第74話

「お邪魔します……」


 ギシギシという廊下を歩き、居間へと向かう。居間には囲炉裏があり、座布団が敷かれていた。座ると、天狗がお茶を出してくれた。


 天狗は、筋肉質な男性だ。背丈は大きく、180cmはあるだろう。年齢は40代後半と言ったところだろうか。


「シゲ、こいつは誰だ」

「俺の弟子だよ。盆栽の大会に出る」

「そうか。そいつはよかったな」


 天狗は笑いながら言った。

 シゲさんは、湯呑みを口につける。


「美味いな」

「当たり前だ。茶は奥が深い」


「で、今日は何の用件だ」

「こいつを鍛えてくれ。この大会までに」


「俺だって暇じゃねえんだぞ」

「そのかわり、大会が終わったら手合わせしようじゃないか」


「はは、それはいいな。乗った」


 天狗は愉快に笑う。

 俺は置いてけぼりだ。


「じゃあその腑抜けたガキ、殺るか」


 俺は反射的に、天狗に向けて引き金を引く。音速を超えた弾丸が、天狗の額を貫く。だが、その攻撃が当たることはない。一瞬で視界から消えた天狗は、俺の背後をとる。


「外でやろうや」


「……ウッス」


 外に出て上手い空気を吸う。アレ、俺どうして、ガチガチに修行してるんだろう。


「ふむ、少しは動けるようじゃな」


天狗が喋りかけてきた。

「おかげさまで」

「よし、まずは小手調べだ」


天狗はそう言うと、懐から煙管を取り出した。

煙を吐き、辺りを紫の霧で満たす。俺は即座に、天狗に向け引き金を引こうとした。

しかし、天狗はニヤリと笑うと、


「遅い」


天狗が目にも止まらぬ速さで、こちらへと迫ってくる。

刀が振り下ろされるのをギリギリで避ける。


この野郎、目が本気だ!!


「ほれ、反撃せえ」


天狗は愉快そうに笑い、再び刀を振り下ろす。


畜生めッ!!!!!!!


天狗が放った攻撃を、咄嵯に左腕で受け止めた。激痛と骨の砕ける音がした。


「おい、天狗」

「なんだ、シゲ」

「やりすぎだ」

「そうか?これでも半分の力も出していないんだがな」


天狗は呆れたようにそう言った。



「まぁ、良いではないか。強くなるには、こういうことも必要だ」


天狗はそう言い、俺の腕の治療を始めた。

腕に巻かれた包帯から、緑色の液体が流れる。


「なにこれ」

「安心しろ。毒じゃない」

「いや、別にそんな心配はしてないんですけど……」

「これはな、天狗特注の塗り薬だ。塗れば、どんな傷もすぐ治っちまう」

「へぇ……すごいっすね」

「まぁ、副作用もあるんだけどな」

「え」


天狗は愉快そうに笑った。


「なあ、シゲよ。お前も混ざらないか?」

「馬鹿言え。お前は今からこいつに、殺し合いのイロハを教えなきゃならんのだ」


シゲさんは、呆れたように答える。

天狗は再び、ゲラゲラと笑った。

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