第17話 管理人さんにご挨拶


「こんにちはー」


「おぉ、どうした嬢ちゃん、ひとりか?」


「え? えぇ、ひとりです・・・」


「・・・ほぉ、この辺は比較的安全だとはいえ、ひとりで大丈夫か?」


管理人さん? の目つきが少し厳しくなった気がした・・・


(やばっ! さっき[ひとりだと怪しまれそうだから自分の設定考えておこう]って思ってたのに、すっかり忘れてた!)

(まぁ、今更だし・・・、この人、見た感じ善い人そうだし・・・)

(・・・とりあえず、訳アリ&ヒ・ミ・ツ、で押しとおすぞぉ~!)


「えぇ~っと、そこはお察しってヤツで。いわゆるひとつの、訳アリひとり旅ってヤツです!」


「おぉ、そうか、訳アリか・・・」


「ですです」


「・・・」


(何とか誤魔化せたかな? ここはこの勢いで乗り切っちゃえ!)


「それでですね、ここは、野営場でいいんです?」


「ん? そうだ、野営のための公共休息場だぞ」


「公共の休息場? ここって、お金はかかります?」


「いいや、ここは無料だ」


「良かった、じゃあ今晩ワタシもお世話になりますね」


「ああ」


「それで、ここって広いですけど、どこの場所でも自由に使っていいんです?」


「あ~、この中の場所は一応誰がどこを使ってもいいことになってるが、暗黙のルールってのがあってよ」


「暗黙のルール?」


「あぁ。良い場所、水場近くだとか、奥の方だな。そこは大概、お貴族様とか大きな商隊とかが独占しちまうから、その辺は気を付けろよ」


「なるほど。長い物には巻かれよ(ドラゴンには道を譲れ)的なヤツですな? 了解です!」


(あれ? 今、自分が言おうとしたことと実際の発言が違くない?)

(もしかして、勝手に自動翻訳された感じ?)

(もしかしなくても、【言語理解】が良い仕事して、現地語にアジャストしたのね?)


「ははっ、面白れぇな嬢ちゃん。そう、オレら庶民じゃドラゴンには勝てねぇのさ!」


「・・・アハハ、そうっスね・・・」


乾いた笑い声が漏れるワタシ


(この世界も格差社会的な感じなんだね・・・、世知辛いですなぁ・・・)


ん?

この世界も?

んん?



「ははっ、気に入ったぜ嬢ちゃん、そういやぁ、自己紹介がまだだったな。おれはヨザック、気軽にザックって呼んでくれ」


「あっはい、ザックさん、よろしくです」


(自己紹介・・・しまった! ワタシ、自分の名前わかんないや。どうしよう・・・)

(銀色の髪だから、ギンコとか? でもそれじゃ、虫つながりで・・・アレコレ怒られそうだし・・・)


急遽はじまったお悩みタイム

知らないはずの単語が自然と出てくる、いつものパターン

どこの誰に怒られるのか分からないが、いろいろ配慮しないといけない気がする

そんな思考に沈んでいるワタシ


あまり待たせてしまうと不審がられる、そう思ったワタシは・・・


「・・・わ、ワタシは、・・・アレです、その、・・・好きに呼んじゃってください!」


「ん? スキニーか、分かった。よろしくな、スキニー嬢ちゃん」


(あれれ? [好きに]呼んでが[スキニー]と呼んでになっちゃってない?)

(これは【言語理解】の影響? それとも単なる[空耳アワー]的なヤツ?)

(ま、まぁいいか、この際。ワタシの名前は今から【スキニー】ってことで!?)



異世界に来て何もかも朧げになってしまったワタシ

性別も年齢あやふやで、名前すらも覚えていない

そんなワタシの名前が、もらい事故的に決まった瞬間だった


たまたま立ち寄った休息場にいた管理人らしき人物、

そんな縁もゆかりもないアカの他人によって・・・


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