第25話
「クソ……ッ!!」
初めからそのつもりだったってことかよ!
のんびりエレベーターを待っている暇はない。人混みを描き分けて下りの階段に飛び込む。
連中がミーアに何かしらの私怨があることは判っていた。それを逆手にとって彼女はワザと捕まったのだ。
『このまま放っておくと、誤って貴方の秘密を口外してしまうかもしれない』
という趣旨の言葉を添えて。
おまけにこんな事件が身近に起きたなんて誰かに知られてみろ。一緒に居た俺まで周りからの注目を集めかねない。そうなったら学院内での俺の行動はかなり制限されてしまう。
そうならないための方法はただ一つ。たった一人で俺はミーアを連中から救わなければならないってことだ。
階段の踊り場から踊り場へと交互に跳びつつ、あっと言う間に一階へ辿り着く。
それよりも一足先に辿り付いていたエレベーターと、すぐ近くの出入り口に停車していた黒のバンが眼に留まる。黒い
俺が入り口から飛び出した時にはもう、東京の夜闇へ消えゆく紅いテールランプの余韻しか残されていなかった。
「クソッ、クソ、クソ、クソォ!!」
近くにあった縁石を蹴りつける。
数時間前までは何もかも予定以上に順調だったってのに、ちょっと気を緩めればこのザマだ。
何を浮かれていたんだお前は。もう忘れたのか、あの日に誓った執念を。
仕事用のスマホを取り出してアプリを起動させる。
指紋と心音認証。ログイン完了。AI音声、通称『
『ようこそファンタズマ所属、
視界に映し出されるあらゆる情報、計器類、文字が陳列する。
先程ミーアが使用していたVRデバイスの最新鋭、コンタクトレンズ型の魔学式ウェアラブルビジョンを展開させた。
瞼の内に溜まる微量魔力に細工を施すという、そこに在りながら存在しない画面情報を脳内処理させながら、俺は次々に必要な情報だけをピックアップしてクリシスへ指示を飛ばす。
「状況ランクD、戦術データコネクト接続。監視カメラから追跡対象捜索を申請。対象情報連携」
『権限確認、承認されました。位置をリアルタイムで反映させます』
街の監視カメラを経由して映し出されたのは、先ほどの黒いバンだ。
ここから距離にして約数百メートル。まだ追いつけない距離じゃない。
近くの駐車場からスポーツカーを見つけ、ドアノブに手を当てる。
『緊急事態に付きロック解除。オーナーIDを
「────お前、俺の車に何してんだ!!」
車に乗り込もうとした俺の背後から、高級スーツと両手に女を
懐からバッと手帳を取り出しながらエンジンに火を入れる。
「失礼、いま眼の前で誘拐事件が発生した。犯人逮捕の為にこの車両をお借りしたい」
「それは警察手帳か?だとしてもこんな捜査は聞いたことないぞッ!」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ……」
運転席のドアガラスを下げ、激昂する青年の額に銃を突きつける。
傍らの女達の悲鳴が上がった。
「使ったあとは千代田区の警視庁に返しておくから、チンパンジーみたいに喚くなクソ一般市民。あとこれ、代わりのタクシー代」
腰を抜かした青年に一万円を放り捨て、そのままフルスロットルでアクセルを回す。
ドロドロと渦巻く怒りの感情を表すよう、けたたましい重低音を響かせながらスポーツカーは走り出していった。
◇ ◇ ◇
首都高環状線の追い越し車線を爆速で走る赤いスポーツカー。
ルーレット族のような荒い運転でハンドルを操作しながら、俺は応援を呼ぶべくアクティブユーザーを検索する。
「
『
相変わらずマニュアルに背かない生真面目な野郎だ。
苛立ちに任せて邪魔な前方車両に思いっきりクラクションを鳴らす。
少々気は乗らないが仕方ない。流石の俺も一人で未知数の敵とやり合うリスクは避けたい。
「クリシス、
『
黒のバンが下りた向かった先、台場行のジャンクション降りる最中、まるで人間のようにクリシスが口籠った。
「なんだよ、なんか問題でもあるのか?」
『いえ、あの……人工衛星の極秘スーパーコンピューターたるこの私が演算した結果では……その……
「余計な枕言葉は要らない、結論だけ言え」
『……副業中です』
「は?」
『だからその……
振りかざした拳が再度クラクションを大きく、そしてさっきよりも甲高く響せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます