第1話 ここはどこだ?

「うわぁぁっ!」


 ひっくり返った状態で俺は叫んだ。

 俺は……名前が思い出せないが配送屋で働いている一般人だ。

 今日も普通に仕事していたはずだ。

 事故にでもあったんだろうか?


「あいたたた……」


 道路のはずなのに、寝転んでいる地面はなんだかザラザラ、トゲトゲとした感覚。

 それに車の音も聞こえない。

 周りの音がなにもないのだ。


「どこだ?ここ?」


 青空しか見えない静かな空間で一人つぶやく。

 ゆっくりと起き上がろうとして、いつものように手足が動かないのに気づいた。


「ん?骨が折れたっ!?」


 ビビって体が固まる。

 何を隠そう、俺はビビりなんだ。

 しばらく停止して自分の体の様子をみる。

 ……うーん、痛みはない。

 ゆっくり動かせば大丈夫か……。

 手をばさりと動かして……。


 ばさり?


 俺の手は赤い鮮やかな翼だった。


「うわぁぁぁあ!」


 ――俺は、気絶した。


 …………

 ……


「……ハッ」


 一瞬だけ気絶した俺は、自分の体を観察することにした。

 まずは起き上がりたい。


 ばさり


 翼となった両手が空を掻くだけだ。

 一瞬見えた足も鳥の脚だった。

 本当に鳥になってる。


「詰んでね?」


 手で体を持ち上げることも出来ない。

 絶望しかない状況だ。


「はっ!ごろんって回転すれば……!」


 体をひねった。


 ごろん


「おっ!」


 いい感じだ。

 地面の砂利じゃりがうまいことすべって俺を手助けしてくれる。

 反動をつけてもう一度。


 ごろっ!ごろっ!ごろん!


「おおっ!うつぶせになれた!」


 アゴの下に地面を感じる。

 眼の前は灰色の石ばっかりの場所だった。

 草一つ生えていない、生き物一匹いない土地。

 さっきまで俺が働いていた場所と全然違う。


「本当にどこだ?」


 立ち上がろうとすると、問題なく立てた。

 首を回すと真後ろまで見れる。


「うお!首が柔らかい」


 池に住んでいるカモの気持ちになってきた。


「本当に鳥になってる……」


 見下ろす体は燃えるように赤い。

 俺はダチョウより大きな鳥になっていた。

 手を広げると、ばさりと広がる翼。

 予想以上に大きい。

 脚もダチョウのように太くて、蹴ると相当なダメージを与えられそうだ。


「これ……飛べるのか?」


 試しに羽ばたくと力強い風が生まれた。


 ばさり、ばさり


「なんだかいけそうだ」


 バサッバサッ


 弾みをつけて空へ羽ばたく。

 上へ上へとあがる感覚は気分が良い。


「おおっ!飛んでる!」


 とてつもなく高いところを飛んでいるのに全く怖くなかった。

 ここは俺の領域テリトリーなんだと本能でわかる。

 出発点を振り返ると、テレビで見た火山のようにへこんだ山頂。

 カルデラという、大きなへこみの一部から煙がもくもくと出ている。


「あそこ、火山だったのか」


 灰色のところから少し離れると硫黄で黄色に染まった岩々が見れた。

 火山って毒ガスもあるよな?

 よく生きていられたもんだ。


 そんな考えはさっさと捨てて空を飛ぶことを楽しんだ。

 旋回したり、身体をひねったり、スイスイと飛べる体にテンションがあがる。


「楽しいなぁ」


 かなりの高度から見下ろすと火山を半分取り込むような鬱蒼うっそうとした森がある。


「ずいぶん大きな木だ」


 森から大きな木が一本だけ飛び出ていた。

 飛び出ているだけではなく、階段のようなものやツリーハウスもある。


「人が住んでる?色々教えてもらおうっと」


 この場所について知っていそうだ。


 そうと決まれば大木まで急降下。

 翼をたたんで真っ逆さまに降りていく。


「どこに降りようかな?」


 速度をゆるめ、大木のまわりをキョロキョロ観察した。

 しかし大きな木だ。

 運動場より大きいかもしれない。

 現実じゃありえない大きさだ。


「ん?光った?」


 目のはしでキラリと光るなにか。

 金髪の女の子が笑顔で、俺に手を振っていた。


「金髪が光っていたのか」


 女の子の方へ向かうと、ヘリポートのような場所があった。

 滑るように入ると、金髪の子以外に二人の女の子がいた。

 みんなニコニコとしていて敵意はなさそうだ。

 もし、ヤバくなったら飛べばいい。


「ここはどこだ?」

「ここはボルケニアという村です」


 キラキラした金髪に赤い目をした女の子が、答えてくれた。


「ボル……?村?この木にみんな住んでるのか?」

「はい!この木は聖なる木で、私たちのおうちなんです!」


 うさ耳にピンク色の髪をした女の子が答えた。

 うさ耳がゲームの世界のキャラクターみたいだ。


「聖なる木……?」

「はい。フェニックス様の生贄いけにえはみんな、ここに住むのです」


 次に答えたのは、長い耳に褐色の肌の女の子だ。


「い、生贄いけにえ!?」

「はい!」


 物騒な言葉の割にニコニコとしているうさ耳の女の子。


「みーんな、各国からフェニックス様のお嫁さんとして連れてこられてるんです!」

「こら!

 お迎えしたらルフ様のところまで、連れてきなさいって言ったでしょう!」


 お嫁さん発言に驚いているとまた女の子がやってきた。

 今度は3人よりも年上にみえる、青い髪の女の子だ。


「はーい……」

「ケチ!」

「だって初めてお会いしたんですもの」


 口々に3人がぼやく。


「彼女たちは悪くない。俺が色々たずねたんだ……」


 フォローしようとしたら青い髪の子は盛大にため息をついた。


「フェニックス様、3人だけを甘やかしてはいけません!

 ここには100名ほどの生贄いけにえがいるのです!」

「ひっ、ひゃくにん……?」

「はい。ルフ様がご説明なさいますので、着いてきて下さい」


 いちいち話のスケールがデカいので、大人しくついて行くことにした。


 一歩、二歩、三歩。


「ここはどこだ?」


 キョロキョロと辺りを見回して俺は尋ねた。


「え?」

「ウソ!」

「言い伝え通りですね」


 3人の女の子たちが驚いたように俺を見ている。


「へ?」


 ぽかんとする俺。


「そっか。フェニックス様は、三歩歩いたら忘れてしまうのでしたね」


 青い髪の女の子がやれやれと言ったふうにつぶやく。

 三歩歩いたら忘れるって鳥頭じゃないか、失礼な。


「とりあえず、ついてきて下さい」


 一歩、二歩、三歩。


「ここはどこだ?」


 一歩、二歩、三歩。


「ここはどこだ?」


 一歩、二歩、三歩。


「こ」


「あぁぁ!キリがない!」


 青い髪の子が、頭をぐしゃぐしゃと掻きながら空を見上げた。


「……すまん」


 なんだかとってもイラつかせている事だけは分かるので、ついションボリしてしまう。


「やだ!落ち込んでる!」

「かわいい!」

「なぐさめてあげたい」

「そこ!聞こえてるわよ!」


 ヒソヒソ話す3人に怒る青い髪の子。

 なかなか厳しい子だ。

 青い髪の子は、くるりと俺を振り返った。

 威勢が良かった今までとうってかわって眉をハの字に下げている。


「す、すみません。可愛くないところばっかり見せて……。

 私も早くお会いしたかったので、つい……。あの、その、」


 赤くしてモジモジしだした青い髪の子。

 なんだかいじらしい。


「なに?」


 出来るだけ優しく返事をする。


「あの、わ、私のこと嫌いにならないで下さい!」


 泣きそうな顔で俺を見つめる青い髪の子。


「嫌い?しっかり者のいいお姉さんだなって思ったよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん」


 口うるさいくらいじゃないと、あの3人を制御できないのは薄々分かった。

 そしてこの子がとても責任感が強い子だということも。


「よ、良かったです」


 ほっとしたように俺を見つめる青い髪の子。


 その時、ふわりと花びらが舞った。


「なんじゃ、おぬしら。私をおいて仲良くしよって」


「「「「ルフ様!」」」」


 渦をまく花びらの真ん中。

 黄緑色の髪をもつ、ボン・キュッ・ボンの妖艶な女性がそこに立っていた。


 ◆◆◆

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