第175話 協力技炸裂

175


 クーデターの主犯、四鳴しめい啓介けいすけは、自らが使役する〝式鬼しきおに〟赤い八本足の虎、〝八足虎はっそくこ〟を地雷で吹き飛ばされたものの、めげずに〝鋼騎士ギガース〟を再突入させた。


「キシシシッ。地雷がどうした、肉盾で処理すればいいだけのことよ! 圧倒的な数、最高の防御力、無敵のパワーでねじふせてやる」

「酷い処理方法。命をなんだと思っているの?」


 瓶底メガネをかけた少女、祖平そひら遠亜とあは、軍勢の接近にも慌てず騒がず、胡蝶蘭こちょうらんと呼ぶスーツケースを再び開く。


「本当の地雷処理をみせてあげる。出雲君の新技、螺子回転刃カシナートまではいかなくても、似たことは出来るのよ。爆導索ばくどうさく、投下」


 遠亜が地雷原に投げ入れたのは、ロープで結んだ無数の爆薬だ。

 カヤクバコノミから作られた地雷が新たな火種で着火して、何十何百という連鎖的な爆発が生じ、灰色鎧の騎士達を湖の外縁まで吹き飛ばした。


「なんなのだ、いったいどういうことだ。お前たちが使っている技術は、冒険者組合最大の工業力と商業力を持つ四鳴しめい家にもないぞ。いったいどこから盗んできたというんだい?」


 オレンジ髪の青年、四鳴しめい啓介けいすけは、全長一〇メートルに達する巨大ロボット、神鳴鬼かみなりのおにケラウノスのコックッピットから、拡声器を使って怒鳴り散らす。


「馬鹿馬鹿しい。何が最大の工業力に商業力だよ。盗むことしかできないドロボーは、四鳴家と〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟の方じゃないか」


 しかし、遠亜の親友であるサイドポニーの目立つ少女、やなぎ心紺ここんは、啓介に無理やり〝S・E・I〟に参加させられていた経験もあることから、容赦なく切って捨てた。

 実のところ、〝鋼騎士ギガース〟が使う蒸気機関は、半世紀以上前に異世界クマ国で開発されたものを組み込んだだけ。

 灰色の鎧も、オウモこと寿ことぶきちんが開発した〝黒騎士〟のデータを盗んで劣化模倣デッドコピーしただけ。

 と、これまで四鳴家が我が物顔でみせびらかした技術のすべてが、日本政府と冒険者組合が研究中だった情報を盗んだものだった。


「〝鋼騎士ギガース〟は強いけど、アンタみたいなバカボンボンが操っているから、まるで使いこなせちゃいない。ケラウノスに乗ってる癖に後ろから動かないのも、出雲の草薙が怖いからだろ?」

「だ、だまれ」


 心紺の指摘は真実であり、神鳴鬼かみなりのおにケラウノスのコックピットに座した啓介は、聞きたくないと耳を塞いだ。


「心紺ちゃん。もっとはっきり言ってやろう。技術の新しさなんて関係ない。四鳴啓介、貴方の頭が錆びついている上に、臆病だから負けるんだ」


 その上、遠亜の煽りは効果覿面こうかてきめんで、啓介は怒りのあまりに一瞬、呼吸すら忘れた。


「黙れよおおっ。私こそが天に選ばれし英雄、愚民を前例のない未来へ導く、最高の革命者!!」

「啓介にできることなんて、自分を破滅に導くのがせいぜいだよ」

「傲慢な独裁者は滅びるのが、歴史の定め。今度は貴方の番だ!」


 四鳴啓介は口角泡をふきながら、手元の戦力を手当たり次第に突撃させるも、柳心紺と祖平遠亜は待っていたとばかりに、連携技で迎え撃った。


「「鬼術・射手座サジタリウス!!」」


 天から雨のように降り注ぐ剣と、地から巻き上げる地雷と爆導策が、〝鋼騎士ギガース〟と〝八足虎はっそくこ〟で構成された前衛部隊に大穴を空ける。


「柳さん、祖平さんが作ってくれたチャンス、逃しはしない。我流・長巻!」

「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼バルバトス〟。戦闘続行!」


 心紺と遠亜が切り崩した隙をつき、桃太は衝撃の刃を振るい、黒騎士は銃弾を撃ち込んで、敵軍をさらに無力化してゆく。

 啓介は、バラバラになってゆく操り人形達を見ながら、〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟という己が帝国の崩れゆく音を聴いた気がした。


「う、嘘だ。これは何かの間違い、悪夢だ」


――――――

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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