義理のお姉ちゃんたちから男子高校生というだけで警戒されていたが、俺が枯れていると知ったのをきっかけに甘々な姉弟生活が始まりました〜学校では俺のことが好きな女子から猛アタックを受けています〜

桐山一茶

第一章 性欲なんてありません

新しい家族

 昨日、父さんが再婚した女性──新しいお母さんを家に連れてきた。

 新しいお母さんも再婚だったらしく、なんと娘を三人も連れてきた。

 その三人は俺こと本間瑞稀(ほんまみずき)よりも年上なので、昨日から俺には三人の姉が出来てしまった。


 俺の姉となるのは、大学三年生、大学一年生、高校二年生の三人。俺は高校一年生なので、三人とも年は近めかもしれない。


 だからこそ、いきなり出来た姉たちとどう接していいのか分からない。でもそれは、姉たちも同じようで────


 ☆


 高校から帰ってきて、リビングのソファーでダラダラと過ごす。

 部活にも入っていないので、俺がいつも帰ってくるのは十七時くらい。

 時計を見上げてみても、まだ十七時半になったところだ。

 この時間だと面白いテレビもやっていないので、報道番組をボーッと眺める。


 この時間だと父さんは仕事なので、家には俺一人──いや違う。昨日から父さんの再婚相手の家族も家に住み始めたので、もしかしたら家に誰か居るかもしれない。俺以外リビングに誰もいないところを見ると母さんは居ないと思うが──

 そんなことを考えていると、ガチャリとリビングのドアが開いた。ドアから顔を出したのは、ピンク色のボブヘアが特徴的な美人女性だった。


 彼女の名前は本間衣緒(ほんまいお)。二十一歳の大学三年生であり、この家の長女となった人だ。

 衣緒さんは大学生らしいピンク髪のボブヘアで、眠たそうなトロンとした目をしている。服装は丈が膝下あたりまであるロングTシャツを着用している。部屋着だろうか。


 二階には俺と姉三人の部屋があるので、恐らくは自分の部屋からやって来たのだろう。


「えっと。ども」


 衣緒さんは俺と目が合うなり、ちょこんと会釈をした。


「ど、どうも」


 俺も会釈を返すと、衣緒さんは気まずそうにキッチンへと小走りで向かう。冷蔵庫からオレンジサイダーのペットボトルを取ると、衣緒さんは小走りでリビングから出て行ってしまった。

 衣緒さんがリビングに入ってから出て行くまで、三十秒もなかっただろう。


「俺、なんか悪いことしたかな」


 思わずそんな独り言が漏れる。

 昨日からこんな調子なんだよな。血は繋がってないとは言え、新しく出来た家族。出来るだけ仲良くしたいからと話しかけようとしたが、姉たちは三人とも俺から距離を置いているようだった。

 もしかしたら突然出来た弟とどう接すればいいのか分からないのかもしれないと思ったが、姉たちは分かりやすく俺を避けるので──


「やっぱり嫌われてんのかな」


 なんて考えてしまう。一体俺のなにが気に入らなかったのだろう。

 新しく出来た母さんは、普通に接してくれているのに。

 父さんには悪いけど、新しい家族とはやって行けなさそうだ。特に姉三人とは。


「家族って面倒かも」


 これからの未来を想像してため息を吐きながら、不貞腐れたような独り言をこぼして、テレビのチャンネルを変えた。


 ☆


 二十時。家族全員で夕飯を食べる。

 俺の隣には父さん。その更に隣には母さん。テーブルを挟んだ向かい側には、三人のお姉ちゃんが座っている。

 さて、一人ずつ紹介していくことにしよう。


「四人とも今日の学校はどうだった? 楽しくやれたか?」


「いただきます」と家族が声を合わせるなり、父さんが笑顔で話題を出した。

 父さんは紹介するまででもないが、一応紹介しておこう……名前は本間憲三(ほんまけんぞう)。俺の実の父親であり、四十五歳の営業職勤務。メガネを掛けていることと、一七〇センチ後半はある身長が特徴だ。

 父さんの身長がそこそこ高かったおかげで、俺の身長も高校一年生にして一七五センチもある。


「私はお休みだった」


 箸で器用にホッケの骨を取り除きながら、衣緒さんがポツリと呟いた。

 やはり衣緒さんは、丸一日休みだったらしい。


「あら、衣緒は今日一日家に居たの?」


 茶碗を手にしながら、母さんが尋ねた。

 母さんの名前は本間花香(ほんまはなか)。スナックのママをしているらしく、大人な色気がある。経験も豊富そうで、落ち着いた人だなあというのが第一印象だった。

 それと母さんも背が高い。身長を聞いたところ、一六八センチあるらしい。女性にしては高い方だろう。


「うん、一日家に居た」


「そうだったのね。一人で家に居るのは退屈だったんじゃない?」


「ううん。ずっとスマホいじってたから退屈じゃない」


「そっか。衣緒はインドアだものね」


 柔らかく微笑んだ母さんに、衣緒さんはコクリと頷いた。


「アタシは一日講義があったから疲れたなー。マジで必修ある日は講義入れない方がいいね」


 衣緒さんの隣で味噌汁のお椀を持っているのは、次女である本間奏美(ほんまかなみ)さんだ。奏美さんは十九歳の大学一年生で、本間家の次女である。

 毛先だけ青色をした黒髪は胸あたりまで長さがあり、我の強そうな瞳が覗く奥二重とシュッとした鼻からは、かっこよさを感じる。大人かっこいい女性、というのが第一印象だった。

 それに母さんの血を継いでいるだけあり、奏美さんは身長が高い。詳しくは聞いていないが、ざっと一七〇センチはありそうだ。


「奏美ちゃんは一日勉強してたのかー。偉いなー」


「あざーす。まあ大学の講義は高校の授業に比べたらストレス少ないですけどね」


「それでもだよ。あと家族なんだから敬語は使わなくていいよ」


「あ、了解っす!」


 愛嬌のよい笑顔を浮かべ、奏美さんは「あはは」と笑った。笑った顔も綺麗だなと思っていると、奏美さんとふと目が合った──が、すぐに逸らされてしまう。

 目を逸らされた一瞬、奏美さんの表情が硬くなったことを、俺は見逃さなかった。だからと言って、奏美さんに何か言えるわけもなく……。


「鈴乃ちゃんは高校どうだった? 今日から瑞稀と同じ学校だよね?」


 今度は三女である本間鈴乃(ほんますずの)さんに、父さんが話を振った。

 ちょうど向かい合わせに座っている鈴乃さんは、今日から俺と同じ高校に通い始めた十七歳の二年生だ。

 髪は茶髪のセミロングで、衣緒さんと奏美さんと比べると幼い顔つきをしている。口を開けた時に見える八重歯は、吸血鬼を連想させる。

 無邪気によく笑う子だなあというのが第一印象だった。

 衣緒さんが美人系、奏美さんがかっこいい系の顔だとしたら、鈴乃さんは可愛い系であることに間違いない。


「そうそう! だけど瑞稀くんとは一回も会わなかったかな」


 自分の名前を口にされたので、俺が話しかけられたのかと思ってドキリとした。だけど鈴乃さんの視線は俺ではなく、父さんの方へと向いている。


「そうか。同じ高校でも会わないんだな」


「鈴乃ったら。瑞稀くんに会いに行けばよかったのに」


 父さんと母さんがそう言うと、鈴乃さんは「あははー」と愛想笑いをした。


「きょ、今日は転校初日ってことで友達作りに忙しかったんだ。だけどもしも気が向いたら、わたしに会いに来てね。二年二組になったから」


 今度は俺の方を向いて、鈴乃さんはぎこちない笑顔を作った。

 どうやら会いに行ってもいいようだが、鈴乃さんからは会いに来てくれないらしい。それに俺にだけ、そんなぎこちない笑顔を見せるのだ。嫌われてることが丸わかりだ。

 鈴乃さんとは同じ高校に通うことになったので仲良くしたいと思っていたのだが、どうやらそれは叶わなそうだ。


「分かりました。暇になったら会いに行きますね」


「うん、いつでも待ってるから」


 俺の本心じゃない言葉に、本心じゃない言葉が返って来た。

 たった一度だけ言葉のラリーを交わすと、鈴乃さんは父さんや母さんの方に顔を向けてしまった。


 この家に父さんと二人で暮らしていた時は住み心地が良かったのに、新しい母さんや姉たちが来てからは居心地が悪くなった。一言で言うと、『息苦しい』。それに限る。


 高校を卒業したらこの家を出ようかな。そんなことを考えながら、ご飯を口に運ぶ。


「瑞稀くんは学校どうだった? 楽しかった?」


 母さんが柔らかな笑顔で、俺にも話を振ってくれる。


「あー、俺は」


 俺が口を開くと、姉たち三人の視線が一斉にこちらを向いた。その目は得体の知れないものを見ているかのようだ。


 勘弁してくれ。心の中でそう毒づきながら、俺は今日の学校での感想を口にした。

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