お前は海に何をしに来たんだ?
「海だ~!」
「砂浜だ~!」
「屋台だ~!」
「水着の姉ちゃんだ~!」
「おいおい最後の人発言には気を付けてください」
いや~移動時間長かったな。神様パワーでワープして到着!みたいなことしてみたかったけど普通に電車で移動になりました。
おかげでちょっとお尻が痛い。約一名、退屈で死にそうになってる奴がいたけれどそんな姿はもうないそうだ。
「いや~それにしても人が多いな」
「そうだね~」
「やっぱり夏休みだから多いんですかね?」
「でも、場所が取れない程混んでるわけじゃないから早く場所取りしちゃいましょう」
「そうですね」
この中で唯一の男なので当然、荷物持ち担当。いや、結構重いんですけど。シートにパラソルにクーラーボックスにスイカ等々。ちょっとぐらいは持って欲しいななんて思ってみたり。
「ここらへんでいいんじゃない?」
「わかったから砂で変なもん作って俺を呼ぶな!」
「変なもんって何よ!私はただ、勇ちゃんならわかる目印を作ってるだけじゃない!」
「俺以外の奴でもわかる目印にしろ!」
どこに行ってもエンジン全開なの凄いよね。そんなイリスさんの事を僕は尊敬しません。
下ネタ戦車なんて誰が尊敬するか。
「とりあえず、私たちは着替えてくるから」
「俺も着替えるんだが?」
「いいじゃんここで着替えれば」
「なぜそうなる!」
まあ、下に水着履いてるんですけどね。こっちまで来て着替えるのめんどくさいし。
じゃあ、なんでそんな受け答えしたんだよって話しなんですけどね。
「......にしても人多いな~」
砂浜全体は人だけで埋め尽くされそうな感じがする。広い所ではあるのだが、それを上回る人数がこの海に集まっている。
ミーハーな奴らめ。かく言う私たちもそんなミーハー集団なんですけどね。
できる限り同級生とかいないといいな~。外で知り合いと会った時が一番気まずい。
「やあ勇凛君。こんなところで何をしてるんだね?」
「......って気まずい枠はお前なのかい!」
「急に気まずい奴とか言われると流石の僕でも傷つくよ......」
何故だ!何故龍之介先輩なんだ!こういう時は翔平か朱奈だろ!
そういえば龍之介先輩と言葉を交わすのは生徒会選挙以降、一度もなかったっけ。
「......で、なんで龍之介先輩はここにいるんですか?」
「あぁ。姉さんが急に海に行きたいとか言い出したから仕方なく着いてきてるんだ」
「なんで急に海なんかに?」
「多分だけど、ここの海に君たちが遊びに行くことを誰かから聞いたからじゃないか?」
「......執着心が強いですね」
「それは僕も思うよ」
そんな姉に呆れる龍之介先輩。生徒会選挙以降はそんなに綾華先輩と麗子先輩が絡むことは無くなった。
いつも一方的だったから絡むという言葉は正確ではないかもしれないけどね。
「それじゃあ綾華先輩に会うためだけにここに?」
「そうだね。でも、せっかく海に来たんだし一緒に来た他のメンバーと僕は遊んでるよ」
「いつも思いますが大変ですね色々と」
「まあね。でも、今回は遊ぶだけだから姉さんのワガママに初めて付き合ってよかったと思ってるよ」
そう言い放ち龍之介先輩はこの場から去っていった。
やっぱりどこか変わった先輩だ。
「......うぅ」
「アルテミスさんや。なぜ泣いておるのかね?」
「......水着忘れた」
「......お前は何しにきたんだよ」
「......海に遊びにきました」
じゃあなぜ忘れる。一番大事なものだろうが水着が。
「なんで忘れた?お前みたいな奴は大体来てくるだろ?」
「偏見が凄いよ勇くん!」
だって子どもっぽいし子どもっぽいから。
「......置いてきた鞄の中にある」
「......」
アホだなこいつ。どんな時も平常運転で逆に凄いよ。他の荷物は忘れてないよな?
「他は大丈夫だと......思う」
「......ホントか?」
なんか忘れてそうだよな。財布とかタオルとか。
「そういえば他の奴らは?」
「まだ着替えてるよ~。もうすぐ来ると思うけどね」
女子更衣室は混んでるのかな?人多いし小さい建物だった気がするからすぐには使えないかもな。
「イリスたち来るまで遊ぼ~」
「何するんだよ?」
「うーん砂遊び」
公園かここは。やるけどさもうちょっと海っぽい感じのいい方して欲しかったな。
「城でも作るか?」
「ううん。勇くん埋めたい」
「今日のお前怖いよ!」
「怖くないでしょ?テレビで見てやってみたかったんだよね~」
「......埋められる側じゃないんだ」
大体そういうのって埋められる側じゃないの?埋める側したいってあんまり聞いたことない気がするけど。
「早く早く~。勇くん来てよ~」
「わかったわかった。埋められてやるから待ってろ」
早く終わらせてくれよ。イリスが来る前に終わらせて欲しい。アイツが来たら何してくるかわかんないからな。
「よ~しじゃあ埋めるよ~」
「パパっと埋めてくれ」
「りょうか~い」
結構時間かかるよな埋められるのって。一人じゃそんなに早くは終わんないと思う。どのくらい掛かるんだろ?
「終わったよ~」
「早すぎないか!」
「こういうのは得意なんですよ!」
「まあ犬は穴掘り早そうだしな」
「犬じゃないですけど!」
ホントじゃん。俺、もう砂に埋まってるんだけど。一分も掛かってないと思うんだけど......
「これが神様の力ですよ!」
「なるほど。アルテミスは穴掘りの神様だったわけか」
「月の女神ですけど!」
月の女神が穴掘り得意ってちょっと悲しい現実だな。
「お~いアルテミス~屋台でご飯買うから選んで~」
「わ~いご飯だ~」
「待てアルテミス!俺を置いてくな!」
俺だってご飯選びたい奢らせたいかき氷食べたい!
......はぁ。漣の音なんて全く聞こえない程騒がしいこの海は人々の活気があふれかえっている。
その中に一人活気とは反対に消沈してる男がここに。......早くここから解放してくれ!
「......勇凛君は意外と満喫するタイプだったんだね」
「......僕の事は見なかったことにしてください龍之介先輩」
......あー早くここから出してくれ!一般人にも自由を!
「......ってパシャリじゃねえよ!」
「ごめんつい。なんだか面白くて。後で送っとくから」
「いらないですよ!そんな写真!」
頼むから出してくれ~もう誰にも見られたくない~
そんな心の叫びは人々の活気にもみ消される。やはり漣の音は聞こえない。
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