神様たちのストーカーライフ

漣電波

世界で一番感動しない母の最期

 高校進学して間もなくに母は病気で亡くなり、その夜父は夜逃げした。

 母が亡くなる数分前、何もあなたに与える事が出来なくてごめんねとおもちゃを取り上げられた子どものように泣きながら謝罪をしてきた。

 涙を堪えながらそんなことはないよと母に伝えたが、母の泣いている姿を見て一緒に泣きじゃくっていたことは今でも鮮明に覚えている。

 このまま泣いたままでいられればなんて僕は思っていたが時間とは残酷なもので母の体をゆっくりと蝕んでいった。

 最後の一言が近づく。母の最期の言葉は意外な言葉でその場いる人全員の涙が一瞬で乾いた。


「これからはあなたの事が大好きな優しい神様が人生を支えてくれるわよ」


・・・意味が分からない。そう思っている間に病室には人生で一番聞きたくない悲しい知らせを伝える電子音が響いていたが、母の最期の言葉に動揺して誰も声を上げず、乾いた目元を湿らせる事はなかった。世界一締まりの悪い最期だったと思う。

 後日、母方の叔父と叔母や母の知り合いなどに母が宗教にハマっていたか聞いたが誰も知らないと答えた。ヒステリックな人ではなかったが何処の国のものかも分からないような文芸品を買ってくるような変わった人であった。

 しかし、宗教の話など一度もした事はない。そんな最期とは思えない言葉が何を根拠としているのかは分からず、未だに謎のままだ。


 母が亡くなって一周忌の朝。久々に線香でも焚こうと思い立ち上がり、探している時、チャイムが音が鳴り響く。こんな朝からなんだと思い、線香探しを中断し玄関に向かった。

 扉を開けると目の前に一人の女性がいた。開口一番に彼女から告げられた言葉は母の最期と同じ雰囲気を玄関中に漂わせた。


「私はあなたのお母さんから頼まれて君のストーカ...ガチ恋勢として追い続けて来た神様なの。これからの一緒に暮らすことになってるからよろしくね!」


母の最期の言葉が現実になってしまう事に恐怖することしか出来ず、目の前に自称神様を丁重にもてなす事が出来なかった。

 この雰囲気を変えなければならないと思い声を振り絞って相手にこの思いを伝えた。


「丁重にお断りします!」


 そう言い今出せる力を全て使い扉を閉めた。申し訳ないと思い扉に付いている覗き穴から彼女の顔を見ると子どものように泣いていた母の顔と重なってしまい気になってしまったため仕方なく彼女を家の中に入れた。

 母の今までの発言が現実になる事が毎年の恒例行事のようになるのではないかと不安になりながら彼女と向かい合った。

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