アイツは推しカプの部屋の壁になりたい
292ki
アイツ
二人で分けるために買ってきたアイスを一人で食べるのは虚しい。
しかし、誘った相手に断られてしまったならそれは仕方なし。一人で食べるしかない。
「いや、オレに頂戴よ」
そう考えてアイスを二本口に突っ込んで食べていると隣に座っていた幼馴染が文句を言った。
「いやだ。これは蒼太に分けるために買ったんだ。お前にはやらん」
「そんなにソウくん大好きなのに、なあんでアキちゃんはソウくんと喧嘩しちゃうかなぁ。今回の喧嘩の原因は?」
「…………覚えてない」
「そんなんで喧嘩するなよ〜」
べしべしと肩にパンチを入れてくるのがウザくて俺はアイスを咥えたままそっぽを向く。コイツは相手にすればするほど調子に乗るから、ウザ絡みを回避するには無視するのが一番だ。
そう、蒼太に教えられた気がする。
「まーた無視する。アキちゃんもソウくんに毒されてきちゃったなー。まあ、それで二人の仲が深まるなら良いけどね?オレの推しカプが幸せなら万事それで良し!」
「……前から言ってるけど、オレら別にそんなんじゃねーぞ」
推しカプだの何だのとコイツが言い出すのは初めてじゃない。その度にオレたちは別にそんなんじゃないと否定するのもいつものことだ。
「そんなんじゃなくても、ほんの小さな可能性から関係性を見出すことがオレには可能なんだよ。あ〜アキちゃんとソウくん、一生仲良く幸せに過ごしてくれ〜オレはそれを見守る二人がいる部屋の壁になるから〜!!」
「デカい声で何言ってんだ!」
「推しカプの部屋の壁になりてぇ〜!!概念になりてぇ〜!!二人の人生に介入したくないけど観測はしたいよ〜!!」
「おい、今すぐ黙れ!!」
「あ、アキちゃんアイス溶けちゃうよ」
「てめっ、このやろ……!」
散々大騒ぎして急に静かになるのもいつものことだ。俺はもう腹が立ち過ぎて絶対に視線を合わせてなどやるものかと体ごと距離を取った。無視だ。無視。
「アキちゃんが冷たい〜」
「…………」
「アキちゃんが無視する〜」
「…………」
「アキちゃん〜?アーキちゃん」
「…………」
「ねえ、アキちゃん。もうすぐソウくんが来るよ」
「…………」
「ソウくんが来たらきっとすっごい怒られるけど、代わりにゴメンって言っておいて」
「……自分で言えよ」
「言えないから頼むんだよ。中途半端でゴメンって言っておいて。オレ、推しカプの部屋の壁になりたいのは本当なんだけど、二人に幸せになってほしいのも本当なんだけど、でもまだここにいるからさ。いるからついつい話しかけちゃうんだよ。アキちゃんも優しいんだもんな〜。まだ、覚えててくれるなんて」
「お前、何言って──」
「じゃあね。アキちゃん。オレのこと、早く忘れてよ」
オレは推しカプの部屋の壁っていう概念になりたいんだからさ、とアイツが言ったのが聞こえた気がした。
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