パワースポット発電所
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パワースポット発電所
神社に着いたのは夕刻のことだった。境内には提灯がつるされ、季節外れのお祭りが行われている。まずはこぢんまりとした本殿に参拝。撮影させてもらうことを心の中で伝えた後、本殿をパシャリと撮る。続いて手水、鳥居と、余すところなく撮らねばならない。今日はこの神社最後の日なのだ。
「パワースポット」の意味が変わったのは、今から三十年ほど前のことだった。スピリチュアルから実利への転換である。それは、パワースポットのパワーで発電できることが判明したことがきっかけだった。当時パワースポットとして知られていた某神宮の一角に試作されたばかりの発電ユニットが置かれると、想定以上の発電効率を叩きだした。
それからは全国津々浦々のパワースポットに置かれるのが国策となる。あらゆるパワースポットに発電ユニットが置かれ、今では大きめの寺社仏閣などに行くとそれを見ないところはない。三十年前は設置反対の声もあったそうだが、電気代が安くなるのに比例してその声も小さくなっていった。なにせ発電にかかるコストはユニットの設置と整備だけである。火力発電なんかが経済的に敵うわけもなく、今では全国で消費される電気の半分はパワースポット産だ。
比較的広めのパワースポットへの設置が軒並み完了すると、発電ユニット設置の波は狭めのパワースポットへ移ってきた。すなわち、街中にある小さめの神社などである。狭い敷地に発電ユニットを置くためにどうするのか。元々あった建物を除却するのである。近くに発電ユニットが設置されると送電コストの面から元々安い電気代が更に安くなり、水素スタンドも設置されるため、反対運動も目に見えるようなものは起こらないことがほとんどだ。それ故に小さな神社はいま急速に数を減らしている。
神社が無くなるのは時代の趨勢なのかもしれないが、無くなるものを写真でもいいので残したい。そのような気持ちから、私は神社の写真を撮り歩いている。
「お祭り楽しいねぇ」
すれ違った子供がそう話しているのが聞こえた。このお祭りは今日限り。この神社にとって最期の晴れ舞台。地域の住民が集まっている様子を最後に一枚撮ってから私は境内を出た。
パワースポット発電所 19 @Karium
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