第54話 お誘い


「なっ何で・・・」


ジェニー姐さんの会話拒否宣言に男性薬師が固まっています


(プップップ、いい気味ですね)

(でも、明日から、この人がここの駐在薬師さんなんでしょ?)

(嫌だな~)

(もうワタシ、ここには居られないかも・・・)



そんなことを考えていると、ジェニー姐さんがワタシに話しかけてきました


「今晩にでもちゃんとお話ししようと思っていたのだけれど、ちょうどいいわ」

「スキニーちゃん、ちょっと聞いて欲しいお話があります」


いつになく真面目なお顔のジェニー姐さん


思わず背筋が伸びてしまうワタシです


「はっハイです」

「どんなお話でしょう」


「あのね? あなた、私と一緒に来ない?」


真顔なジェニー姐さんから、そんなお誘いを受けました



どこへ行くのだとか、いつ出発するのだとか、


そんな詳細情報は皆無ですが、このタイミングでの意味はひとつです



「い、いいんです?」


「誘っているのはこちらよ、当たり前じゃない」



もちろん、お返事は決まっています


「ヤフー! よろしくオナシャッス!」



ここ数日、不安だったんです


ここ数日、心細かったんです



やっと慣れてきたここでの生活


いつも一緒にいてくれた人


仲良くなれた、お友達になれたと思った人


そんな大切な人とのお別れを考えるだけで


無性に切なかったんです



そんな心境の時、さらに追い打ちをかけるように、


ワタシに暴言を吐く後釜の薬師が来てしまいました


ワタシのことを悪し様に言う人がいるこの場所にはもういられない


またひとり旅の再開と覚悟しました



でも、救われました


ひとり旅ではありません



大切に思える人に誘ってもらえて、


まだまだ一緒にいられそうで、


それがとても、うれしくて



頼れる人と一緒にいられると思うと、心は晴れ晴れ


この先の不安は一気に解消です




そんな感じで、詳細を聞かずとも、即答「OK」一択なワタシ



「これからもよろしく、スキニー」


「ハイです!」



ジェニー姐さんからの「スキニー」呼び


「ちゃん」なしの呼び捨てです



それが何だか、くすぐったくて、


心の距離も縮まった気がして、


嬉しさや感謝の気持ちを言葉にしたいけど、


それがなかなか難しくて、


でもどうしても溢れだしてしまいそうで、


代わりに涙が出てきてしまうワタシなのでした



ワタシが本当の意味で「スキニー」になったのは、きっとこの時だったのかもしれません




先程までの嫌な気分は一転、


晴れやか爽快、ルンルン気分のワタシです


(嫌なこと言われたけど、そんなの全然気にならないくらいに嬉し~い!)



今日はもう薬店を営業しないとジェニー姐さんが言うので、


ワタシは鼻歌交じりにお片付けを始めます


未だに固まっているオジャマ虫の男性薬師は完全無視


【インベントリ】に諸々収納しちゃいます



まずはテーブル、そして4脚ある椅子・・・


そんな感じで収納作業をしていると、オジャマ虫が騒ぎ出しました



「おい! 今何をした!」

「どうしてテーブルと椅子が――」


「これはワタシの私物なので、回収したまでです」


被せ気味に男性薬師の発言をシャットアウトです



「回収?」

「あの家具類がお前の私物だと?」

「そんな訳があるか!」

「あんな見たこともないようなモノをお前のような小娘が持っているわけがない」

「冗談も――」


「ええ彼女の言う通りよ。アレは全て彼女のモノ」

「机や椅子だけじゃないわよ?」

「コップや飲み物に至るまで、全て彼女が用意してくれたモノよ」


今度はジェニー姐さんがワタシの代わりに答えてくれます


「いい? 彼女はあなたが考えているような何もできない幼子ではないの」

「むしろ、その真逆。あなたよりもよほど有能よ?」


「そっそんな馬鹿な・・・」


フリーズ気味の暴言薬師は完全放置し、ちゃっちゃと撤収作業を進めるワタシなのでした




「おい! いくらだ」


プチフリーズから復活し、またも騒ぎ出した男性薬師


「いくら金を出せば、さっきの家具類を置いていく」


お返事なんてしたくありませんが、しぶしぶ答えます


「置いていくつもりはありませんし、お金なんていりません」


「は? オレが買い取ってやるって言ってるんだ!」

「素直に金を受け取って置いていけ!」

「どうせ運よく拾ったマジックバッグに、たまたま良いモノが入っていただけだろうが!」


(ワタシがジェニー姐さんと同じマジックバッグを持っているから誤解したのかな?)


「例えそうだったとしても、あなたには売りません。絶対に」


「オレに反論するな!」

「いいか? ああいう良いモノは、オレのような高貴な人間が使うべきなんだ!」

「そもそも机や椅子がなければ、明日からの業務にも支障をきたすだろうが!」

「そんなことも分からないのか!」


(うわぁ~、何でしょうか、このオレ様っぷり)


「ええ、わかりませんね。あなたの業務のことなんて、知ったことではありませんので」


「何を生意気な! 浮浪孤児の分際で!」




ジェニー姐さんの説明も丸っと無視し、再度ワタシに攻撃的な言葉を投げかける男性薬師


どうやらこの男性薬師、よっぽどワタシを無能な孤児扱いしたいようです


(まあ、机や椅子がないと困るっていうのが本当のところなんだろうけど)

(ワタシのような小娘なら、脅せばどうにかなると考えてるのかな?)

(ワタシひとりならうまくいったかもだけど、ジェニー姐さんも一緒の状況で、無理じゃない?)

(ていうか、そろそろ鬱陶しいを通り越してマジうざいんですけど~)



そんなことを思っていると、


「話が通じないバカには何を言ってもダメみたいね?」

「無視してここを離れましょう?」


ジェニー姐さんがワタシに向かって話しかけてきます


「もう、アイツと距離をとるしかないのかしらね」

「いっその事、地下のお部屋も引き上げちゃいましょうか」

「また顔を合わせたら、何を言われるか分からないもの」


そんな流れで地下のジェニ子の部屋も完全撤収です




そして今は一息ついています


場所はワタシのユニットハウス


本来ならばまだジェニ子の部屋を使っても問題なかったのですが、


あの男性薬師と鉢合わせする可能性がある地下室は嫌だったので、ユニットハウスに退避です


もちろんジェニー姐さんも一緒ですよ?




少し時間をおいて落ち着いたので、ジェニー姐さんとお話しします


「ジェニー姐さん、今後のご予定とか、決まってます?」


「特には決めてないのだけれど・・・」


そんな感じで今後の予定的なことをジェニー姐さんから詳しく説明を受けます


出立は明日以降、いつでも良いとのことです


目的地は、とりあえず、ジェニー姐さんが本拠地としている、この国第2の都市


移動手段は馬車は使わず、徒歩


別に急ぐ旅ではないので、のんびりと行くそうです


(馬車に乗って移動すると、ずっと人目が気になるしね)

(【買い物履歴】を使うワタシ的には、むしろ徒歩の方が良いのかもね)




そして話し合いの結果、


急なのですが、明日の朝出立、なんてことになりました


(善は急げ、というより、遠ざかるは縁の切れ目、そんな感じかな?)


もちろん、理由はアレ(男性薬師)です


また変なイチャモンをつけられたくないですので、ソッコーおさらばです



(それにしても、アレ(男性薬師)はどうしてここに来たんだろう?)

(元の職場で総スカン食らったのかな?)

(修行という名の左遷かな?)

(ていうか、あんなの野放しにしちゃダメでしょう)


「責任者出てこい!」


往年のボヤキ漫才の決めゼリフを吐くワタシなのでした


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