三匹のピーターパン、陸海空を席巻する

高丘真介

第1話

 少年たちを迎え入れるべきピーターパンが逆にネバーランドを出て行ってしまうというのは、本来であれば由々しき事態であった。しかし、増加の一途をたどるピーターパンが、少しずつ外部へと放出されていくのは、一方では仕方のないことなのかもしれない。

 年をとらない、という彼らの特質が影響していると言わざるを得ないが、もともと血気盛んなピーターパンたちは、あまりにも自分たちの力が大きくなりすぎることに、逆に我慢がならなかった。その中でも特に力を誇示することに喜びを見出す固体が、今回ネバーランドを出た、この三匹のピーターパンであった。


 三匹はそれぞれ、お互いにある程度近場に家を構えることにした。 

 一匹目のピーターパンは、わらで家を作り、他の個体と識別するために、ピーターパン・グレートと名乗ることにした。

 また、二匹目のピーターパンは、木の枝で家を作り、スーパーピーターパンと名乗った。

 三匹目はレンガで家を建て、ピーターパン・オリジンという表札を掲げた。

 

 もともとその土地には、一匹の狼が住んでいた。住んでいたといっても、特別に誰かに許可を得ていたわけでもなければ、何か建造物で生活を営んでいたわけではなく、ただその界隈をうろついていたというだけなのだが、その狼にしてみると、どこからともなく現れて突然自分勝手に住処を作っていったその三匹のピーターパンには憤りを覚えていた。

 自分の住処が荒らされたということに対してもそうなのだが、なによりも彼らが自分に対して微塵も恐怖を感じていないことに、自尊心を傷つけられていたのだった。

 そんなわけで勝手に復讐心を燃え上がらせた狼は、ピーターパンたちを排除するべく行動を開始した。


 まずは、一番簡単に家を破壊できそうな、ピーターパン・グレートのところへ赴いた。わらの家の前で仁王立ちしてがおおうとひと吼えした後、


「俺様をいったいだれだと思っている。出てこないと家ごと吹き飛ばしてしまうぞ」


 もう一度がおおうと吼えるが、わらの家からは何の反応もない。

 実際にはピーターパン・グレートはただ家の中で惰眠をむさぼっていただけなのだが、狼はそれを恐怖で震え上がっていると勘違いして、


「がははは。そうかそうか。そんなに吹き飛ばされたいのか」


 そういうと、腹が大きく膨らむほど息を吸い込み、一気に鼻から放出してわらの家へ吹き付けた。

 一瞬にして、すべての構造部材を吹き飛ばされたわらの家は、ただのむき出しの柱だけがぽつぽつと残るのみとなり、その騒ぎで、中で眠っていたさすがのピーターパン・グレートも、目を覚ました。わらで編んだ布団から上半身だけを起こして、きょろきょろとあたりを見まわし、のっしのっしと自分に近づいてくる一匹の狼の姿を目に留めた。

 狼は余裕しゃくしゃくで半ばスキップしながら、目の前の少年へ向かっていくが、ピーターパン・グレートからすると、なぜその下等生物がこれほど無謀な挑発行為をしてくるのかがまったく理解できない。ただ、せっかく作った家が壊されたことは事実なので、理解できないなりにも何なりとその怒りを処理しておかなければならない。そう判断した。


「かわいそうだが、貴様はこの俺様に食われる運命にあったのだ」


 と前口上をして、がばりと大口をあけて飛び掛ってくる狼の巨体を、空へ飛び上がって難なくかわしたピーターパン・グレートは、すぐに後ろ側に回り込み、空中で延髄蹴りを食らわせる。

 前のめりに崩れた狼は、何が起こったのかわからない。狼からすると、突然目の前の獲物が消えたようにしか感じられなかったのである。

 それでも彼が体勢を整えて背後を振りかえったときには、目にも留まらぬスピードで飛びかかってくるピーターパン・グレートに両耳をつかまれ、そのままの勢いで投げ飛ばされた。

 まだ耳が頭にくっついているのが不思議なほどの激痛に襲われた狼は、生命の危機を感じて我知らず逃げ出していた。


 あとに残されたピーターパン・グレートは、しばらくはその場にたたずんでいた。

 もともと、強さというものは優しさの裏返しであるという主義を持っていた彼は、今怒りの感情を狼にぶつけてしまったことが正しい行為だったのかどうか、それがわからなかった。

 たしかに、あの狼の行動は意味もわからないうえ、明らかに反社会的な行為で罰せられてしかるべきだ。もしネバーランドで同じようなことをした少年がいたらどうするだろう。そう考えると、やはり罰を与えるはずだ。それはそうなのだが、今のはただの報復行為であり、いわゆる罪に対する懲罰ではない。


 では、いったいどうするべきだったのか――。


 ピーターパン・グレートは、行き詰った。そして、それから悶々と小一時間考えた末、彼は、ティンカーベルとともに旅に出ることにした。

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