呪眼

一二三四五郎

1.覚醒

 ≪彼≫が私のことを殴っている。

 痛くて痛くてたまらない。

 でも我慢するしかない。

 だって私が悪いから。

 ≪彼≫を不快にしてしまった私が悪いから。


 殴ってくるが≪彼≫はいい所もたくさんある。

 デートでのエスコートは完璧であるし、

 お仕事もできて出世も同期で一番早いみたいであるし、

 なにより取り得のない私のことをずっと好きでいてくれている。

 それに殴ってくるのも好意の裏返しだと前に言っていた。

 私が大事な人だから殴ってでも自分の言ってることを理解してもらいたいんだって。

 私が特別だから私だけ殴ってくれる。

 毎日殴られて痛いけどその分愛されている実感もあってうれしさが勝っているの。


 それにしても今日は長い。


 不意に≪彼≫のこぶしが右目に当たった。

 声を出すとさらに殴られるので声は我慢していたが思わずうめき声を出してしまった。

 さらに殴られるかと思ったが≪彼≫のこぶしは飛んでこない。

 おそるおそる左目で≪彼≫を見た。

 視界の右半分は赤い何かで埋められていて≪彼≫はよく見えなかった。

 触ってみると羽毛のようであった。

 どうなっているのか気になって洗面台の鏡で自分の姿を見るために移動した。

 と同時に「何無視してんだ!」と≪彼≫に後ろから殴られた。


 かろうじて右目のあったところに赤い花が咲いていたのは見えた。

 しかし激高してしまった彼はうつぶせで倒れた私を踏み続けていた。

 私の意識はそこで切れた。


 

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