第49話 ザエボスの調伏

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「「舞台登場、役名変化チェーンジ――〝忍者〟。ヒアウィゴー!」」


 出雲いずも桃太とうたが手にした〝鬼神具きしんぐ〟、赤茶けた短剣が光を発し、五馬いつまがいはヘビ顔の仮面となって桃太の顔に張り付く。

 風が吹いてニットシャツとマウンテンパーカーが、黒装束へと変化。ザエボスの銃弾にえぐられた右肩が〝鬼の力〟で治癒ちゆされ、再生する。


「劣等生が生意気なっ。鬼術・三〇連魔団砲サーティ・レギオン!」

「優等生気取りの殺人鬼め。一度見せた大技が何度も当たるものか」


 ザエボスは変身中がチャンスと見たか、右半身から伸びる拳銃から魔弾を連射した。

 とはいえ、桃太の変身は、相方である五馬いつまがいの意識が宿る仮面が張り付き、服が再構成されるだけだ。

 回避行動になんら支障はなく、弾丸を置き去りにして空を自在に駆けた。


伏胤ふせたね健造けんぞういや、〝鰐憑鬼わにつきのおに〟ザエボス。お前はここで倒す!」

「何度やっても同じだ。劣等生の力じゃあ、俺の〝鬼神具きしんぐ〟の装甲、ワニ皮は貫けない!」


 桃太はバク転を決めつつ着地し、固い皮膚に守られた左半身を殴りつけようと意気込むも――。


(アメイジング! 相棒、だったら狙うのは銃口はどうだ?)

(乂、声に出さずとも伝わるのか。わかった!)


 乂が直前に念話でアドバイスしたため、桃太は拳銃と一体化したザエボスの右手を殴り砕いた。


「GIYAAA!? 防御、防御は左だ。どっちが右手でどっちが左手だ?」


 ザエボスはパニックに陥ったのか、戦場のど真ん中で左右の手を見比べる醜態しゅうたいさらし――。


「出雲を援護する。おれに続け!」


 林魚隊が息も絶え絶えながら石をぶつけて、悪魔の集中を乱す――。


「雑魚どモが、腹が減ってるンだよ、喉が乾イてるンだよ。飢え死にしたらどうする。邪魔するンじゃねえ!」


 ザエボスは空腹に耐えきれなくなったのか、両目を赤々と光らせながら、防御を捨ててわにの大口で噛みつき、ワニ皮の装甲を再び無数の皮鞭に変えて、一か八かの攻勢に出た。

 されど桃太もまた目を青く輝かせ、乂と自身の力を引き出す〝巫の力〟を発動させる。


「頭に血が上ったか。こうも単調な攻撃なら読めるぞ。我流・直刀ちょくとう!」

「やるじゃないか、相棒!」

 

 桃太は役名が〝斥候〟から〝忍者〟に変わったことでより速度が増し、ザエボスの皮鞭の乱打を左手でさばきながら、鰐のアゴ下を膝で蹴りあげた。


「ギャァAAA!?」


 そうして風をまとう右手のひらを、機械の右半身と鰐の左半身の境目に当てる。


「乂、伏胤に取り憑く〝鬼の力〟は、ここで断とう!」

「おうともさ。さあ、相棒。一緒に地獄カクリヨを楽しもうぜ。必殺、螺旋掌らせんしょう!」

「うわあああっ、バカなAAA!」


 桃太と乂は力を合わせ、青く輝く手のひらから放つ暴風で、ザエボスの機械仕掛けの右半身とわにの異形となった左半身を包み込み、粘土細工のように破壊した。

 伏胤ふせたね健造けんぞうの肉体に張り付いていた〝鬼の力〟は、赤い霧や黒い雪となって吹き飛ばされる。


「よし、これなら!」


 桃太は、両手の人差し指を立てて印を結び。


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん――九字封印!」


 左手で右手を覆って、九つの印を結び終えた。


「えっ!?」


 しかし、遥花を救った時とは異なり、眼前の光景は何も変わらなかった。


――――――――

あとがき

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