自称神様は過保護過ぎて生活が出来ません

 アルテミスと暮らす事になってから丸一週間がたった。

 彼女との生活は中々慣れず少し疲れが溜まってきている。

 数分前の自分の顔を見るとクマができていた。

 最初は一緒に生活すると言っても今までと変わらず過ごさせてくれるだろうと思っていたがそんな甘い事を考えていた自分を殴りたい。

 アルテミスはあり得ないくらい過保護であったのだ。

 そんな彼女とのエピソードを紹介しよう。




 空もすっかり赤く染まり、少し冷えてきたと感じる時間になった。

 そろそろご飯を作ろうと思い、台所に立つ。神様は知らないが人間はご飯を食べないと死んでしまう。

 今日は何を作ろうかと考えながらエプロンを付け、冷蔵庫の中を覗く。中にはあまり材料が無いがチャーハンぐらいなら作れそうだなと思い準備をする。

 すると、後ろから数日前だったら聞こえることのない足音が聞こえる。

 足音を立てる張本人がこちらに向かって


「何してるの?」


 と、聞いてくる。


「ご飯作るんだよ。神様はどうか知らないけど人間は食べ物食べないと死んじゃうからさ」


 何てさっき思った事も一緒に口に出す。そしたら急に大きな音が鳴る。

 何事と思い振り返ると、泣く寸前の子どもの様な顔で


「料理は危ないからダメ!もし怪我したらどうするの!」

「...えっ」


 衝撃的な事を言われ身体が凍る。開けっ放しの冷蔵庫の寒さで凍った訳ではなくアルテミスの過保護過ぎる発言にだ。


「これからはそんな危ない事しちゃダメだよ?私が料理作ったあげるからね?」


 今度は目のハイライトを消しながら言う。怖いよこの神様。話し聞いてる時から思ってたけど感情の浮き沈みが激し過ぎるよ。


「いや、でも、料理はここ一年間してきてるし、それで大怪我とかしてないから大丈夫だよ」


 自分で出来る事は自分でしたいし、と追加するが


「私、知ってるから。勇凛君が料理中に怪我した回数。怪我の内容も日付けも言えるよ?

最初は小学校二年生の八月十四日で猫の手が上手く出来なくて左手の中指の第二関節の部分の皮を切って血が出たんだよね?次は...」


 ...ストーカーってこんなに怖かったっけ?自分でも覚えて無い事を噛む事なく、声のトーンも変える事なく、ひたすらにこっちを向いて喋っている。

 このままだと自分の心臓に悪過ぎるため止めさせるべく声を掛ける。


「あの...」


喋り掛けた瞬間


「リビングで待ってて!」


 アルテミスの叫び声に思わず


「はい!リビングで待たせていただきまする!」


 何て変な日本語で返事をする。するとアルテミスは


「うん!いい子いい子♡」


 何て言葉で返してくるわけだ。怖すぎだろこの神。

 数分後、爆発音がやっと鳴り止むが身体の震えは止まらず人生で一番の恐怖体験を味わっている。


「お待たせ...出来たよ...」


 自信の無い声でこちらに完成の合図を出す。 男としての覚悟を決めて声のする方向を向くと、そこにはこの世の食べ物とは思えない物が出てくる。

 こんな焦げてる様にしか思えないものは神様界隈では流行ってるのだろうか。


「これ、何?」


聞いてみると


「チャーハン...」


 と、即答する。これが?料理下手な奴でもこんなの作らないぞ。


「...料理、出来ないの?」


 聞くと


「うん...」


 またもや即答。


「やっぱり自分で作るよ。」


 そう言い立ち上がり台所に向かう


「それはダメ!」


 と腕を掴んでくる。反応が一々オーバーすぎるだろ。悲劇のヒロインか、お前は。

 そう思いながら腕を振り払うと次はしがみ付いてくる。


「アルテミス、料理出来ないじゃん。」

「うっ...」


 何も言い返さないのかよ。


「毎日、外食にしよ?そうすれば怪我しないよ?」

「そんな甘えた生活出来るか。お金が勿体無いだろ。それに、たまにする外食が僕は好きなの。」


 遂には声すら出さなくなる。もうちょっと頑張って欲しいなーアルテミスさん。

 てか、そんな子犬見たいな目で訴えないで。心がちょっと揺らぐから。


「...分かった。じゃあ料理する所見てて。絶対怪我しないから。それで怪我したらこれから料理はしない。でも、これで怪我しなかったら、これからも料理させて?」


 心があちら側に傾く前に提案をする


「...いいよそれで」


何とか了承してくれた。

 かくして、人生で一番緊張した料理の時間が始まった。結果としては怪我しなかったからこれからも料理できる。

 こんなエピソードまだ数個残ってるからね?ストーカーの神様って何をしでかすか分からないからとてつもなく怖いよ。

 これからの生活が不安だな。そう思いながら一週間が過ぎたのであった。

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