届かぬ嗚咽〜【メグミ】は妹、この恋心はゴミの日に

 ちょっと吊り目のキツい顔、真面目を絵に描いた様な顔、笑っていれば可愛いのに…うるさいな。

 笑うような事がないんだから、笑う訳ないでしょ?



 母がいきなり再婚すると言い出した。

 それまで母と二人、いや小学校に入るぐらいまでは父とは呼べないような大人の男性…他人がいた。

 その他人は家には殆どおらず、小学校2年の時には見なくなった。


 後から知る、離婚した

 別に暴力があるわけでも、浮気でも無かった。

 ただ居なかっただけ。家族を養うのに仕事が忙しかったそうだ。

 結果、母とは気持ちがすれ違い離婚。

 そしてよく相談に乗ってくれた人と再婚。

 よくある話…なのかな?私からすれば家にたまに来ていた他人を見なくなった…それだけだった。


 子供の私に親の離婚理由なんて分からない。

 説明されても興味ない。私にとっては母だけで、元から殆ど家に居ないんだから寂しいなんて無い。

 一緒にいない時間というのは…時の流れは、忙しい毎日は…人を忘れさせる。

 楽しい事も辛い事も…それが普通だ。

 そう思う様になってから何もかも興味が無くなった。


 もしも、いつまでも昔の事を口に出すのであれば…何か別の問題に対して昔の事を理由にしているだけだと私は思う。 

 前の父と家族3人で写っている写真、私が保育園に入る前だろうか?皆笑っている。楽しいのだろうか?


 私はこの笑顔の理由を知らない。知る気もない。

 兄に会わなければ…この時の心は分からなかった。 

 

 今度は…知らない他人の大人の男性と…知らない男の子と、住むことになった。

 いきなり父だ兄だと言われても私には関係無いし。

 私には母だけだ…そう思っていた。


 新しい父は…家族であろうとしなかった。

 まるで親しくなりたい友人のように接してくれた。父と思わなくて良いと言った。

 そして兄になると言われた男の子は、とても優しいクラスの男子のようだった。


 前の父とは違い、新しい父は時間を大切にしてくれた。

 一緒にお買い物に行ったり映画を見たりした。


 男の子は一緒にいる時間の中で色んな事を教えてくれて、気付かせてくれた。

 動物園のお土産にクマの人形をくれた。とても可愛かった。とても嬉しくて、ずっと見ていた、今も大事に飾っている。


 とても心地の良い距離感…空気の様な存在…だけど、とても大切な…これが家族なのかと思い始めていた。


 そんな折、新しい犬山の父は、いや、今や育ての親と思っていた…父親と思っていた人が亡くなった。

 とても悲しかった…部屋で…涙が止まらなかった…私は大事な家族を失って悲しかった…でも家族だと思っていたのは自分だけだと、兄の言葉で勘違いした。

 兄の葬式での言葉に…憤慨した…何でこんなに怒っているのか自分でも分からなかった。


 ただ、兄の悲しみに気付けず、家族であった事を蔑ろにされた事が許せなかった。

 更に…葬儀から少し後に…母がコソコソ前のお父さんと会っていた…家族だ犬山だと言っていた母…裏切られた。

 どいつもこいつも許せない…と思った。


 今考えれば兄の前で涙を見せず…大人のふりして悲しみを見せず…言葉が足りないのは私なのに。

 後日、誰も共感しないから母は誰にも相談出来ず、悲しみが溢れ、前のお父さんに相談したんじゃないかと兄が言った。あの時、俺は…と自分のせいにした。


 後から聞いたが兄に至っては、元から自分の事が気に入らなかったと、やっと縁が切れたと思われていたらしい。

 血の気が引いた気がした…もし、兄が謝ってくれなかったら…誤解したまま縁が切れていたのだ。


 結局、心が繋がったと思って…裏切られたと思って…許せなくて…でも、謝られた時に気付いた…一番家族に拘っていたのは私であったと。

 大人ぶって家族や他人と区別して…言葉が足らず、人の気持ちも考えず…一番子供じみた事をしていたのが私だった。

 誤解されるような態度を取っているから、誤解されているなら誤解だと伝えなければならない。

 私は兄に教えられたのだ。気持ちを伝える事…謝る事…許す事…


 まだ苦手だけど…笑って、挨拶して、この社会で生きる。

 その繋がり方を教えてくれて、見守り続けてくれた兄を見ていて…私が変わっていく。同時に心が切なくなっていく…

 

 好きな人は?…兄みたいな…素直に謝れる人、人を許せる優しい人かなと正直に言う…兄には言えないけれどね。

 友人達や世間はブラコンだと、血が繋がって無いから何か勘違いしているのではないかと…

 誰に何を言われようが構わない…結婚しなくとも…肌と肌を合わせる行為が無くとも…心は…繋がっている…家族が愛し合い想い合って何が悪い?


 そう思って胸が痛む、心が…軋む…本当は…もっと…近く…触れ合いたい…心が…歪む。


 始めてお兄ちゃんといった日、胸が熱くなった…同時に切なくなった…心が動く余計なキッカケを…作ってしまったかも知れない。


 それに本当は知っていた…多分シアさんと何かあったから…兄はまた変わった。

 謝ってくれた日とは違う変わり方…バイトを始めバイクに乗り、前を向いている…男の人になっていた。

 最も近くにいる異性、憧れから恋に変化するのに時間は要らなかった。

 遺伝子なのか本能だろうか?血縁でない事が余計に拍車をかけているのかも知れない。

 勿論、私は人間で…大切な家族というストッパーがかかる。


 代わりに自分を慰め続けた。兄の事を思えば、どこをどうすれば良いか自然と分かった…どうすれば兄の事を想えるのか…狂った様に、獣の様に、欲望のままに。


 隣の部屋は兄の部屋…壁一枚しか無い。

 押入れに至っては板1枚だけ…兄は押し入れのドアを取ってしまっているから…そこにもし穴があれば…全部見える…考えている内に…遂に穴を開けて…しまった。

 その穴から私の欲望の全てを感じる…コレを覗いたら…取り返しがつかなくなると本能が止める。

 

 気付けば…私はその穴を覗いた…覗いた時…私の中のドス黒い欲望が凝縮され穴の奥から私を覗いていた…そこには兄の秘密…健康な男子なら当たり前の事かも知れない…だか…他人が決して見ることの出来ない姿がそこにあった…普通なら気まずいとか、汚いとなるだろう…ただ、私にとっては猛毒でありドラッグであり…広大な砂漠のオアシスだった…

 

「お、お兄ちゃんっ♥にっ兄さんっ♥たっ太郎さんっ♥何でっ!?こんなに!?♥はぁう♥好きですっ!♥あふぅっ!♥こんなっ!アッ♥クゥっ♥」


 洗濯籠に入っていた兄の下着を口に含め声が出ないように、触る水音が聞こえない様に、ポケットに穴を開けたズボンを履いて、覗き穴から兄の秘密を覗き、狂った様に欲望を貪り続けた…それにお兄ちゃんに関する物は尽きない…何故なら家族だからだ…何度も何度も、繰返し、繰返し…ヨリ強く、ヨリ激しく…


「へぇ…コスプレが…好きなんだ♥」「ソフトなSMも好きなんだね」「野外も良いのかぁ…♥」


 部屋に侵入し兄のパソコンを弄り鍵のかけた棚を開け、兄の全てを知り手に入れる…満足だった…こんな妹と、バレたら…軽蔑するだろうか…


 受験はギリギリだった。志望校が受からなかった言い訳をしたが、本当は普通に受からなかった…欲望に塗れすぎたからだ…

 内申と勉強の貯金だけで、兄と所に無理やり入った。

 早い所、快楽と折り合いをつけないと…

 

「んぅ♥同じ学校に…入った…まだまだ一緒だよ…ね、お兄ちゃん♥」

 簡単に折り合いが付くわけでも無く…新しい制服を着て、兄の制服にキスをしたり匂ったり…気付けば抱きしめていて絡む…明日…また明日からちゃんとすると言いながら繰返す


 しかし…そんな刹那的な幸せな毎日は…続くわけなかった…


 兄の想い人…シアさんが…まるで夜にしか現れない妖精の様に我が家のベランダから兄に会いに来た…

 正直に言えば、私は蘭子さんとシアさんにはどうやっても届かないのを知っている…家族であっても彼女達の方が、兄との絆は深いのだ…。

 だからあさましい程に…狂うほどに私だけの兄と思い貪っていたのに…とうとう私の聖域にも入ってきた…


 夜中…お兄ちゃんとシアさんは、一線を越えてないとはいえ、まるでお互いを貪るかのように求めあっていた…羨ましい…妬ましい…私だって…その姿を見ながら慰める…声が出ないように兄の下着を咥え…泣きながら…喘ぎながら…穴を覗くその姿を見る、哀れデ惨タラしい私…このままでは無様過ぎて生きていけない…思考が狭窄していた私は、なにか柔らかい棒を掴んだ…今となっては何を入れたか分からない…誰もおらず、見ておらず、望まれていない始めてを…穴の向こうの兄に捧げた…


「んぅーっ!ぎィッっ?!カッッ!んんグゥーッ!んっ!んん!♥んんんーっ!♥イんんっ!あはあっ!」ガタタッ!


 シアさんよりっ!先にお兄ちゃんにっ!あげるっ!♥

 2人が貪る姿を目に焼き付けながら…涙で歪んでよく見えないけど…途中から返して…と言ったかもしれない…認めないけども…奪われたなんて認めないけど…私は幾度か視界が明滅し…果てた。





「あれ、おはよーお兄ちゃん…春休みなのにまたバイト?」 


 普通に話しているのに声で脳が焼ける…壊れた。


「あぁ。バイトって言っても俺一人だからな。これでも責任感あるんだぞ!(笑)」


 笑う兄に身体が熱くなる…狂う。


「へぇ?そうなんだ?まぁ頑張って。そして私にお土産の一つでも買ってきて(笑)」


 ホントは要らないよ、お兄ちゃんだけしか…お兄ちゃんが欲しいよぉ


「あいよ、お姫様!母さん今日遅いんだろ?だったら飯は帰って食うからよろしく」


「ん、いってらっしゃ〜い…」

(行ってらっしゃいダーリン♥今日も頑張ってご飯作るから!晩ごはんは一緒に食べようね♥フフフ♥)

 

 高校が始まる…長いのか短いのか3年間。

 兄といれるのは僅か1年間…この1年間。

 私は幸せなんて望んじゃいない。でも…





   お兄ちゃんは渡さない

 

 






 静かに眠る兄の前で、蘭子さんは言った…

「全部…分かってたんじゃ…ないかな…太郎は…」

 涙は枯れた、とうとう試されると思った。

 死んでも切れぬと言える縁、家族。

 私は兄の矜持を守り続ける。

 例えどのような結果になっても。私は犬山、犬山太郎の妹だ。

 同じ様に支え続けた蘭子さん…最初は何がしたいのか良く分からなかった…兄を裏切りフられ…それでも兄と親しかった幼馴染。

 私は彼女と根の部分では同じだ。兄と共に生きる事で良しとしている。

 ただそこにある、兄と同じ様に生きている。


 だけど…一つだけ違うのは…私はあの姉妹を許さない。憎む事で…燻るこの気持ちを燃やす。


 …お父さんが亡くなってから暫くして…私は母さんが前の父と会っていた事を知り…心が揺れ、怒りと悲しみと裏切りが混ざり合い、当たり散らした… 

 自分は兄で性欲を満たしていたクセに…

 私と母の醜い生き様を、汚れた血を、私も母も…葬式で兄の言った言葉は正しかった。

 …遥かに汚い生き物であっても…赦し続け、家族と認め続けた兄…

 私の…性と独占と情愛の欲を包み、狂った私の過ちではないと言ってくれた兄…

 

 兄はきっとあの姉妹も赦したんだろう、蘭子さんも兄はとっくに赦している筈だ、そもそも兄は怒りはしないと。


 だが…それでも…私は妹で家族だから…私は蘭子さんとは違うから…兄が私を見守っていたように…兄の誇りを守る私の感情は怒りだ。

 兄の矜持を愚弄し、兄の人間性に甘え、耐え続けた兄の心を私は慮り…そして復讐する。

 

 兄を半端に誑かし、落ち目から復帰した姉を…兄に理想を押し付け踏み台にした成功した妹を…どんな理由があるにせよ赦すわけにはいかない… 

 そしてあの姉妹とは違う罪を犯した私、それを妹である犬山恵は…メグミとあの姉妹、3人を赦してはいけない。


 だから…兄に関わるもの全てにあの姉妹を近付け無い…それが私が兄と家族である限り…人生をかけた償いだから。

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