第90話 閑話続き

 白貌は自宅に着いた。彼は一人暮らしである。強化コンクリート製の要塞の様な二階建ての家が彼の住処だ。


「ふう、今日は疲れたな」


 網膜スキャンで合金扉が開き、中に入る。玄関には靴が散らかっている。それらを適当に揃え、奥の部屋に進む。寝室だ。そこにはベッドと机、簡素な部屋であった。上着を脱ぎ、ベッドの上に仰向けに寝転ぶ。


「あぁ、明日から忙しくなりそうだな」


 白貌は深い眠りについた。


 朝、4時に自然に目が覚める。俺の幼いころからの習慣だ。


「シャワー浴びよ」


 浴槽に向かう。シャツとズボンを脱ぐ。腰から下は生殖器も含めて義体化している。上半身は掘り削られた様な筋肉が発達した肉体。古傷だらけだ。


「ふぅ……」


 温水が身体に染みる。


「……よし、行くか」


 浴室から出て、タオルで水気を拭き取り、服を着て外に出た。ガレージに向かい、大型のバイクに跨りエンジンを掛ける。アクセルを捻り、水素式のエンジン音が響く。


「さて、出発だ」


 勢いよく走り出した。


 目的地は独立自治区『茨城』のとある海岸の波止場だ。白貌は高速を飛ばしていた。法定速度など無視してぶっ飛ばす。時速200キロ近く出ている。茨城は大戦以降殆どの地区が放棄されている。廃墟の街が延々と続く。やがて海が見えてきた。


「見えてきたな」


 海沿いの道に出ると、古い港に着く。重装備の船。それと傍には一台の白い高級車と人影があった。


「待たせたな」


 バイクを止める。


「お初にお目にかかりますわ!わたくし、アンナ・リリエンクローンと申しますわ!」


 長い金髪をポニーテールにしており、大きな瞳からは強い意志を感じる。両足は白亜で滑らかな義足だ。白貌を見て目を輝かせている。


「ああ、よろしく」


白貌ハクボウ様のお噂はかねがね伺っておりましたのよ!まさかこんな所で会えるなんて夢のようですわ!!」


「そいつは光栄だな。……お前、護衛は?」


「いないですわ!!」

「おい、馬鹿なのか?」


「失礼な方ですね!!でも嫌いじゃありませんわ!!」


 白貌は頭を抱えた。


「……仕方ない。お前の護衛をしてやる」


「あら、頼もしいですわ」


「報酬はしっかり貰うから覚悟しとけ」


俺は、とんだ人間に雇われたのかもしれない。


「それで……依頼の確認だが、お前は何がしたいんだ」


俺は仮面で分からないだろうか、真面目な表情に戻して聞き直す。


「海洋保護団体の支部の破壊です」


「海洋保護団体の支部の破壊……無力化ではなく?」


「じゃあ無力化でお願いしますわ!!」


はぁ……気軽に受けるんじゃなかった。こいつまるで裏の世界に慣れちゃいない。


「まあ、良い。無力化して、何をするんだ」


「はい!そこに流通拠点を作りますわ!」


「できるのか?」


「はい!お父様が何とかしてくれますわ!」


ニコニコで彼女は笑いながら断言する。


「……もしかして、無力化するときお前も付いてくるのか?」


「え?違うんですの?貴方ほどの人間が少女一人も守れなくて?」


「お前、俺の事を勘違いしているぞ」


「……どういうことですの?」

「俺は犯罪者だ。それも特級賞金首の一人だ。お前が思っているような善良な人間じゃない」


「なら尚更、ついて行かなければなりませんわね」


「何故だ?」


「貴方、美味しいものがお好きですよね!」


「まあ、人よりは美食家だと思うが」


「私、美味しいものを食べたいのですわ!」


「だからどうした」


「私の目的と一致しているという事ですわ!」


「……」


この女、本当に理解できない。だが、何故か心惹かれる。不思議な感覚だ。


「気に入った。もう一度教えてくれ。お前の名前は何なんだ」


「私はアンナ・リリエンクローンと申しますわ」


「そうか、アンナ。これから宜しく頼む」


「こちらこそですわ」


こうして奇妙なコンビが結成された。

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