第415話 スサノオの演者とオロチの首

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「ひょっとして、賈南かなんさ……んは、地球日本とクマ国の間で、戦争が起きることを望んでいるのかも」


 栗色の髪を赤いリボンで結んだ、焔学園ほむらがくえん二年一組の担任教師、矢上やがみ遥花はるかは、教え子である昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹いぶき賈南かなん八岐大蛇やまたのおろちのエージェントであると知っていた為、彼女の真意を推察して真っ青になった。


「矢上先生!? いったい貴女は、どんな教育をしているのかな?」


 もう一人の大人、くれ栄彦はるひこは、新たに冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟に加わったばかりで、詳しい事情など知るはずもなかったため、二人の連携もバラバラになってしまう。


「カムロ様っ。お待ちください」


 賈南が不敬罪で断罪されると思われたまさにその時、黒いコートに身を包んだ前髪の長い鴉天狗からすてんぐ葉桜千隼はざくらちはやが飛び出した。


「恐れながら、その少女、伊吹賈南様は、出雲桃太いずもとうた様と同様に、私と部下の命を救ってくださいました。我が命で償いますゆえに、どうかお怒りをお鎮めください」

「「葉桜、新参者が差し出がましいぞ!」」


 異世界クマ国の代表、牛に似た仮面をかぶった足の見えない老人、カムロは賈南の無礼に憤激する部下を手で制した。


「葉桜、キミが気にやむことはない。皆も退け。僕が決めることだ」

「「失礼しました」」


 カムロは、自身を取り巻く戦士達を後方まで引き上げさせた。


「僕はその娘のことを、人伝ながら知っているし、今さら礼儀を説こうとも思わない。伊吹賈南、どうやら先の戦いで桃太君を助け、紗雨さあめがいを守ってくれたようだな。感謝する」


 そしてカムロもまた、賈南が宿敵、八岐大蛇の縁者と熟知していてなお、あくまでも穏当に接した。


「……意外だな。高度経済成長時代に直接まみえた先代からは、もう少し血の気の多い男と聞いていたよ」

「もう歳だからね、丸くなったのさ」

「よく言う。老いてますます盛んとは御身のことか」


 竜殺しの英雄を演じる男と、大蛇の首の会見は、薄氷を踏む危機をこえて、平和裡に終わり……。


「伊吹さんってば、なに、さっきの? 国家元首相手に、とつぜん厨二病ちゅうにびょうを発症したの?」

「さ、さすがは始業式の日に、クラス全員へ喧嘩をうった女だ。面構えが違う」

「先代って、御両親が知りあいだったのかな? だとしてもロックすぎるわよ」


 遥花や栄彦の懸念を尻目に、賈南はクラスメイト総出で無事を喜ばれ、ある種の勇者として認められた。


「いやー、残念残念。わらわってば、さっきは出雲桃太のヒロインレースをぶっちぎれると思ったんだけどなあ」

「賈南さん、それって悪い意味で!?」

「そもそも賈南ちゃんは、出場していないサメー」


 カムロは、地面に押さえつけられた額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太や、自身の養女であるサメの着ぐるみをかぶった少女、建速たけはや紗雨さあめと、賈南がはしゃぐ姿を見て肩をすくめ……。


「あれが、伊吹、いや獅子央ししおう賈南か。昼行燈ひるあんどんをきどる邪悪な竜ファフニールといい、今代の八岐大蛇の首もクセモノ揃いだな」


 誰にも聞こえないほどに小さな声で、そうつぶやいた。


桃太とうた君と紗雨達は、僕の後からついてきて欲しい。乂は、プロレス技を解いてこっちに来い。いいきっかけだから結界術についても教えよう。学ぶべきことが山ほどあるって、自覚しただろう?」

「オーケー、助かるぜ。今回は、相棒の足を引っ張っちまった。強くならなきゃいけないからな」


 カムロは、追いついてきた金髪少年、五馬いつまがいを振り返り、仮面越しにも伝わるほどの真剣な瞳で問いかけた。


「乂。里を出てから、お前と、お前の持っているその短剣に、何か変化などなかったか?」


――――――――――

あとがき

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