第63話 凹き所に水溜まる


「次は右のヤツ、そう、右から回り込んで!」


ジェニー姐さんからの指示に従い、目標の【働きアントン】の側面へと回り込むワタシ


(そーっと、そーっと【猫脚】【猫脚】)


対象の【働きアントン】がジェニー姐さんの放つ魔法の灯(トーチ)に気を取られている隙に、


静かに忍び寄って、そのまますかさず射撃(殺虫スプレー噴射)開始


ぷしゅ~


もう、右自護体の構えなんてやってられません



次から次へと現れる【働きアントン】


それに対応すべく、ジェニー姐さんからの指示が飛び、それにワタシが対応します


そんなこんなで十数分


既に30体以上の【働きアントン】を処理したワタシ


(かなりの数がいるみたいですね~)

(倒しても倒しても、どんどん出てきます)

(それにしてもワタシ、かなり鍛えられたんじゃない?)

(だって、これだけ動いているのに、それほど疲れてないんだよ?)


そんなことを考えならが、次の標的(【働きアントン】)に忍び寄るワタシなのでした



「スキニー、今倒したそれで一旦群れが途切れるわ」

「少し休憩にしましょう?」


そんな言葉と共に、手のひらサイズの【ドローン】をワタシに差し出してくるジェニー姐さん


どうやら、【ドローン】のバッテリーアラームが点滅しているみたいです



「休憩という名の【ドローン】の充電タイムですね? 了解です」


「もちろん、ちゃんと休憩もするわよ?」


「ハイハイ、なのです」


「もーっ」



そんな感じでジェニー姐さんを軽くあしらい、【ドローン】の充電を開始すると



「さっき、ちょっと先まで【ドローン】を飛ばしてみたのだけれど」

「どうやらこの先に巣穴があるみたいなの」

「どうする?」


どうやら、ジェニー姐さんが【ドローン】で【アントン】の巣穴を見つけたようです


「どうするとは?」


「もちろん、戦うかどうかよ」

「巣穴となれば、かなりの数の【アントン】を相手にすることになるわ」

「これまでのように、一体一体、各個撃破するのは難しくなるでしょうね」

「それなりの戦術、そしてなりより覚悟が必要よ?」


「なるほどです」

「でも、このままほっといちゃダメなんでしょ?」


「そうなの」

「できれば殲滅しておきたいのだけれど」

「だからといって、無理する必要はないわ」

「だって、私達がやらなければならない仕事ではないでしょ?」

「できる範囲でいいと思うのよ」

「とにかく、安全が第一よ」

「それで、どうかしら? あなたの意見は」


「そうですねぇ・・・」

「それじゃあとりあえず、様子見で巣穴近くまで行ってみる」

「そして、できそうなことがあればヤル、ってことでどうです?」

「最低限、巣穴の場所の確認はしておくべきでしょ?」


「そうね、そうしましょうか」



そんな感じで今後の行動予定が決まりました




ジェニー姐さんの指示のもと、【アントン】を倒しつつ歩くこと暫し


「ここが【アントン】の巣穴よ」


ジェニー姐さんが指し示した場所は、茶色い地面にぽっかり空いた、


直径2メートル弱の縦穴らしきモノでした



(ただの穴だね。大きいけど)

(大きなアリの巣っていうから、もっとわかりやすいのかと思ってたんだけど)

(もっとアリ塚みたいな、ちょっとしたオブジェ的なモノを想像してたんだけど)

(これじゃ、上空から探さないと、見つけるのは難しいかも)


地面にできたただの穴なので、地表を歩いていては、なかなか発見は難しそうです


そんなことを考えていると


「それでどうする? 何か仕掛ける?」


ジェニー姐さんが声をかけてきます


(この巣穴なら、単純に物量でゴリ押しできるかな?)


そんなことを考えて、ジェニー姐さんにお返事です


「姐さん、このままこの巣穴を潰しちゃってもいいんです?」


「ええ、もちろんよ」


「中のモノとか、確認しなくても?」


「必要ないわよ? 【アントン】意外は卵ぐらいしかないはずだし」


「なるほどです」

「ワタシ、ちょっと思いついた作戦があるんです」

「ジェニー姐さん、とりあえず、この靴に履き替えてほしいです!」



そう言ってジェニー姐さんに渡したのは




【作業用長靴 ゴム底 2,250円】 お庭いじり用にネット通販で購入したヤツ



「履き替えるの? いいけど、何をするの?」


「まあまあ。とりあえず、見ていてくださいです!」



ジェニー姐さんの疑問を軽くスルー


ワタシも長靴に履き替えて、


そして、次なる一手を購入です




【簡易水道使用料 水道水 20立方メートル 4,400円】



「それじゃあとりあえず、ドンドン注水しちゃいますね!」


そう宣言して、【アントン】の巣穴の入り口めがけて、水道水を取り出します


「注水? 一体何を・・・」



ジェニー姐さんが何か言っているようですが、今は放置します


水道水を買っては取り出し、買っては取り出し


ドバドバと巣穴めがけてお水を投入していきます


(こんなにたくさんのお水を扱うの、はじめてかも)

(こういうとき、25メートルプール何個分だとか、ドーム球場何個分とかいうよね?)


ん?

BIG EGG?




それを50回くらい繰り返したところで、【アントン】の巣穴の入り口に水が溢れてきました


(これで、巣の中いっぱいにお水がいきわたったかな?)

(でもこのままだと、すぐにお水が地面に吸収されちゃうよね?)


「よっし! それじゃ、最後にダメ押ししちゃおう!」


そう言って購入したのは、




【電気使用料 100V 30A電力 259kWH 5,997円】



そして、



「姐さん、危ないから離れて、離れて!」



そう言いつつ、ワタシも【アントン】の巣穴の入り口から遠ざかります


そして、10メートル以上離れたところで、



「巣穴の入り口に放電!」



バァン!



けたたましい爆発音とともに、白い煙が上がります


そして漂ってくる、鼻にツーンとくるニオイ


何かがイオン化した感じの刺激臭が、辺りに漂い始めました


「とりあえず、こんな感じかな~」

「でも、思っていたより、臭い~」

「ていうか、鼻がいたい~!」


(何だろう、このニオイ)

(何かを化学反応させちゃった?)

(それとも電気分解?)


ワタシが想定外の異臭に辟易していると



「え? 何が起こったの? 何をしたの?」


ジェニー姐さんがビックリ顔で固まっています


ここはとりあえず、簡単に説明しておきましょう



「【アントン】って重たいでしょ?」

「水に沈めたら窒息するかなって」

「だから、とりあえず、水攻め!」

「そして、鉄の鎧を身にまとっているでしょ?」

「感電しやすそうかなって」

「だからダメ押しの、電撃!」


「水攻め? 電撃?」

「あれだけ大量の水をどうやって?」

「それに電撃って・・・」

「あなた、雷を自由に操ることができるの?」


「自由ではないですけど、取り出すぐらいならできますよ?」

「お風呂の後、髪を乾かすモノあるでしょ? ドライヤー」

「アレもこの電気で動いているんですよ?」


「・・・ちょっと理解が追い付かないわ・・・」


どうやらジェニー姐さんは、電気関連は苦手なご様子です


(あれ? 電化製品の説明とか、今までしていなかったっけ?)

(まあ、魔法がある世界なんだから、電気ぐらい、どうってことないよね?)


そんな感じでジェニー姐さんの疑問は軽く流します


「それよりも、あの巣穴に近づいちゃダメですよ?」

「この変なニオイも、なるべく嗅がないようにしましょうね?」

「電気やら有毒ガスやら、よく分からないけど、なんか危ない感じなんで!」


「え! わ、分かったわ」

「・・・有毒ガス? ・・・一体どういう・・・」



(とりあえず感電しなくて良かった~)

(ゴム製の長靴だけでは感電防止はちょっと不安だったんだよね~)

(それとこのニオイ、有毒なのかな? 予想外だよ~)

(ガスマスクとかも必要だったかも?)

(まあとりあえず、【アントン】の巣穴に近づかなければ大丈夫、だよね?)


(それにしても、お水と、電気と、最後は(有毒)ガス?)

(なんだか、お引っ越し前の手続きのお話みたいだね?)


ん?

ライフライン?




ひとりブツブツ言っているジェニー姐さんを放置し、


自身の所業をまるで他人事のように考えるワタシなのでした


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