるというのであれば、遠慮なく乗らせていただきましょうか。
「おっしゃいましたね? 私の話は長くなりますから、覚悟していてくださいよ」
こうして私は、とても長い間で話し続けました。
恋した男性にフラれて、その悲しみを友人に聞いてもらう……これもまた、青春なのかもしれませんね。
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