第43話 異世界の夏、緊張の夏


ザックさんたち駐在員さんにはフラれてしまったものの、


ジェニー姐さんによる護衛? 付きのお散歩に出かけられることになったワタシ


ひとり寂しく蚊柱を倒しながら歩いていた昨日とは違い、気分は上々です


同行者がいるというのはとても心強かったりします



(しかもジェニー姐さんってば、駐在員のみんなから一目置かれてた感じだし)

(きっと強かったりするんだろうな~)

(心強いけど、あんまり失礼なことはしないようにしないとね)


ジェニー姐さんに対し、敬意と共にちょっと緊張を感じるワタシなのでした




ジェニー姐さんの案内で、草原の獣道的なところを歩いているワタシ


気分よくお散歩を楽しみながらも、今日の準備は怠りません


(今日は、ちょっと試してみたいことがあるんですよね~)



ワタシ的に、今日は目論んでいることがあるので、


歩きながら【買い物履歴】を開き、必要なモノを購入していきます




【蚊取り線香 バラの香り 60巻 1,250円】 ドラッグストアで購入 セール中でお安かったので


【使い捨てライター 4個セット 100円】 100円ショップの100円商品 いわゆる100円ライターです(25円相当だけど)




そして、鼻歌交じりにお散歩しながら、ちょっと開けた場所をさがします


なぜって?


それは、蚊取り線香をセッティングするためです


(蚊取り線香の火が草原に燃え移ったりしないよう、注意しなくっちゃだもんね)



そうこうしているうちに


草がなく、土がむき出しの少し開けた場所を見つけたので、早速、蚊取り線香に着火です



「何をしているのかしら?」


ジェニー姐さんから、早速のツッコミを頂戴しました



「うぅ~ん、何と言いましょうか、罠を仕掛けている? みたいな感じでしょうか?」


「ワナ?」


「ええ」

「このぐるぐる巻きになったヤツ、これを使います」


「何だか変な形ね」


「見てると目が回りそうで、面白い形でしょ?」

「こいつに、こうやって、火をつけるんです」

「そうすると、この火がついてるけどギリギリ燃えてない、みたいな感じのところ、ここ、煙が出てるでしょ?」


「ええ、何だか不思議な香りもしているようだけど」


「わかります? これ、バラの香りなんですよ?」


「バラ? あの棘がある花のことかしら?」


「ですです! この辺りでもバラは見かけるんです?」


「いいえ、この辺りよりもう少し北寄りじゃないと見かけないかも」


「へー、そうなんですねー」


「私が昔通っていた学園は、ここより北にあるのだけれど、バラがとても有名だったわよ?」


「学園?」


「ええ、だいぶ、そう、かなり昔の話ですけれどね?」


「あの、もしかして、その学園って、女性だけでした?」


「ええ、そうよ」


「・・・まさかですけど、その学園って、挨拶は「ごきげんよう」的な感じなのです?」


「あら? よく分かったわね」


「・・・それじゃあですけど、ジェニー姐さんは、後輩とかから特殊な呼ばれ方とかされちゃったり?」


「まあ! 本当によく分かるわね。そうなの! 私、髪の色がこんなんでしょ?」

「皆から「バラ様」なんて変な呼ばれ方をしていたのよ!」


「・・・本物だ」


(これはまさしくリアル[バラ様])

(ワタシ、【本物】の前で変なことしてないよね? 大丈夫だよね?)

(・・・しばらくは、[バラ様]ごっこ、封印しよ)




ふざけてモノマネをしていたら、いきなり【ご本人の登場です】的にドッキリを食らったモノマネ芸人


そんな昔見たテレビ番組的な状況を想像してしまい、ちょっと緊張が走るワタシ


そして、自分のなんちゃって[バラ様]ごっこが、


ザックさんたちに一目置かれるほど強いであろうジェニー姐さんに不快感を与えていないか


ちょっと不安になるのでした


ん?

モノマネ芸人?

テレビ番組?




「ん? 急に黙り込んだりして、どうしたの?」


「いえいえ別に・・・、ちょっと感動というか、驚きというか・・・」

「バラ様って、いいモノだなぁ~、なんて?」


「あなた、そんなにバラが好きだったのね?」

「まあいいわ。それより、さっきの話を続けてくれる?」


「そうでしたそうでした」

「これ、蚊取り線香って言うんですけどね?」

「この煙が、虫をやっつけてくれるんですよ! たぶん?」


「たぶんって、あなた・・・」


「ま、まあ、今回はお試しってことで!」


「試すのは別に構わないけど・・・」


「これ、ひと巻きが燃え尽きるまで、大体7時間ぐらいなんです」

「その間に虫がこれに近寄れば、煙にやられてイチコロってな感じです」


「虫?」


「え? あぁ、すいません。あれです、子モスキーです」



そんな説明をしつつ、お散歩&蚊取り線香設置作業を行います



缶に入った蚊取り線香60巻全て設置し終えるころには、


ワタシの親指はちょっとすりむけ気味でヒリヒリしていました



(最近のライターってば、子供のイタズラ防止で、やたらと着火スイッチが硬いんですよね!?)


誰に向けるでもなく、自分でもよく分からない文句をたれるワタシなのでした


ん?

最近の?

イタズラ防止?




ワタシとジェニー姐さんの辺りには、今、蚊取り線香のニオイが漂っています


普通の蚊取り線香のニオイではありません


ちょっと甘い香り、そう、バラの香りなんです



そんなちょっとだけ優雅な気持ちになってきた矢先、


突然無意識に、帽子から飛び出たワタシのお耳がピコピコ反応してしまいます


(あれれ? ワタシのお耳なのに勝手に動くの? ワタシのモノじゃないみたい)



すると、左前方からガサガサと音が聞こえてきたのです


(ワタシのお耳、自動的に物音に反応するの?)



自分のお耳の能力も気になりますが、それよりも、


この音の発生源が怖い魔物だったら大変です


こういう時は、すぐさま、引率の先生に報告するに限ります



「姐さん、なんかいるのです!」


「ん?」

「ああ。あれはイノブタね」

「こちらから不用意に近づかなければ、襲ってくることはないはずよ?」

「どうする? 倒してみる?」



ワタシが指し示す方向をチラ見したジェニー姐さんは、


特に問題ないとばかりに即答します



(ジェニー姐さんってば、チラ見しただけでもわかるんだ・・・)


ジェニー姐さんに、もう少し状況を聞いておきましょう



「豚さんです?」


「ええそう。ちょっとイノシシ入ってる感じのね?」


「なるほど、なるほどです」

「つまり、飛ばない豚さんは、ただの豚さんっ、そういうことですね? わかります」


「え? ちょっとあなた、何言ってるの?」


「ワタシ、タダの豚さんには興味ありません(キリッ)」


「・・・ちょっとあなた、大丈夫?」


「へ?」


「あなた、たまに変なこと言うのね?」

「ちょっと何言ってるかわからないわよ?」


「えっと、東中出身じゃないですけど、とりあえず、決意表明です!」


「・・・ますます、わからないわ・・・」



ん?

宇宙人?

未来人?

異世界人?


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