第363話 影の使役術〝七つの大罪〟を打ち破れ

363


「こ、このっ。仇討ちなどという卑小な動機でしか戦えない小物どもめ。わしは地球を、異世界クマ国を、異界迷宮カクリヨをすべる。そして、三界にわしを崇める絶対的理想郷、地上の楽園、ユートピアを作り上げるのだ。その偉業を、その理想を邪魔させんぞおっ」


 テロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の首領、七罪ななつみ業夢ぎょうむは自らの影から、これまで繰り出した〝影の使役術シャドーサーバント〟を全て展開した。すなわち――。


傲慢ごうまんの剣〟

嫉妬しっとはさみ

強欲ごうよくの槍〟

怠惰たいだの槌〟

暴食ぼうしょくの針〟

色欲しきよくなわ

憤怒ふんどの大剣〟


 という、七つの武器だ。


「『ヤコブの手紙』に曰く、救世主は〝人は皆、聞くに早く、語るに遅く、怒るにも遅くあるべきである〟と言ったそうだが……。そうとも、わしは聖書を重んじてなどいない。権力と金儲けの道具だと思っているとも。だが、そんな輩は、有史以来、星の数ほどいたはずだ」


 業夢はカメレオンのように長い舌を振り回しながら、血走った目で叫んだ。彼の肉体に七種の武器が張り付いて、全長三メートルにも及ぶ〝影の使役巨人ジャイアント・シャドーサーバント〟へ姿を変えた。


「この七つの武器を変化させることで、至高の鎧を身につける。これこそわしが焔めから奪い取り、鍛え続けた唯一無二の〝勇者の秘奥〟! 究極の〝影の使役術シャドーサーバント〟、〝七つの大罪〟よおっ。怯え嘆きながら死ぬが良い!」

「業夢さん。それが、どうしたんだ?」


 されど、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太のジャンプアッパーが影の巨人、〝七つの大罪〟の顎に突き刺さり、影の刃が生えたフルヘルメットをあっさりと砕いた。


「な、なぜじゃ。なぜ、わしの理想を体現するための奥の手じゃぞ。なぜ通じない?」

「理想なんて言葉で誤魔化すな。聖書を権力と金儲けの道具だと抜かしたばかりだろうがっ。お前はどこまでいっても他人の血をすする外道なんだよ」


 仮面となった金髪少年、五馬いつまがいが、再び桃太の肉体を借りて繰り出すチョップ乱打が、影巨人の腹部装甲を藁のように引き裂いて……。


「ニャーッ(貴方の強さは、もはやハッタリに過ぎないわ)」


 三毛猫に化けた少女、三縞みしま凛音りんねが足をげしげし蹴りながら宣言する。

 そう、もはや業夢の強さを支えた手品の種は割れているのだ。


「〝傲慢の剣〟よ、〝嫉妬のはさみ〟よ。このガキどもの血をすすれ!」

「業夢さん、アナタは強い。膨大な経験に裏打ちされた、戦場をコントロールする能力は俺たちのずっと上をいくだろう。けれど単純な力勝負なら、俺たちが勝る。我流・直刀ちょくとう!」


 業夢は巨人の右太ももから影の剣、左太ももから鋏を繰り出すも、桃太は衝撃をこめた足でバキバキと踏み砕き――。


「な、ならば〝強欲の槍〟と〝怠惰たいだつち〟でどうだ!」

「オーケーっ、相棒まかせろ。ラリアット!」


 続いて業夢は右手から影の槍を、左手から影の槌を撃ち出したものの、乂が借りた桃太の右腕でパキンと粉砕――。


「ならば、針と縄なら」

「燃えなさい」


 最後に業夢は苦し紛れに、影の針と影の縄を背中と腰の死角から飛ばしたものの、凛音が待っていましたとばかりに瞳のレーザーでジュッと焼いた――。


「あああああああっ。ふざけるな、ふざけるなああ!」


――――――――――

あとがき

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