第六部/第二章 ライバルパーティ〝G・C・H・O〟と地球の動向

第417話 地球日本にて

417


「次の戦場はクマ国か、地球か。ダーリン、生き延びてくれよ」


 西暦二〇X二年八月一二日夜。

 昆布のように艶のない黒髪のスレンダー少女、伊吹いぶき賈南かなんは、異世界クマ国へ入国する直前に、自らが見た、冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の〝戦いの記憶〟を鬼術で映像として出力し、ヘビの式鬼しきおにに託して地球上へと送った。


(とはいえ、出雲いずも桃太とうたが使っていた〝鬼神具きしんぐ〟――黄金色に輝く短剣が干渉したのか、五馬いつまがい三縞みしま凛音りんねを救出した後は、まるでドラゴンヴァンプの喉首を切り裂いた直後に勝ったかのように編集されてしまったのお。それでもダーリンにとって、貴重な政治カードになるだろう)


 賈南が送った式鬼は、冒険者組合代表たる獅子央ししおう孝恵たかよしの元へ最速で届けられた。


「信頼できる筋から情報が入ったよ。桃太君達が日本国へクーデターを起こしたテロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の首魁しゅかい七罪ななつみ業夢ぎょうむを捕縛したんだ、な。同様にクーデターを起こした六辻家や〝SAINTSセインツ〟にもわかるよう、この動画と一緒に公開するぞ!」


 今はまだ異世界クマ国の存在を一般に明かせないため、第一戦目にあたる防諜部隊ヤタガラスとの戦いはそっくり削除したものの――。

 孝恵と冒険者組合は、桃太と冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟が、元〝鬼勇者ヒーロー〟、七罪ななつみ業夢ぎょうむが率いるテロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟を倒した二戦目、ドラゴンヴァンプを退治した三戦目の映像を、テレビニュース、ラジオ番組、動画投稿サイト、SNSソーシャルネットワークサービスなど、ありとあらゆる手段で拡散した。


「この映像で、犯罪者達の足元をくずすんだなっ。〝鬼の力〟に染まり、欲望のままに集まったのがクーデター軍だ。混乱は避けられないんだ、なっ!」


 新進気鋭の勇者、出雲いずも桃太とうたがまたもドラゴン退治を成し遂げたという情報は、日本中を駆け巡る。

 孝恵が立案した青絵図の通り、その宣伝効果は絶大だった。


「ちいいっ。あの老害が捕まった以上、今後は俺が仕切らせてもらう」


 七罪業夢は、数え切れないほどの裏切りを繰り返した自身の経験から……。

 野望の集大成である異世界クマ国侵略に同行させたのは、索井さくい靖貧せいひん郅屋しつや豊輔ほうすけのような、信頼の置ける子分ばかりだった。


「ふざけるな。上が丸ごと消えた以上、次のリーダーは僕だ。命令に従え!」

「何様のつもり? 次のリーダーは私に決まってる!」


 そのただでさえ少ない忠義者が、桃太達に敗れて捕まり、あるいはクマ国で引き起こした要人誘拐や略奪といった犯罪が露見して拘束されたために……。

 元勇者パーティ〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の秩序は、あたかも波にさらわれた砂城のように儚く崩れ去った。

 残されていたメンバーは、もともと利権目当てに参加していたチンピラが大半とあって、次の指導者にならんと勝手気ままに暴れ、内部闘争を始めてしまう。


「はーい、お疲れちゃん。逮捕するよ」

「お、お前は元勇者パーティ〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟の東平ひがしたいら孔偉こういかっ。お前も一年前はテロに加担して、捕まっていたろうが!」


――――――――――

あとが

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る