第18話 ほめられた

 俺は、バリスタとよばれる聖国の遠距離用兵器を破壊した。


 空をぐるりと飛び回りながら、聖国兵士の武器を破壊し、魔術師を戦闘不能に追いこんでいく。


「ひゃっほーう!」


 戦場だというのに、ラミはこの状況を楽しんでいた。


「だいたいの大型兵器は破壊したはず」


 いちおう獣人族たちに報告することにした。

 味方の陣地の奥、後衛の場所まで移動する。


「フェニックスー!助かった!」

「ありがとうよ!」


 俺に近づき、礼を言う獣人族たち。

 俺に甘い生贄いけにえたちに褒められることはよくある。

 だが、手厳しい同性相手に褒められることは滅多にないので新鮮だ。

 照れくさくて少し顔をそむけた。

 まあ、鳥の顔だから赤くなったりはしてないんだろうけど。


「さすが私のニック!」


 ラミも誇らしげだ。


「長も感心してたぜ」

「やっぱ空を飛べるやつは強いなぁ!」

「フェニックスってやつぁ強いんだな!シビレたぜ!」


 獣人族の称賛にラミがうんうんとうなずいている。

 誰目線なんだ。


「獣人族に鳥はいないのか?」


 ふと思いついた疑問を投げかけると、獣人族はガハハと豪快に笑って答えてくれた。


「そりゃまた別の種族だよ。鳥人族ってやつらだ」

「あいつらは山深くにすんでるから、滅多に俺たちと関わらないけどな」

「また違うのか」

「へー知らなかった」


 けっこう分類がこまかいな。

 ラミも初耳らしく驚いている。


「意外にラミも知らないことが多くないか?」

「だってドワーフの国は大陸の南東側だから!

 北西の情報なんて滅多に入らないんだよ!」


 俺の言葉にプンスカとラミが言い返してくる。


「へぇ、お嬢ちゃん。ドワーフなのか」

「初めてみた」


 獣人族もラミをまじまじとみている。


「ちょっと、見世物じゃないんだけど」


 不機嫌そうに、ラミが俺の後ろに隠れた。


「悪い悪い。ドワーフで生贄いけにえってヤツに、このさき一生会わねぇだろうからなぁ」

「そりゃそうだけど……」

「安心しな、すげぇ美人だったって言っておくぜ」

「もう、絶対だよ!」


 ラミの機嫌が治っていた。

 それでいいのか。


 このやりとりで分かったが、おたがいが珍獣のようだ。

 ラミは獣人族の生贄いけにえと交流はあるが、まったく彼らに対する知識がない。


「あの山脈をこえる交流はないんだな」


 火山を中心に大陸を真横に区切る壁のような山脈。

 飛んでいる俺からすれば、方角が分かるただの目印だ。

 だが、飛べない彼らには大きな意味を持っていたようだ。


「そりゃ、あの火山山脈を越えられるヤツはいねぇからな」

「最近はかんたんに越えられるって聞いていたが……」


 ルフが前に、そう教えてくれた。


「そりゃデカい国の魔術師とか、おエライサンだな!

 そもそも俺らには山脈を越える理由がねぇな」


 笑いながら教えてくれる。


「地上にいないと分からないことも多いな。勉強になる」

「だから、空を飛べるっていうのはスゴイことなんだよ!」


 ラミが力強くいうと、獣人族たちもうなずいた。


「なら空中戦は俺しかできないのか」

「そうだ」


 納得した俺に、うしろから獣人族の長が返事をした。


「フェニックス、お前には借りができたな。

 必ず返そう」


 少し表情を柔らかくして長がいう。

 なんかすごく距離が縮んでいる。


「さあ、お前ら!休憩は終わりだ!

 前線と交代しろ!」

「「「はっ!」」」


 武器をとって戦場へとむかう、気合十分な獣人族たち。


「じゅうぶん休憩できたし、私たちもいこう」

「そうだな」


 ラミが俺にまたがる。

 あたたかい重みを感じる瞬間はいまだに慣れない。


「ニック?飛ばないの?」

「あ、あぁ」


 空へ羽ばたいて、上空から戦地を見おろす。

 獣人族が聖国を押している。

 士気も高く、己の身体能力をじゅうぶんに発揮して、聖国の兵士をどんどん倒していた。

 魔術師も魔法をかわし、物理的な攻撃でなぎはらう獣人族たち。


「ひゃー!絶好調じゃん!」


 ラミは俺の背中で歓声をあげていた。

 とてもいい状況だ。

 いい状況なはずなのに、なにか違和感を感じる。


「なんだ?」

「どうしたの?ニック」

「分からないけど、なにかがおかしい」


 上空を飛んで、違和感の正体をさぐる。

 聖国の兵士たちに不審な点はない。

 なにか、別の兵器を用意している様子も見られない。


「なんだろう……なにがおかしい?」


 獣人族は全く変わらないはず。

 変わったのは聖国側だろう。

 でも、なにが?

 兵士?魔術師?

 いや、違う……。

 聖国じゃない。


「よく見ろ。よく観察するんだ」


 ひとりごとをつぶやきながら、目をこらす。

 俺が異変に気づいたのは、それからすぐだった。


「獣人族は、魔法が使えなくなっている?」



 ◆◆◆

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