15.悲惨な状況で逮捕される私
コンコンコンコン。
私は車中で寝ていた。
いや、気を失っていたといっても過言ではないだろう。
頭がガンガンする。
今、何処にいるんだ。
フィオナの部屋を出てからの行動を私は全然覚えていない。
コンコンコン。
尚も車のウインドウガラスを叩く音。
私は目を覚まして何が起きてるのかと訝った。
朝の陽光が四方八方のウィンドウから降り注ぎ眩しさに目を細めた。
私は己の姿に茫然とした。
運転席のシートを倒して車中で寝ていた私は寝ゲロをしていた。
口角から首元に伝う吐瀉物。
昨晩食した食べ物が不快な悪臭を放って車のシートや衣服に付いていた。
助手席に目をやるとフィオナの家からくすねてきたドンペリのプラチナの空き瓶が鎮座している。
や、やらかしてしまった。
私は銀行に押し入って逃亡する凶悪犯がラッパでウイスキーのボトルをぐびぐびしながらハンドルを握っているようにドンペリをぐびぐびしながらライフを転がしていたに違いない。
私は先程よりも幾分か意識が明瞭になりパッと身を起こした。
さっきウィンドウガラスをノックしていたと思われる男がモンキーレンチを片手に握り助手席側のドアの横に立っていた。
男はウィンドウガラスを叩き割ろうとモンキーレンチを振り構えていたところだった。
私は身を起こしキーを捻り助手席側のパワーウィンドウを下した。
私が気を取り戻したのを確認した男はガラスを叩き割るのを自重したようである。
男はドアの窓に顔を寄せぶっきらぼうに言った。
「あんた、大丈夫か?それにしても酷いな。あんた、ゲロ塗れだぜ」
男はラルフ ローレンのポロシャツにジーンズといういで立ちだった。
肩からはガンホルダーを吊るしホルダーにはベレッタ9mmのセミオートがすっぽり納まっていた。
殺し屋?
私は誰かに狙われるような事をしただろうか。
パソコンから転送したUSBメモリーを紛失したように記憶がすっぽり抜け落ちている。
私は昨晩の記憶を精査していた。
ラルフ ローレンの男が言った。
「あんた、車はお釈迦だわ、車にロックした状態で寝ゲロはしてるわ、死んでんじゃないかと思ったぜ。そんで、このモンキーレンチでガラスを割って助けようとした訳。あんた、ぼーっとしてんけど。あんた、ほんとに大丈夫かい?」
ラルフ ローレンの男はブロンドの長髪をポニーテイルに結わえアフターシェーブローションの甘い香りがした。
顔は目と目の間隔が狭く鼻は団子鼻で唇はカサカサで目と鼻と口が集団疎開させられた子供のように中心に寄り添っていた。
私はアニメに出て来そうな男だと思った。
「いやー、もうちょっとでリアル ジミヘンとジョン ボーナムに会えたかと思ったぜ。あんた、寝ゲロは不味いよ。窒息しておっちんじまんぜ」
私は口角から首元に伝うゲロを袖で拭ってポカーンと話を聞いてた。
「あんた、焦点合ってねえぜ。この指何本に見える?」
ラルフ ローレンの男は中指を一本だけ突き立てた。
「ファック」
私は即座に答えた。
「そんくらい頭が働いてりゃ大丈夫だ」
「ところで、この車あんたの車?」
私はこくりと頷いた。
「じゃあ、あんた、キャシー マッキンタイアーさん?」
何でこの男は私の名前を知っているんだろう。
ラルフ ローレンの男は保安官バッジを取り出して言った。
「俺は保安官事務所のジャック ドライデン保安官助手だ。キャシー マッキンタイアー、あんたに逮捕状が出ている。罪状は市の迷惑防止条例違犯と飲酒運転、それと器物損壊だ。これが令状だ」
ドライデンはそう言うと逮捕状をパワーウィンドウを下げている窓越しに開いて見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます