第61話 黒い脅威


翌朝、ゆっくり起床のワタシとジェニー姐さん


いつもの朝のルーチン(レディオ準備体操)をこなして、


今朝もモリモリ食べてビシバシ活動開始です


ん?

ピッコロ社?

女性ばかりの工場?




例によって、ジェニー姐さんの朝食は、いつものヤツ



【コンピニせぶん ふんわりたまごサンドイッチ】


【コンピニせぶん しゃっきりサラダサンドイッチ】


【コンピニせぶん セルフサービスなコーヒー】


【桃の缶詰 プルタブ式】




ワタシの朝食は、



【フルーツたっぷりグラノーラ 400g 550円】


【ごろっとチョコとナッツグラノーラ 360g 520円】


【低糖質調整豆乳 1000ml 168円】



これはアレです。甘いものが食べたくなった時に食べていた朝食です


フルーツのグラノーラとチョコのグラノーラを半分ずつお皿に盛って、


調整豆乳をかけていただきます


フルーツだけだとすぐに飽きてしまうし、チョコナッツだけでは甘すぎる


混ぜて一緒にいただくことで、自分好みになる感じです


ちなみに牛乳ではなく調整豆乳にして、サッパリいただくのがワタシ流


とはいえ、修行が足りないワタシは、未だに無調整豆乳には手が出せない感じです


(無調整豆乳を飲める人、尊敬するっス!)


(ていうか、無調整豆乳、ぶっちゃけ美味しくないのよね~!)



「あら? あなたが食べているそれ、甘い匂いがするわね」

「ひとくち貰ってもいいかしら?」


ジェニー姐さんからのおねだりがありました


ワタシの食べかけでアレですが、とりあえずお皿ごと渡します


すると数十秒後、なぜか空っぽのお皿が返却されてきました


(あれ? 半分以上残っていたはずなんですけど・・・)


どうやらジェニー姐さんとワタシとでは、『ひとくち』という言葉の意味が違ったみたいです




そんな感じの朝食を、のんびりモグモグして、いざごちそうさま、


というタイミングで、なんだかお外が騒がしくなってきました



ワタシの高性能なお耳が自動的に反応です


耳を澄ませてお外の声を拾ってみると、


どうやら、【アントン】という魔物が目撃されたみたいです



「ジェニー姐さん、【アントン】って、どんな魔物です?」


「え? 【アントン】ですって?」


「ハイです」

「【アントン】が見つかったと、お外でみなさんそう言っているのです」


「それはまずいかもしれないわね」


「そんなに危険な魔物なんです?」


「1体でも倒しにくいのだけど、【アントン】が厄介なのは、その数なの」

「数百から、場合によっては数千まで膨れ上がるときがあるのよ」



そんな感じでジェニー姐さんが詳しく説明してくれました



【アントン】は、体長1メートルぐらいで全身が真っ黒


体表面に厚さ1cmほどの鉄の鎧のようなモノをまとっているそうです


よく見かけられるのが【働きアントン】で、


お尻に毒針を持っている【兵隊アントン】なんていうタイプもいるそうです


【女王アントン】を頂点にして大きなコロニーを作るそうで、


地下に穴を掘って部屋を作り、それを巣としているみたいです


ちなみに弱点は寒さ、氷結(フリーズ)魔法でイチコロなのだそうです


なのですが、その氷結(フリーズ)魔法の使い手があまりいないので、


駆除するのが大変なのだそうです



それを聞いたワタシの感想は、


(それって、でっかい鉄のアリさんです?)




「これは放置しておくと大変なことになるかもしれないわね」

「私が手を出すしかないかしらね」


ジェニー姐さん、いつもと違ってマジ反応です


「ジェニー姐さんが、やっつけるのです?」


「ええ。だってここの公共休息場、駐在員いないでしょ?」


「なるほど、そういうことですね?」

「それなら、ワタシもお手伝いします!」


「まあ、【アントン】は動きが遅いから、多数に囲まれさえしなければ、あなたがいても大丈夫でしょう」

「でも周囲に気をつけて、私の近くから離れないこと、いい?」


「ハイです!」


(よ~っし、【買い物履歴】のチャージ魔力量、稼いじゃうぞ~!)




早速身支度をして出発準備


ユニットハウス等も【インベントリ】に収納です



お外には、この公共休息場を出立していく馬車が数台


御者さんたちは皆、不安げな表情をしつつも、急いでここを離れようとしているみたいです



「もうすぐここには誰もいなくなりそうね」

「私達も移動して、【アントン】を探しましょうか」



そんなジェニー姐さんの呼びかけで、ワタシ達のアリさん駆除スタートです



とは言っても、むやみやたらと歩き回っても効率が悪すぎます


(とりあえず、アリさんの分布というか、どこにいるのか知りたいな~)


そんなことを考えていたら、いつもどおり現れる【買い物履歴】画面


その画面の中央[あなたにお勧め]には、




【小型ドローン カメラ内臓 8,390円】 簡単操作機能付き 離陸、着陸、高度維持



これはアレです。昔のラジコン飛行機感覚で、遊ぶために購入したヤツです


週末の天気のいい日には、自宅の別荘地上空を飛ばして遊んでいました


カメラの画像がコントローラーにリアルタイムで表示されるので、


その画像を見ながら、まさに運転しているような感覚で操縦を楽しみました


惜しむらくは、内臓バッテリーの容量の問題で、航続飛行時間が20分程度しかないこと


そして手のひらサイズで小型軽量なため、風に流されやすいということ


風の少ない日の短時間しか空の旅を満喫できなかったことが、とても悔やまれました



(なるほどです。こいつを使って、上空から索敵というわけですね?)




「それは、何?」


ワタシが【ドローン】を組み立てたり、バッテリーに充電をしたりしていると


ジェニー姐さんが問いかけてきます



「これはですね、お空を飛んで、上空から下の状況を見ることができる、飛行物体です」

「【ドローン】と言うんですよ?」


「へぇ~、【ドローン】ねぇ~」

「って、え? 今、空を飛ぶって言わなかったかしら?」


「ハイです。ハチの羽音に似ているから、【ドローン】って呼ばれているみたいですよ?」

「丁度準備ができましたから、早速飛ばしてみますね?」



早速コントローラーを操作して、離陸です


このドローンはプロベラが4つあるクワッドロータータイプで、


小型の無人【ドローン】としては、ごくごく一般的なヤツです



ヴゥィイイイ~


安物だからなのか、それとも別の理由なのか、


割と大き目な音をまき散らしながら、真上へと上昇していく【ドローン】


「ハチの羽音というよりは、髪を乾かす道具の音に近いのかしら?」


「ドライヤーの音です? 確かにそうかもしれませんね」


そんな会話をしつつ、上空10メートルを超えたぐらいのところで、高度維持モードにします


そして、ゆっくり旋回して、360度見渡してみます



「う~ん、・・・」

「あっ、これじゃない? 黒いヤツ!」


下草だらけの茶緑の草原に、黒い存在はかなり目立つようで、


すぐにそれらしいモノを見つけることができました



「本当に空から見ている風景がここで見られるのね」

「鳥系の使い魔と視界共有している感じなのかしら?」


ジェニー姐さんが何やらブツブツ言っていますが、今はスルーです


「ちょっとあの黒いヤツに近づけてみよう」


そんな感じで操作していたのですが


「ねぇねぇ、スキニー?」

「それ、私にも貸してくれない?」


ジェニー姐さん、かなり【ドローン】に興味を持ったみたいです


「いいですよ。ただ、注意することがあって・・・」


操作説明と、30メートル以上離れると画像が届かなくなること、


100メートル以上離れると、操作自体できなくなること、


そして、20分でバッテリー切れを起こすことを説明します


「分かったわ」

「とりあえず【ドローン】を黒いモノの方に飛ばしながら、私達もそちらに移動しましょ?」



そんな感じで、ワタシとジェニー姐さんによる【アントン】の索敵が始まったのでした




ジェニー姐さんが操作する【ドローン】を追いかけながら、背の低い草原を移動するワタシとジェニー姐さん


足場があまりよろしくない場所を、ちょっと小走りでの移動です


【ドローン】を見て上を向いてしまうとコケそうなので、ワタシはジェニー姐さんの足を追う感じです



ワタシの息がちょっと上がり始めてきたとき、ジェニー姐さんが声をかけてきました


「いたわ! 【アントン】よ」

「いわゆる【働きアントン】ってタイプだわ」


ジェニー姐さんが指さす方向を見ると、見た目はまんまアリさん、そんな生き物がいました


違うのはそのスケール


グレートデン級の大型犬みたいな、存在感あるサイズです


事前に聞いていたように、動き自体は早くないみたいで、


亀さんほどではないですが、割とスローモー


ワタシが近づいても、攻撃を受けることはなさそうです



(これを倒して、【買い物履歴】のチャージ魔力量、稼げるかな~?)



そんなことを考えていたら、いつもどおり現れる【買い物履歴】画面


その画面の中央[あなたにお勧め]には、




【殺虫スプレー アリ緊張~るっ 450ml 775円】



これはアレです。別荘地にある自宅で使っていたヤツです


山間地にある別荘地は、ありとあらゆる虫さんたちが、所かまわず我が物顔で闊歩していました


アリさん、クモさん、ハチさんは言うに及ばず、ムカデさんも千客万来な感じでした


この殺虫スプレーは、そんな皆さんをお迎え(迎撃)するために使っていたヤツです


一本でそのほとんどの来訪者(虫)に対応できる、万能さんなのです



間髪入れずに購入し、手元に出します



「さて、どうしようかしらね~」

「物理攻撃は効かないし」

「属性魔法は苦手なのよね~」


ジェニー姐さんが隣で何やらぶつくさ言っているようですが、ワタシは目の前の獲物に集中です


【働きアントン】の横に回り込むようにして、


ゆっくりゆっくり、抜き足差し足忍び足です


(あれ? なんだかワタシ、この忍び寄る感じ、得意かも!?)


自分でも驚きですが、忍び寄る感じの足さばきが、まさにプロ級


足音を全くたてずに【働きアントン】に近づくことができました



そして【働きアントン】の1メートル手前まで近づき、右自護体の構えで射撃用意


「う~ちかた、はじめ!」


ぷしゅ~



例によって例の如く、効き目絶大な感じのようで、


先程までのっそりだったでっかいアリさんは、機敏な動きでその辺をのたうち回り始めました


明らかに苦しむような感じで


そして1分を超えたかな? そんな時間が経過すると、ピクリともしなくなりました


「およ? やったかな?」

「おっといけないいけない、これはフラグってやつですよね? わかります」


「あなた、以前にもそんなこと言ってなかったかしら?」


「え? そうです?」


「まあいいわ」

「それにしても、凄いわねあなた」

「たとえ一番弱い【働きアントン】だったとはいえ、こんなに簡単に倒しちゃうなんて」


「でしょでしょ?」

「ワタシはやるときはやる子なんです!」


「これも以前に聞いた気がするけど・・・」

「まあいいわ。実際助かったしね」

「この【アントン】を倒すには氷結(フリーズ)魔法が一番なんだけど」

「正直、属性魔法は苦手なのよ」

「だから今回、あなたが倒してくれて、少しほっとしているのよ」

「ありがと」



ジェニー姐さんから、珍しくストレートな感謝のお言葉をいただいちゃいました



ワタシの目を見て


ではなく、ジェニー姐さんの目は【ドローン】のコントローラーの画面に釘付け


「それにしても楽しいわね、コレ!」


どうやら、【ドローン】から手を放さずに済んでよかったと、


それでワタシに感謝しているみたいです



(ジェニー姐さんって、そういうところあるよね。うん、知ってた)


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