第72話

「お前さん、ちょっと寄りたい所がある」


 洗面所で歯を磨いていると、シゲさんに話しかけられる。


「ふぉふぉに、うぃふんへふは」


「昔の戦友の所だ」


 洗面所に向かって唾を出す。


「良いですよ、まだ大会までかなり時間あるので」


 大会まで一週間もある。分子プリンターさえあればデータは出来ている。うん。大丈夫だろう。着替えを済ませ、宿屋を出る。


う〜ん、快晴。良い日だ。


シゲさんが遅れてやってきて、伸びをする。


「さて、行きますか!」


◆◆◆◆


今俺がいるのは森の中。鬱蒼とした森林だ。


「あぁ、着いたぞ。此処が旧軍時代の頃の友人の家だ」

「なるほど」


シゲさんの言うとおりだ。木漏れ日の差し込む、薄暗い道の奥に大きな古い民家が見える。木造の一軒家は、どこか寂れた雰囲気を出している。重厚な木造の門は開け放たれており、中からは古めかしい日本家屋が見えた。石畳を歩く。


前を歩いていたシゲさんが止まる。


「血の匂いだ。誰かが殺されたのか?おい!!!天狗!!!生きてるか!!」


上から殺気ッ。俺は後方に飛び、シゲさんが刀で防ぐ。


天狗は驚いた表情を見せると空中でくるりと身体を翻し、着地。


「おお、シゲか。久々だな」


「おうよ。あんたのその長鼻を拝みに来たんだ。」


「相変わらず、辛辣だなお前は」


「はっ、そうでもねぇよ。で、昨日当たりに襲撃でもあったんか?」


「取り敢えず、家に上がっていけ」


そう天狗は言い、玄関の扉を開ける。


◆◆◆◆


「イガ・ニンジャ・ギルドあたりが、財閥と結託して暗殺者を差し向けたのかもな」


「ありえる話だ。最近キナ臭いからな」


シゲさんと天狗は、何事もなかったかのように会話を続ける。


え、どういうことですか。


「いや、なんでそんな冷静に対処できるんですか」


「ああ、こいつらは昔馴染みだからな。殺し合いの喧嘩なんて日常茶飯事だったぜ」


「そうだな。もうかれこれ何十年も前のことだ」


「まぁ、そういうことだ。安心しろ。此奴らはかなり強い。特にシゲのほうの街はセキュリティも万全、あの糞坊主もいるからな」


「それにしても、随分と変わったなお主は」


「ああ、彼女も出来ず一人隠居暮らしだからな」


二人の話は、あまりよくわからなかったが、どうやら信頼はしているようだ。

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