13.飲みまくって己を見失う私
な、な、な、、なんでそーなるの!
私の心の中で欽一 萩本が凄まじい跳躍力で欽ちゃんジャンプをしている。
私の心の中で愛くるしい笑顔でジャンプしている今の欽ちゃんなら棒無しでブブカの世界記録を破れるかも知れない。
そう思わせるくらいフィオナが手にしている物はインパクト絶大であった。
自分達が使うペアのシャンパングラスよりも二回りほど小さなグラスとキャンディーチーズが3つであった。
そのグラスとキャンディーチーズをフィオナは私の前に置いた。
私はグラスを手にして繁繁と眺めながら骨董店の主人のように「はっはぁ~、これが日本人が日本酒を熱燗で嗜む時に用いるおちょこという奴ですな」とお道化た感じで乗り突っ込みした。
間髪入れずに「こ、これはリッツ カールトンのバーで出て来る高級キャンディーチーズですな」とも言った。
私は洒落でこんな仕打ちをして楽しんでいるだけなんだと信じたかった。
この後に「ドッキリでしたー」なんてお道化て見せて同じ品品が並ぶんだと信じたかった。
だが、それは浮かんでは消えるシャボン玉のように淡い期待であった。
フィオナが私を無視して手をポンと打って「さぁ、飲み直しましょ」と言った。
ジェイクもフィオナの蛮行を窘める訳でも無くドン ペリニヨンのボトルのコルクを抜いて自分とフィオナのグラスを満たした。
そして、ボトルをワインクーラーに突っ込んだ。
あれッ?
また奴が死神のように何処からともなく現れた。
さっきの認知症で徘徊している老人が私の脳内を忙しなくグルグルグルグル徘徊している。
欽ちゃんは爽やかなスマイルを観衆に振り撒きながら走り幅跳びと三段跳びでも世界記録を更新している。
表彰台で欽ちゃんが観衆に投げキッスを送っている最中、私はあの徘徊する老人にぶつかられ転倒し縁石で後頭部を強打し救急搬送されようとしている。
惨めだ。
実に惨めだ。
私はリトルスクールの3年生の時の忌まわしい過去を思い出した。
そう、頑丈な箱に入れ鎖で何重にも縛り封印したあの忌まわしい過去を…
あれは初夏の朝の出来事だった。
私は前日の誕生日で祖父母からアディダスの白のスニーカーをプレゼントしてもらっていた。
翌日の早朝。
私は当時、飼っていた愛犬のクリスピーの散歩に行こうとしていた。
クリスピーの犬種はチワワで可愛かったが残念ながら翌年に老衰で天国に旅立った。
昨晩の誕生日の興奮で中中寝付けなかったにも関わらず私は午前5時に目覚めた。
カーテンの隙間から陽光が射し込んでいた。
私はカーテンを開けた。
網戸にしていた窓からは爽やかな早朝の風と庭に生い茂った常緑樹の香りが吹き込んできて昨晩の余韻と相まって私は幸せな気分に包まれていた。
祖父母から貰ったアディダスの白いスニーカーに紐を通してバスが電信柱に突っ込んで薙ぎ倒している絵柄がプリントされたTシャツにインディゴブルーのリーバイスという当時私が気に入っていた出で立ちでクリスピーの散歩に行く支度を整えた。
室内犬のクリスピーにリードを繋いでおニューの真っ白なスニーカーに足を通し晴れやかな気分で玄関を開けて一歩踏み出した。
グニャ。
私は何かを踏んだ。
それは人糞だった。
何故、人糞かと分かったのかというとうんこの上に尻を拭った後のクリネックスが置かれていたからである。
今、私の胸中であの時の怨念が沸沸と再燃していた。
あの人糞を私の家の玄関前で放ったのはフィオナに違いない。
そうだ。
そうに違いない。
それに等しい実害を私は被っているのだ。
240ドルも私は支払っているという事実を忘れられて…
此奴らは私の面に糞を塗っているような行為を平然としているのだ。
そうですか。
そうなんですね。
私は手酌で飲めという事なんですね。
この、おちょこみたいなグラスで。
了解です。
私はワインクーラーからボトルを取り取り敢えずグラスに満たしてテキーラのショットを呷るように呷った。
昔はその名を全米各地に轟かせたが現在(いま)は落ちぶれて酒場で日銭を稼ぐ老マリアッチのような心境で一気に呷ってグラスをテーブルにドンと置いた。
まるで荒廃した辺境の寂れたバーで一人で飲んでいる気分だ。
バーの雰囲気はニューメキシコの片田舎で看板は外れ掛かり風でカタカタと鳴り窓から見える景色はサボテンと砂塵が舞っているような感じだ。
一陣の風が渇いた私のハートの中を吹き抜けて行く。
こんなおちょこみたいなグラスでちびちびやってられるかつーの。
私はボトルを引っ掴みラッパでぐびぐびやった。
粗雑にボトルをドンとテーブルに置く。
「プッハァ~、やっぱドンペリのプラチナは美味えよなぁ~、ゲプッ」
ウィリアム“ヘンリー”マッカーティ風にいちびった新進気鋭の若造のあんちゃんを決闘で撃ち殺してフラスコでぐびっとやった後に舌嘗めずりして手の甲で唇を拭う老ガンマンのような不敵な笑みを私は浮かべた。
銃口を口元に近づけ私はフゥーと息を吹く。
よお、あんちゃん、俺に挑むなんて100年早いぜ。
地獄でてめえの銃を磨く前にポコチンでもみがいてな。
またドンペリのボトルを引っ掴み一気に底まで飲み干した。
「ブッハァ~、ああ、、うんめえェー。ジェイク、お前、いいもん飲んでんなぁ~」
一本目のドン ペリニヨンのプラチナが空になるまで要した時間は5分たらずだった。
Mr.ビーンのように口を半開きにして呆気に取られた感じで私を見ているフィオナとジェイク。
私は仕事の対人関係でアルコールに依存していた時期があった。
飲むと己を失い酒量は増していった。
薄薄と昔から気付いていたが私には酒乱の気もあった。
ドンペリを一気に呷りよく覚えてはいないが私は、あの時の私に返ろううとしていた。
私は人様の家で相伴にあずかっていながらバックスクリーンの遥か先の場外にその好意を弾き返し暴挙に出た。
フィオナもジェイクもまだ手を付けてない馳走に私は手を付けた。
先ずはタルティーネを抓み一口で口に放り込んだ。
生ハムとスモークチーズが絶妙なマッチングを醸し出しクラッカーに塗された食塩が食材の旨味を引き立てている。
サクサクとした食感で幾らでも食べれそうだ。
タルティーネをもう二つほど摘んで私はジェイクのまだ口を付けていないグラスを掻っ攫い一息に呷った。
「プッハァー、うんめェー。おめえら、いいもん食ってんなぁー」
私は更にスモークサーモンのカルパッチョに触手を伸ばした。
切り身を2,3切れ抓み天を仰ぎ口の中に落とした。
マフィアの経営するレストランで袖の下を受け取り店の奢りで極上のTボーンをクチャクチャと音を立てて食事をする悪徳保安官のように私は音を立ててスモークサーモンのカルパッチョを咀嚼して呑み込んだ。
「このサーモンはロシア産でしょうかな?それとも、チリ産でしょうかな?まっ、どっちでもいっか。うめえからよ」
私はイベリコ豚の豚テキにも触手を伸ばした。
もはや、この時点では摘むというよりも掴むといった方が正解だろう。
セクハラ上司としての評判が社内で有名なエロ親父が新入社員の女の子のFカップのおっぱいをむんずと鷲掴みするように掴み取った。
ジェイクの皿には豚テキは一切れも残っていなかった。
その鷲掴みにした豚テキを『ギャートルズ』の原始人どもがマンモスの焼いた肉を貪るように私はがっついた。
口角から豚の脂が垂れるのもおかまいなしに私は豚の様にガツガツとがっついた。
食べ終えた私はボトルの水滴を拭うタオルを引っ掴みおしぼり代わりに口元を拭い手も拭いた。
「プッハァー、うんめぇー。おい、ジェイク、おめえ、もう1本ドンペリ持って来いよ」
フィオナとジェイクは白亜の豪邸に強盗に入られ手首足首を結束バンドで縛られ猿轡を噛まされて恐怖に戦く資産家夫婦のように目を回しながら私の暴挙を傍観していた。
こんにちは、昼下がりのひと時、皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
今日もテレビショッピング【ちょっと、これいいかも】をご覧いただきありがとうございます。
司会進行のキャシー マッキンタイアーです。
いやー、それにしても今年の夏は暑いですねー。
実はここだけの話。
私もこの夏の猛暑で脇の汗染みに悩んでいて困っているんです。
今日、テレビをご覧の皆さんに紹介したい商品はこの商品です。
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キャシー マッキンタイアー、38歳。
今宵、お前は酒の力を借り悪魔に魂を売り渡しているのだ…
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