第422話 人間と〝鬼神具〟の関係

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「私の物真似としちゃあ、たいしたものだけどね。筋肉も反応も鍛えなければついてこないんだから、反復練習が足りていない。それに見たところ、五馬いつまがいの弱点は、あの赤茶けた、黄金色に輝く短剣――〝鬼神具きしんぐ〟とのコミュニケーション不足だね」


 師匠である翡翠ひすい色のビキニアーマーを着た女傑、セグンダの五馬乂に対する容赦のない指摘には、弟子である鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒いしぬきみろくだけでなく、彼の副官である黒騎士までもが目を丸くした。


「ヒャッハァっ、意外な弱点があったものだぜ」

「ああ、まさかのコミュニケーション不足とはな」


 満勒も黒騎士も、自らの鬼神具と良い関係を築くという点では、同世代に並ぶものがなかった。……それ故に盲点だったのだ。


「ファファ。ヒキコモリ志望と目立ちたがりニンジャが、話し合いもせずに仲良くできるわけないんだよなあ……」

「師匠?」


 セグンダは何でもないと独白をやめて、満勒に向かい合った。


「満勒。〝鬼神具〟と付き合うなら、〝鬼の力〟を無理やり引き出そうとしたり、恵んでもらうのではなく、――力を合わせることが肝要なのさ。鎧と腕に慣れてきた黒騎士君はもちろん、満勒だって冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟と初めて戦った頃と今じゃ、戦い方もずっと成長しているだろう?」

 

 セグンダのアドバイスに、満勒は丸太のように分厚いヒザを打った。


「なるほど、わかる気がする。俺様はムラサマと話せるが、黒騎士はどうやって意思を伝えているんだ?」

「この黒い鎧は、私の生命維持装置を兼ねているし、機械の義腕も日々一緒に過ごしている。だから、なんとなくだが、コイツらのやりたいことが伝わってくるし、強くなる為にも叶えたいと思う」

「そうでち。一緒に肩を並べて戦っていれば、分かり合えるものでち」

「そうだよな。仲間だもんなあ」


 出雲桃太の親友、くれ陸喜りくきこと黒騎士。

 日本人形めいた少女に化けた妖刀ムラサマ。

 彼女の使い手である石貫満勒は、したり顔で頷きあったが――。


「ファファ。満勒も黒騎士君もムラサマちゃんも、隣の二人、久蔵きゅうぞうの爺様と、道子みちこお嬢さんを見ても本当にそう思うかい?」

「「「え」」」


 三人は、セグンダが「うしろうしろ」と口をパクパク動かして指さすので、つい振り返ってしまう。


「「「げ」」」


 そこには、とんでもない光景があった。


「フホホ、可愛い可愛いうた艶姿あですがたよ。目に焼き付けねば無作法というもの。そこだ、ナイスふともも! しかし、なぜジャージのズボンなのだ。ミニスカートにしてくれ、パンチラが見たいのおおっ」


 六辻ろくつじ久蔵きゅうぞう

 元勇者パーティ〝SAINTSセインツ〟を牛耳ぎゅうじ六辻ろくつじ剛浚ごうしゅんら主流派閥の非道なやり口を受け入れられず、反旗を翻した老人は、孫ほどの年齢の赤いお団子髪の少女、六辻詠の活躍に興奮して目を血走らせていた。


「詠さま可愛いよー。抱きしめたい、匂いをかぎたい、舐めまわしたいよー」


 そして、炉谷道子ろたにみちこ

 今では冒険者パーティ〝G・Cグレート・カオティックH・Oヒーローズ・オリジン〟の参謀だが、かつては六辻詠の家庭教師を勤めていた過去があり、面倒を見ていた愛弟子の活躍を食い入るように見つめながら、目と鼻と口から様々な液体を垂れ流していたのだ。

 

「二人とも、冒険者育成学校の臨時講師だった時の面影ゼロっ。確かに近づけない」

「こ、こえええよっ。夜中にトイレへいけないよ」

「か、肩を並べることと、性癖を受け入れることは別物でち」

「久蔵じいさんと、炉谷さんはお楽しみのようだから、しばらくそっとしておこう」


――――――――――

あとがき

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