第7話 呼び名
現着した童話の魔法少女達は異譚へと歩く。
「あ、ま、待って……!」
言って、みのりは走ってアリスの足に乗り、アリスの履く白のタイツを引っ掴んでよじ登る。
珍しく嫌そうな顔をしたアリスはみのりの首根っこを摘まんで自身の肩に乗せる。なぜか残念そうな顔をするみのりを見て、残念な者を見るような目で見る。
異譚は魔法少女の作ったバリケードによって囲われており、そのバリケードの外で報道陣がカメラを構えて撮影している。
そのカメラが童話の魔法少女達に向けられる。
「うぅ……」
カメラを向けられ、恥ずかしそうに身を縮める瑠奈莉愛。
アリスの肩の上に乗っていたみのりもまた、アリスの髪に隠れる。
他の三人は慣れたもので、堂々とした足取りで異譚へと向かう。
「せ、先輩達慣れてるッス……それに、雰囲気も全然違うッス」
「当り前よ。異譚に向かう前のアピールタイム。いわゆるランウェイなのよ」
言って、朱里はしゃらんと可憐に髪をかき上げる。
「か、かっこいいッス……!」
「でしょ? アンタ分かってるじゃない」
にっと得意げに笑みを浮かべる朱里。
得意げな様子のまま、朱里は続ける。
「憶えておきなさい。魔法少女はステータスなの! ステータスは活かしてなんぼよ! どんっどん、アピールなさい!!」
言って、赤いスカートの裾をはためかせて歩く。
膝上まである赤い具足ががしゃがしゃと音を鳴らす。
「うぅ……でも恥ずかしいッス……!」
「ふんっ、まだまだひよっこね」
「自分まだ二日目ッス!」
縮こまりながら、瑠奈莉愛は自身より背の低い朱里の背中に隠れるようにして歩く。
「そう言えば、アンタ呼び名どうすんの?」
「呼び名ッスか?」
「ええ。魔法少女になったからには、呼び名が必要よ。ちなみに、知ってると思うけどアタシは
「私は
「わ、わたしは
「で、アリスはアリス。アリスに関しては本名は知らないけど、皆魔法少女としての名前があるの。アンタの名前はどうすんの?」
「え、どどど、どうしましょう……?」
急に言われても良い呼び名など唐突に思い浮かぶ訳も無い。
おろおろとする瑠奈莉愛に、しかし他の者も良い呼び名が出る訳でも無い。
「
そんな中、ぽつりと誰かが呟く。
驚いた様子で皆がその少女を見やる。
そう。名前を提案したのは誰にとっても意外な人物――アリスだった
「意外ね。アンタ、そういうの気にしないんだと思ってたわ」
「呼び名。無いと不便でしょ」
「別に名前で呼べばよくない?」
「呼び名の方が良い」
「なんでよ?」
「その方が、
本名よりも、その方が都合が良い。だから、アリスから提案した。
「うっわぁ……本当にコミュ障……いや、バッドコミュニケーション?」
「ち、因みにアリス」
「何?」
「な、名前の由来は?」
「ドイツ語で狼」
「か、かっこいいッス!! 自分、今日からヴォルフでお願いするッス!!」
いたく気に入った様子で尻尾をぶんぶん振る瑠奈莉愛。
「名付け親はアリスさんだって友達に自慢して良いッスか?!」
「好きにして」
「ありがとうございますッス!!」
嬉しそうににまにまする瑠奈莉愛を見て、白奈とみのりが羨ましそうにしている。
それを見て朱里がつまらなそうな顔をする。
「ちぇっ、アタシが名前つけてあげようと思ったのに」
瑠奈莉愛の名付けをしている間に、少女達は異譚の直ぐ傍までたどり着く。
「あら。重役出勤ね。流石英雄様は違うわ」
一番遅くやって来た童話の魔法少女達を見て、既に現着していた花の魔法少女の一人が厭味ったらしく言う。
「何処にも居るものね」
「なんでアタシを見る訳?」
「自分の過去の行いを思い返してみなさい」
「状況は?」
言われた本人であるアリスは気にした様子も無く現状の擦り合わせを行う。
花の魔法少女、星の魔法少女、その両方から一名ずつアリスの元へ来て状況を伝える。
「ウチの子達に先行して調査して貰ってるけど、いつも通り陰気臭い場所みたいよ」
「こちらも同じような報告を受けています。ただ、こちらは生存者を発見したみたいです。今、学校などの避難場所まで誘導と保護をしているそうです」
「そう。核の発見は?」
「まだ。影も形も見当たらない」
「そう。じゃあ、直ぐ入りましょう」
「現着一番遅かったくせに偉そうですねぇ」
言いながら、花の魔法少女がアリスの頬をぷにぷにと突く。
「今日もぷにぷに。健康の証だな」
星の魔法少女もアリスの頬を突く。
比較的、他所属の魔法少女は仲が悪い。が、全員が全員そうである訳では無い。
彼女達のように他の魔法少女に対して好意的な者も居る。
「やめて」
一歩下がって二人の突きから逃れるアリス。
「ああ、愛しのぷにぷにが……」
「良ぷにが……」
「まずは仕事。ふざけるのはその後でしょ」
二人の間を通り、勝手に異譚に入ろうとするアリス。
「ちょっとちょっと! 作戦とかは?」
いったん足を止めて、アリスは振り返る。
「作戦とか、いる?」
それだけ言って、アリスは勝手に異譚へと歩く。
ちなみに、肩に乗ってるみのりはアリスの髪の中から出てきてぷんすこ怒った様子でアリスの頬を触る。
「ま、まったく、無礼な人達! アリスのほっぺを突くなんて!」
「別に良い。仕事さえしてくれれば、それで」
「わ、わたしの方が良い仕事するよ! あ、アリスのために頑張るよ!」
「そ」
「あぅ……し、塩対応……」
塩対応をするアリスにみのりはしょんぼりと肩を落とす。
「ちょっとアリスゥッ!! アンタ勝手に行くんじゃ無いわよ!! てかコミュニケーションくらいしなさいよ!!」
慌てて追いかけて来た三人。
「一応、私が話を付けておいた。私達は少数精鋭。遊撃として動く事になった」
「そう」
「花と星で住民の保護と救助活動をしてくれるみたい。私達も住民を助けつつ、異譚の攻略を進めましょう」
「分かった」
魔法少女達は異譚の前に立つ。
「さ、行くわよ。今日も華麗にね」
「関係無い。どんな形であれ、私達は異譚を終わらせる。それだけ」
「はぁ、分かって無いわねぇ。これだからステータスの無駄使い女は。華麗に戦って華麗に終わらせる。それが魔法少女ってものでしょ」
「違う。異譚を終わらせるのが魔法少女。それ以外は二の次で良い。私達は、ただ異譚を終わらせる。それだけを考えて」
アリスはつかつかと足早に異譚を覆う
「ちっ、偉っそうに」
「事実、偉いわよ。階級的には私達より上だもの」
「分かってますぅー! ふんっ、さっさと終わらせるわよ! ディナーまでには帰るんだから!」
ずかずかと足音荒く異譚に入る朱里。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「りょ、了解ッス!!」
緊張した面持ちで、白奈の後に瑠奈莉愛は続いた。
午後一時。異譚攻略作戦開始。
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