第三章

生活①


「あ、おはよー。朝ごはんできてるよ?」


「ありがと」


、私の朝食も食べていただけますか?」


「あ、今日は私がに作るって言ったのに! っていうかもう作っちゃったよ!」


「あ、うん。どっちもいただきます」


 起きた直後に二つの朝食はお腹にキツいものがあるが、自分の為を想って作ってくれた料理を無下に扱うことは出来ない。どうやら今が限界を超える時らしい。


 朱李の和風朝食とメグの洋風朝食を頑張って食べながら、こう思うんだ。


「どうしてこうなった……」




 『◯◯しないと出られない部屋』に閉じ込められてから、早五日。一度経験済みのメグに加え、あらかじめ話を聞いていた朱李も早々に順応し、日常を送ることに成功していた。


 朝食などは当番制。ベッドは女子二人が使い、僕はやはり床で寝る。朱李は珍しく真顔で「止めた方が良いよ」と言ってきたが、何分こちらの方が慣れているもので、やんわりと断った。


 その後、お風呂から出た僕が見た光景とは……朱李が、閉じ込められた時に僕に床で寝させる原因となった人物と喧嘩している様だった。なんとか仲裁して、床で寝ることに納得してもらったのだけれども。……いや床で寝る側が説得って異常すぎる。


 とまぁ色々とありながらも、五日間を過ごせている。朱李の指導の元で勉強しながら、時々全員でゲームしたり……と、ここまでなら別に構わないのだが、問題は別に現れてきた。


「琥珀くん♡ 今日は私とゲームしよっ!」


「駄目です。琥珀さんはしっかりと勉強をした上で、私と、ゲームするんです。彼にリベンジするんです」


「あの、言い合うのは勘弁して下さい……」


 何の奇跡か、僕は目の前の女性二人から好意を抱かれることになった。奇跡と評したのは誇張じゃなくて、本当にそのレベルで良い人達から好かれているのだ。


 そんな関係の僕達が、一つの部屋で生活することになれば、どうなることか……予想は簡単につくだろう。


 つまり二人共、僕からの注意を得ようと争い合っているのだ。


 争いといっても軽い言い合い程度だが、間に挟まれている僕の心境は最悪だった。……美女二人に挟まれておいて何を贅沢な悩みだ、と言われるかもしれない。けれども現状、僕は二人に答えを出せないままでいる。その事が心苦しくて……本当にキツいんだ。


 女の子を沢山侍らしたいと言っているハーレム願望を持つ男がたまにいるが、本気の想いを両者から伝えられると嬉しいなんてもんじゃない。通り越して苦しい。


 当たり前だが、どちらかに応えれば、どちらかには応えられない。仲が良い間柄だが、気まずさは残るだろう。……この閉鎖空間でそんな状況に陥れば、一体どんなことになるのか……少なくとも、ストレスを抱えてたことが原因で体調を崩してしまうに違いない。


 というわけで答えを出せずなぁなぁにしているおかげで、見事に自業自得で心が痛んでいるわけだ。


「私の方が先にキスした関係です!」


「私はメグさんよりも先に琥珀くんを好きになってた!」


「愛は長さじゃありません。大きさです!」


「私の方が彼を好きだから!」


「私です!」


「……いやもう、マジで……」


 ライバルを一緒に暮らしていることや、閉じ込められる直前に告白されたこともあってか、二人の愛情表現は留まる所を知らない。少し前までは男と話すことすら嫌悪していたメグは、今では当然のように男に向けて”愛”と口にしている。朱李は元々感情が豊かだったが、この部屋に入ってからは”好き”と堂々と言うもので、逆にこっちが恥ずかしくなってくる。


「……ちょっとシャワー浴びてきます」


 言い合っている二人を背中に、僕はかいた汗を流すためにシャワーを浴びることにした。元々朝にシャワーを浴びるという習慣は無かったのだが、この部屋での生活において大切なルーティンとなっている。あの二人以外にも、色々と変化はあったのだ。


「……早く出たい、この部屋から」


 その呟きは、お風呂場に小さく木霊した。



 こんな生活がもっと続くようであれば、僕の精神こそ保たない。だから脱出方法を初日に色々と模索したのだが……全てが失敗した。


 朱李とキスした後、色々と試してみた。手を繋いだり、震えながらもハグし合ったり、……む、胸を揉ませてもらったり……試すたびに僕の心は死んでいった。


 しかも二人共嫌がる様子なく、寧ろ朱李に関しては喜んでしていた節があるし、メグも満更でもない表情をしていた。その事が余計に僕の精神をガリガリと削っていく。


 加えてイヤなことに、これをきっかけとしてスキンシップが増えてしまった。一度経験してしまえば後は慣れたものなのか、積極的に攻めてくる。身体を寄せてきたりとか。


 何度目か分からないが、やはり二人は美人だ。顔もスタイルも整い、髪が艶やかで、羞月閉花とはまさにこのこと。そんな二人から誘惑まがいのことをされてしまっては、精神(理性)が弱っていくのも当然だろう?


 ……三日目の夜、理性の限界間近を向かえ、「いっそのこと二人同時に抱いてしまおうか」なんてよこしまで浅はかにもほどがある考えをしてしまった。あれは今でも覚えているし、黒歴史だし、二人には決して話せない……話したら調子に乗るから。


 一応鏡で自分の姿を見つめ直して我に返り、その時は収まったが……ぶっちゃけると、ヤバかったです、はい。




 とまぁ、ここまでが五日間であったこと。今後も色々と不安はあるが、なんとか耐えながら脱出方法を探していきt――


『琥珀さん、中にいますよね?』


 勘弁して下さい。



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