「〇〇しないと出られない部屋」で学園の黒聖女と七日間暮らすことになった
GameMan
第一章 前半
一日目①
「……ん、ここは……?」
体を起こし、徐々に焦点が定まってきた視界で辺りを見渡す。
真っ白な壁。真っ白な机と椅子二脚。冷蔵庫。空調設備。服が入っていると思われるロッカー。そしてなんと大型テレビまである。
ドアが三つ。一つは上に『シャワールーム』と書かれたプレート。もう一つは『W.C.』と書かれたプレートのドア。最後のドアはおそらく出入り口だろう。
「……随分と心優しい誘拐犯なんだな。っとテレビの下にあるのはゲーム機か? しかもネット仲間の誰も持ってないような最新の機種なんだが」
さて、学園からの寮への帰り道、抜け道を使って帰ろうと路地裏を通ったら何者かに誘拐された。
これなら怪しい路地裏なんて通るんじゃなかった……。
あの時の自分の愚かな選択を悔いながら溜め息をついていると、ふと左手にサラサラとした何かが触れたことに気づく。
視線を左にやると、美しく輝く艷やかな黒混じりの金髪。
金色の川の上流を目で辿ってみると、そこにはすれ違えば万人が振り返って見惚れるような絶世の美少女が。
「どういう……はぁっ!?」
真っ黒な制服を身に纏った『黒聖女』は無垢な笑顔を浮かべ、とても幸せそうに眠っていた。
ここでやっと気付いた。そんな黒聖女と僕は、一つの大きなベッドの上で共にしているのだと。
「いや、状況が、えっ? 僕と黒聖女様が同じベッドで寝る? ありえないそうかこれは夢なんだ!」
混乱する頭で思考するが、混乱した結果しか出せない。
夢だと決めつけ現実逃避しようとしたこともそうだが、何よりも一番の失敗は……寝ている彼女の前で大声を出してしまったこと。
「むにゃ……う〜ん……」
体をよじらせ、不機嫌そうに唸った。これはマズイ、もう直ぐ起きる前の兆候だ。
いや僕は何もしてないし、何もマズイ状況ではないのだが。
しかしこの場面で彼女が目を覚ませば、僕が明らかに不審者扱いされる。広いと言っても一部屋であるこの場所で暴れられれば、僕も只では済まないだろう。
だから僕のとった行動は一つ。
「んぅ……あれ、私は何をして……ここは何処なのでしょう? そして何故目の前の男性は土下座をなさっているのでしょうか?」
「僕は怪しい者ではありません。貴方に危害を一切加えないことを固く誓います」
「……その言葉から怪しさが滲み出ているのですが」
「おっとこれはまたもや選択を誤ってしまったパターンですかね」
「……」
「いやあの、本当に黒聖女様には何をしないのでその警戒を解いてくださると幸いです」
腕で自分の体を抱き、見るからに僕を不審者とみなしている目だ。そして何か武器になるものはないかとその目で周りを探している。
「……警戒されているのは分かりました。でも取り敢えずは話をしないと先に進まないので、僕は貴方の半径三メートル以内に入らないことにしましょう」
ベッドから降りて立ち上がり、黒聖女から約三メートル離れた。
「これで少しは安心していただけましたか?」
依然、警戒する目は変わらず。
「……シスターから聞きました。男は皆、総じて獣であると。床と女性を見れば途端に理性を無くす野獣だと」
かなり偏った情報であった。いやしかしモテすぎている彼女にとっては正しい情報なのかもしれない。
「異議あり。目の前にいる男がもしそのような獣であれば、貴方が寝ている間に手を出していたはずでは? しかし僕はそのようなことは全くしていません。すなわち僕は無害な男です」
「これからも変化しないという確証はありませんよ。私が隙を見せた瞬間に襲いかかる可能性は?」
「それは先程言った通り、貴方に近づかないことで約束しましょう」
……暫くの沈黙。
その後、黒聖女は身を護っていた腕をゆっくりと解く。
「最低限の信頼はあると判断します。ですがあくまで最低限ですので」
最低限……つまりそこらのモブと変わらない対応ということですか。まぁ最初がマイナスだったことを考えると上々なんですがね。
「本来は貴方のような根暗な男性と話す気など微塵もありませんが、今回は特例です。私の温情に感謝してください」
おっと対面で根暗と罵倒しますか。流石は黒聖女様
「まぁ初めに軽く自己紹介と、これからどうするかを……って机の上を見てどうしましたか?」
「私より早く起きていたのに、机の上にあるコレに気が付かなかったのですか? とんだ無能ですね」
噂よりも数倍酷い罵倒。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
でも白い机の上に白い紙を置かれちゃ見つけにくいのは当然だと思うんですけど。
「……貴方に隙を見せたくありません。代わりに紙を手に取り読み上げてください」
ほぼ命令なんですけど。まぁ言われた通りに取るんですけど。
今も警戒してるし。無害さを示そうとあんなに努力したのに……泣きそうだよ。
言われて手に取ったのは一枚の紙。そこにはこう書かれていた。
『これから御二方には、この部屋で過ごしていただきます。生活するに十分な品を用意しましたので不自由することはないでしょう。この部屋から出られる方法は、御二方が◯◯することです。しかし初回の特例として、一週間後に出られるように設定しています。それでは楽しい生活を!』
こうして僕と黒聖女様との、地獄の七日間が幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます