第68話 川は流れ、時も流れ


【アントン】の巣穴近くのサバンナ的な場所からスタートした今日のワタシたちの旅路


ちっちゃくてカワイイ4WD自動車を使ってオフロードを駆け抜け、


更に街道に出てからはそのダートな街道をかなりの速度でひた走り、


今日だけで移動距離は優に200kmを超えたことでしょう


その後、街道前に横たわる川に架かる橋を渡る直前で、税金という壁に阻まれ、


更に追い打ちをかけるように自動車の接収までされそうになりました


過剰な通行税と、性悪そうなお役人という大きな障害を前に、


その橋を渡ることを断念したワタシとジェニー姐さん


とりあえず、来た道を引き返します


そして橋の関所から少し離れたところで街道から逸れ、再度オフロード走行をすること暫し


そんなこんなで今、ワタシの目の前には、大きな川が見えます



「これがムーアの大河、海まで続くゆっくりたおやかで大きな水の流れよ」


(ムーアの大河? なんだか2年で2倍の集積率になりそうなお名前ですね?)


ん?

イ〇テル?

はいってる?




「ムーアの大河は、海までゆっくりなのです?」


「そう。でも川幅が広いから、渡るのは大変なの」


「どれくらいの幅なんです?」


「先ほどいた【夢の虹橋】が架かっているところが一番狭くて、1kmちょっとだったかしら」

「一番広い河口付近では、10kmを超えると聞いているわ」


(わお、なんだか凄いスケールだね)

(川だと思っていたけど、大河だったんですね)

(黄河とか長江とか、そんなサイズ感なんだね)

(ワタシはてっきり、大きくてもせいぜい狩野川レベルだと思い込んでましたよ)


ん?

アユの友釣り?

我入道の渡し?




そんなことを考えならが、ジェニー姐さんに疑問に思ったことを聞いてみます


「それでジェニー姐さん、なんでここに? 河原に来たのです?」


「ん? それはね、渡し舟がないか探そうと思って」

「あの橋ができるまでは、かなりの数の舟が行き来していたのよ?」

「でも見たところ、期待できそうもないわね」


その言葉を聞いて河原を見渡してみます


たしかに、舟着き場だったらしき残骸は残っているみたいですが、


舟らしきものは見当たりません


「人っ子一人いないですね」


「そうなのよね~」



そんな風景を見つつ、どうしようかな~と思っていると、


『お客様すいませ~ん』

『なにかお困りのご様子ですね~』


【買い物履歴】の音声ガイダンス、営業のスズキさんの声が聞こえてきました



(そうなの、困っちゃって)


ここぞとばかりに、知人に愚痴る感じで営業のスズキさんに状況を説明するワタシ


すると、


『お客様すいませ~ん』

『手前どもにご提案がございま~す』



そんな感じで、営業のスズキさんから、助言という名のセールスをかけられるワタシなのでした



【買い物履歴】の営業のスズキさんからの提案は、


『お客様すいませ~ん』

『手前どもとしましては、川を渡る、または川を下るお手伝いをさせていただきま~す』


そんなセリフと共に目の前に現れる、【買い物履歴】画面


その中央[あなたにお勧め]には、




【ゴムボート 4人乗り 対面背もたれシート 空気入れ付き 25,500円】



【電動船外機 0.87馬力 ハンドコントロールタイプ 26,800円】



【ライフジャケット オレンジ色 4,300円】



これはアレです。ワタシが湖で釣りをするために買ったヤツです


ワタシの中で一時期、釣りブームが到来したことがあったのですが、


その時にいろいろと買い揃えたヤツです


なにごとも形から入るワタシは、その時もその性分を遺憾なく発揮しました


そんな買い揃えた装備品一式を使って、あまり人がいなさそうな、


小規模な湖を探しては、週末の釣りを楽しんでいました


河口湖や山中湖といったメジャーどころは人が多くて、


舟で漕ぎ出てもイモ洗い場のようなアレだったので・・・



ゴムボートも電動船外機も、もちろん免許不要のタイプです



ゴムボートは、こういったタイプには珍しい造形のモノで、


のんびり落ちついて座れる背もたれ付きの対面シートが付いているヤツです


もちろんエアを入れるゴムボートなので、シートもエアシート


座り心地が悪いわけがありません


舟体にオール固定ホルダーが4か所あり、自分の漕ぐスタイルに合った場所を選べるほか、


アルミ製の軽いオールもついていて、なかなか使い勝手が良いヤツです



そして万が一のことを考えて、疲れて漕げなくなってしまったときのため、


電動船外機、いわゆるエレキモーターも買い揃えました


免許不要の2馬力以下のヤツですが、湖レベルの凪いだ水面では、


それなりに推進力を発揮してくれました



更にライフジャケット、救命胴衣も忘れません


水の中に落ちてしまったら大変です


舟から落ちてしまったとき、まずは浮いていることが第一です


沈んでしまってはどうすることもできませんからね




そんな一式を、迷うことなくソッコー購入するワタシ


自動車から降りて、早速取り出して、ジェニー姐さんにも報告です



「ジェニー姐さん、これ、空気で膨らむお舟です」

「これを使って川を渡りましょう!」


「あら! あなた舟までもっているの?」



早速専用の空気入れを使って、ゴムボートを膨らませます


と思ったのですが、体調が芳しくないワタシ


購入した商品たちの開封作業だけでヘロヘロなのでした



「ジェニー姐さん、ワタシ、ギブアップなのです」


「無理をしてはダメでしょ? あなたは指示をするだけでいいのよ?」


そんな感じでジェニー姐さんが全ての準備作業を引き継いでくれました


ひとり旅では絶対にできないこと、それは助け合い


本当にありがたや、ありがたや、なのでした




感謝を込めてひとしきりジェニー姐さんに手を合わせて拝んでいると、


さすが、なんでも超人なジェニー姐さん


ものの数分でゴムボートを準備し終わってしまいました



それならばと、いそいそとライフジャケットを装着するワタシ


そして、今まで乗っていたカワイイ四駆を【インベントリ】に収納し、


後は出航あるのみ、そんな状態になりました


そんなタイミングで、ジェニー姐さんからのお話です



「この川を渡ってから街道を少し進むと、とりあえずの目的地、最寄りの小さな町につくわ」

「さっきの橋を管理していた役人、アレを任命した領主がいるところのはずよ」

「それでね、川を渡らずこの川を下った場合なのだけれど、この辺りで一番大きな港町につくはずなの」

「その町は、さっきの橋の領地とは違う領地になるのよね」

「スキニーはどうしたい?」


「橋にいた偉そうな太っちょさんが関係している町には行きたくないのです~」


「そうよね?」

「それじゃあ、川下りに決定ね!」

「下流にある大きな港町に向かって、出発よ」


「ヨーソロー! なので~す!」


「え? なに?」

「よーそろ?」

「どういう意味?」

「まあそれはいいとして、どちらにしても、今日はここまでね」


「え? どうしてです?」


「だってもうすぐ暗くなる時間じゃない?」



よくよく周りを見てみれば、薄っすらと暗くなってきていました


ワタシ的には、まだまだお昼ぐらいの感じだったのですが、


日中、助手席でひとり爆睡していたワタシは、時間感覚が狂ってしまっていたみたいです



(え? もう夜なの?)

(ワタシ、今日一日、ほとんど寝てて、何もしてないんですけど~?)

(時間がたつのって、早いよね~)



そんな感じで、今日は活動終了


ワタシ的にはただ寝ていただけ、それにしては慌ただしかった、そんな一日は終了なのでした


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