第14話 暴走する鬼の力

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 出雲いずも桃太とうたは、五馬いつまがいを名乗るヘビのお面と力を合わせ、恩師である矢上やがみ遥花はるかが変貌した身長三メートルの鬼女〝夜叉ヤクシニー〟に挑んだ。


「乂、どうする? 四本の腕と剣が怖いし、まずは距離をとって牽制けんせいするか?」

「ここは川辺だし、最初は投石で様子を見るか。桃太、合わせろよ。ローック、ファイッ!」


 桃太が河原から石を拾って投げ、乂が風を起こして加速させる。

 二人の連携で、二〇個もの石片を機関砲に迫る勢いで叩きつけた。


「AAAA!」


 しかしながら、夜叉は四本の腕で四振よんふりの剣を振るい、石礫いしつぶてを片端から切り捨ててしまう。


「くっ、効かないのか」

「シャシャシャ。だったら、こうだ。風遁ふうとんカマイタチ……、いや、ソニックブーム!」


 続いて、乂は腰帯から黄金に輝く短刀を抜いて逆手に構え、刀身に風を圧縮して不可視の刃を放ち、夜叉の左太ももに命中させた。


「おおーっ、あたった?」

「シャシャッ。どうよっ!」

「AAA! イイコッ、イイコ!」


 乂は喜色満面で親指を立てるも、夜叉は赤い霧と黒い雪で作り上げた盾を寸前で展開して、風の刃を受け止めていた。


「AAAAA! イイコダカラ……」


 彼女が四本の腕で握る四振の剣――。

 右の二本には灼けつく熱気が、左の二本には凍てつく雪がまとわりついて、刀身がゆらゆらと伸びてゆく。


「……タベテアゲル!」


 夜叉が突き出した剣から、熱風と吹雪があたかもビームのように放射されて、周囲一帯を薙ぎ払った。

 河原の一部は石が溶けて真っ赤なガラス状に変わり、川面の一部も水が固まって真っ白に凍りついてしまう。


「う、うわああっ」

「まずい、サメ子、手伝え!」

「サメメメメメッ!?」


 桃太と乂は、空飛ぶサメの口に襟首を引っ張られて浮遊し、辛くも直撃を免れた。まともに喰らえば、ひとたまりもなかっただろう。


「おい、相棒。お前の先生って近接職じゃないのか?」

「そ、そういえば、矢上先生の役名は、魔法職だった気がする」


 遥花は、元は〝白鬼術士ヒーラー〟だったが、〝夜叉やしゃ羽衣はごろも〟を得たことで、黒鬼術くろまほうも使える〝賢者ワイズマン〟に変わったのだと言っていた。


「チッ。桃太、腹をくくれ。こうも術の範囲が広くちゃ、接近しないとすり潰されるっ」

「わかったよ、乂。それに、ええと」


 額に十字傷を刻まれた少年が、空飛ぶサメをどう呼ぶか迷っているのを見て、ヘビのお面は口をバッテンに歪ませながら説明した。


「こいつの名前は、建物の〝建〟に速度の〝速〟、いとへんにすくないと書く〝紗〟と天から降る〝雨〟で、〝建速たけはや紗雨さあめ〟だ。面倒くさいから、サメ子でいいんじゃないか?」

「サメエッ!」


 乂のデリカシーに欠けた発言は、紗雨の機嫌をいたく損ねたらしい。乂の巻き添えとなった桃太は、仮面の彼と一緒に夜叉の間近へと放り投げられた。


「AAAAAA!」


 夜叉が獲物を待ち兼ねたとばかり、四振の剣で斬りつけ、妖艶な肢体にまとわりつくコブラが火の玉を吐き出す。


「う、うわああっ」

「オレを信じろ、オレ達の方が早い。相棒と一緒なら、どんな鬼だって退治できるさっ」


 桃太の肉体が、乂の風に押されて加速する。

 第一撃、コブラ蛇の放ったラグビーボール大の火球を難なく避け――。

 第二撃、ドーン! と爆風を伴う斬撃をステップで潜り抜け――。

 第三撃、ビュービューと吹き付けてくる黒い吹雪を、黄金の短剣から放つ風刃で相殺した。


「先生、今、助けますっ」

「四本の腕があっても、使いこなせなきゃ飾りなんだよおっ」


 桃太と乂は短剣を腰帯に戻し、左右から手刀を繰り出して、鬼女に残された二つの剣を叩き落とした。


「やった!」


 桃太は、遥花から攻撃手段を奪ったことで、気を緩めてしまった。

 乂はその一瞬で身体の操作権を奪い、握りしめた右拳で、主人の盾となったコブラ蛇の頭を粉砕、無防備になった夜叉の腹部を撃ち抜いた。


「AAA!!」


 身長三mの鬼女は、仮面の顔を苦痛に歪め、〝く〟の字に身体を折って悶絶する。

 矢上遥花の成れの果てを、ヘビのお面となった乂は憎々しげに睨みつけた。


「ああ、やはりお前だったかリボン女。オレにはもう曖昧な記憶しかないが、お前の匂いは覚えている。獅子央ししおう賈南かなんと同じ、瑠衣るい姉の仇。ここで殺す!」

「AA……」


 そして、戦闘ならざる暴行が始まった。殴る、殴る、殴る。相手を鎮圧するのではなく破壊する為に。

 桃太は、自らの肉体を必死で抑えつけようとするものの、狂気に囚われた乂にいいように使われるばかりだった。


「乂、やめろ。お前、〝鬼の力〟に憑かれているぞ。俺は先生を殺したいわけじゃないっ」

「姉貴だって死にたくなかっただろうさ。それでもオレを命懸けで逃して、この迷宮で力尽きたんだ。だから、殺す。邪魔な連中は、一人残らずぶっ殺してやる!」


――――――――

あとがき

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