第69話 SOSな団体さん


♪ジャス いとしくてぇ~ ふふふふふふん



ワタシは今、マイクを右手に歌っています


そう、舟上カラオケとシャレ込んでいる真っ最中です


どうしてこうなったかというと、


今朝、朝もはよからせっせと下流にある大きな港町を目指して、


ゴムボートで【ムーアの大河】へと意気揚々と船出したのですが、


順調、それはもう、とてもとても順調なのです


何もせずとも勝手に下流へと流れていくゴムボート


穏やかな流れなのでそれほどスピードは出ませんが、


そもそもそれほど急いでいないワタシたち


ゆっくりでもその流れに身を任せていればいいのです


ということで、やることが全くなく、暇を持て余してしまったのです



(あ~、ひま~)

(穏やかなのはいいのですけど、あまりにもイベントがなさすぎですぅ~)

(もう、水面に浮かぶ落ち葉になった気分ですぅ~)


ゆったりな大河の流れに乗り、ゆっくり川下り


あまりにもゆったりのんびり過ぎて、暇すぎて、心の中でついつい愚痴ってしまうワタシ


そんな時、ワタシの心の愚痴に反応できる唯一の存在、


そう、【買い物履歴】の音声ガイダンス、営業のスズキさんがリアクションしてくれたのです


『お客様すいませ~ん』

『手前どもにご提案がございま~す』


そして、営業のスズキさんの勧めるままに購入したモノは、




【CD オールスター 80年代ベスト 1,280円】



【カラオケ用マイク 980円】



そして、以前購入したCDMDラジカセにカラオケマイクを接続


更にCDをセット、アンド、プレイスタート



そんなこんなで、【おきに】だった無表情系女性アイドルデュオの歌を、


一人二役でこなしている真っ最中なのです


ん?

しょーこ?

さちこ?




「どこの民族歌謡なのかしら?」

「聞いたことがない旋律だわね?」

「それと、全く知らない言語だわ?」

「あなた、外国語ができるのね?」


そんなジェニー姐さんの感想をちょうだいしつつ、熱唱するワタシです




♪くたばっちまえ エィ~メンッ



それからも数曲ワタシの熱唱が続き、


最後は女性コーラスグループの曲、振られた女の逆恨みソングを歌い切ったところで、


ジェニー姐さんが話しかけてきます



「ねえスキニー、私にも何かないかしら。なんかこう、時間つぶし的な感じで」


ジェニー姐さんもお暇なようです



「前にあげたアレは? キュービックるーぶ」


「あぁアレ? もう、飽きちゃったわ」


「え? もうです?」


「だって、構造を把握しちゃったし」


「え~?」


(アレの構造を把握? また魔法的な何かでナニしちゃったのかな?)


やっぱりジェニー姐さんは、なんでも超人みたいです


そんな会話をしていると、再度登場、営業のスズキさん


『お客様すいませ~ん』

『こんなのいかがでしょ~』




【凧 げーらカイト すかいスパイ 880円】



これはアレです。子供の頃、冬休みとか正月休みとかによく遊んだ凧です


白地の三角ボディの左右に大きな目玉が2つ描かれていて、


よくよく見ると結構怖いデザインのアメリカ産ビニール製のヤツです


毎日電線のない広い場所を求めて、実家の近くの稲の刈り取られた田んぼへと出かけ、


朝から夕まで飽きもせず飛ばしていたものです



(え? 舟の上で凧あげです?)

(それって、大丈夫なんです?)


『お客様すいませ~ん』

『以前手前どもからご購入いただいた【ドローン】、いかがだったでしょ~か』

『楽しかったのではないでしょ~か』

『そしてそれは、お連れ様も同じはずでは?』

『同じ空を飛ばすカイトもきっと気に入っていただけると愚考しま~す』

『騙されたと思って、ご検討下さ~い』


(たしかに【ドローン】は楽しかったし、ジェニー姐さんハマってたよね)

(でもカイトはカメラもついてないし、どうかな~?)

(まあ安いし、お試しでジェニー姐さんにプレゼントしちゃえばいいか)


ちょっと疑問に感じながらも、営業のスズキさんの口車に乗るワタシ


早速カイトを購入してジェニー姐さんに手渡します


「姐さん、どうぞ。これで遊んでみてくださいな?」


「ん? なぁに? これ」


「これは凧、風を拾って空に飛ばす遊具ですね」


「たこ?」


「ですです」

「ドローンほど自由自在というわけにはいかないかもですが、」

「風をつかんで凧を操るのも、中々面白いと思いますよ?」


「そうなの? それじゃあ、遠慮なく使わせてもらうわね?」



口では平静そうでしたが、カイトを受け取ったジェニー姐さんのお顔はニコニコ


そして開封から組み立てまでが恐ろしいほどの手際でした




そして今、カイトの白いボディは、ワタシたちのナナメ上空をたゆたっています


「♪」


声は出していませんが、お顔がルンルンなジェニー姐さん


(どうやらお気に召していただけたようですね)

(これはアレかな? 営業のスズキさんの言うとおりかな)

(ジェニー姐さん、お空に飛ばす系が大好物?)



そんなことをしつつ時間を潰すワタシとジェニー姐さん


ワタシたちを乗せたゴムボートは、ただただ大河の流れに身を任せるだけなのでした




そんな感じで、ただただ流されて川を下ること暫し


そろそろ夕方になろうかという時刻


ワタシもジェニー姐さんも遊具を回収し、ちょっとまったりしていると


進行方向、つまりは川下方向に、大きな中洲のようなところが見えてきました


さすがに大きな川なだけはあり、中洲も規模が段違い


むしろ島と呼びたくなるような規模の、砂と草、


そして、林レベルで木が生えているのが伺えます



「ジェニー姐さん、中洲みたいなのです」


「ん? あれはたしか、薬草とか木の実とかが有名な中洲じゃなかったかしら?」

「あそこでしか取れない貴重なモノもあったはずよ?」


「へぇー、それじゃ、有名な場所なんです?」


「たぶんね。詳しくは知らないけど、いろいろ採取する人が小舟で通っているはずよ?」


「へぇー、でも中洲だから、増水とか、大丈夫なんです?」

「林があるみたいですけど、水に流されたりしないんです?」


「いろいろ採取できるぐらいなのだし、大丈夫なんじゃない?」


「安全そうなら、今晩、あそこで野営しましょうか」


「そうね、時間的にもちょうどいいし、そうしましょうか」



そんな会話をしていると、ワタシの高性能なお耳が『ブルッ』と反応します


なにやら人の声らしきものが聞こえてきました



「お~い! お~い!」

「こっち、こっち~!」

「助けて~!」



どうやらワタシたちに向けた救難要請みたいです



「ジェニー姐さん、中洲からこちらに向けて、助けを求めている人がいるのです」


「ん? あら、そうみたいね?」

「女性が3人かしら?」

「どうする?」


「とりあえず近づいてみましょう」


「そうね、様子をみてから判断しましょうか」



そんな感じでオールを手にするジェニー姐さん


そして、あっという間に進路変更です


ひと漕ぎひと漕ぎが実に力強い感じです


(凄いパワーだね)

(姐さん、魔法でも使ってるのかな?)

(これじゃあ、電動船外機の出番はないかな?)


「姐さん、ガンバッ! 姐さん、ファイッ!」


ワタシは戦力外なので、ただただジェニー姐さんを応援するだけなのでした




そして、大きな中洲の砂浜のようになっているところにたどり着いたワタシとジェニー姐さん


それを待ち構えていたのは、革製の軽鎧を身にまとった、割と大柄な女性が3人


黒髪のイヌミミさんと、茶髪の町娘チックなメガネさん、そして、金髪碧眼の見た目クッコロさん


(ワンちゃんの獣人さん1人と、人族が2人)

(どういうご関係なんだろう)

(いわゆる、冒険者パーティーかな?)



ワタシがそんなことを考えていると、


黒「おぉ~、神はアタシたちを見捨てなかったぁ~」


茶「採取に夢中になっていたら、渡し舟がいなくなってて」


金「お願いしま~す。私たちを乗せて~」



どうやらこのお三方は、中洲から対岸へ戻る渡し舟に乗り遅れてしまい、


帰れなくなってしまったみたいです




「申し訳ないのだけれど、あなたたちの期待にお応えできないわ、ごめんなさいね」

「私たちは、今からこの中洲で野営をする予定なの」

「時間も時間だし、今から対岸まで行くつもりはないわ」


ジェニー姐さんが即答で、お三方の要望を全面拒否です


(そりゃあそうだよね、時間的に)

(今から対岸まで行くなると、途中で真っ暗になっちゃうかもだしね)



黒「え? ど、どうしよう」


茶「野営道具、舟の中に置いたままだし・・・」


金「食料とかも、舟に置いてきちゃった」



「え? あなたたち、舟に荷物置きっぱなしだったの?」」


黒「そうだけど?」


「全部?」


茶「さすがに貴重品は身に着けてますけど・・・」


「それで舟は戻っていって、あなたたちだけ置いてけぼり?」


金「そうなんです!」



「それはただ単に、荷物を持ち逃げされただけなんじゃない?」


黒茶金「「「え?」」」



(あちゃ~、このお三方、危機意識が足りないというか、なんというか)

(ちょっと残念系なお姉さんたちなのかな?)

(まあ、ワタシもひとのこと、あまり言えないですけど・・・)

(この分だと、お夕飯もおぼつかない感じかな?)

(ここはひとつ、お節介してみたいけど、ジェニー姐さんはどうかな?)


そんなことを考えてジェニー姐さんを見ると、ワタシを見て頷いています


どうやらジェニー姐さんもワタシと同じ考えのようです


ならば今度は、ワタシが発言いたしましょう



「それじゃあ、明日の朝まで、一緒に野営、しませんか?」


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