火
鯛焼きいかが
火、ほどよく暖かくしなさい。
「火、あなたには、私が凍えないようにする仕事を与えます」
魔女は、残された精一杯の魔力を絞り出して、寒さに震える手のひらに、一つの小さな火を産みました。火は、初めて与えられた仕事に燃えて、魔女をいっぱい温めようとしました。
魔女は「熱い」と火を手から滑り落としてしまいました。
「改めて。火、あなたには、私の周りをほどよく暖める仕事を与えます。ほどよくとは、概ね二十度前後の温度です」
仕事は上書きされたものの、火はみるみる小さくなっていきます。気温は氷点下、周囲に燃えるものはなし。火には力が足りません。
魔女は、長い靴下の片方を火に与えました。
「火、ただ暖めるだけでは、あなたは力尽きてしまいます。仕事をするためには、あなたの
少し元気になった火は、木でできた建物の端にとりつきました。建物は魔女を閉じ込めておくためのものでしたが、ゆっくりと燃えていき、やがて外の光景が見えてきます。
外は一面の銀世界でした。
魔女は燃え残った建物の残骸を何個か拾って、そこに火を乗せて歩きだしました。
「火、私はお腹が空いているので、新しい仕事を与えます。この林を燃やして、食べられる動物を
火は張り切って林を燃やしました。ところが、勢いあまって全て燃えかすにしてしまいました。
そんな失敗を、火は三度も繰り返しました。
「そろそろお腹が限界です。火、もう失敗しないでください」
火は次の林を燃やしました。今度は、魔女の方に逃げるように林を燃やしたので、何羽かの雪ウサギを捕らえることができました。
「火、疲れたでしょう。しばらく休憩します」
焼け残った木片に火が移ると、急に気温が下がり、魔女は震え出します。
「火、あなたのするべき仕事を忘れてはいけません」
火はたちまち大きくなり、魔女を温めます。ついでに、木の枝を刺したウサギをローストしていきます。魔女は奪った命に感謝しながら、大切にウサギを食べ切りました。
元気が出た魔女は、周囲を見渡しました。人が住んでいそうな場所は、どこにも見当たりません。雪山ばかりが続いています。
「しばらく私の話し相手はあなただけのようです、火」
魔女は雪を一箇所に集めながら、思い出話をし始めました。
「私は突然捕まって、裁判を受け、罪を償うように言われました。けれど、私には悪いことをした心当たりがありません。魔女だからという理由だけで、罰としてこんなに寒い土地に連れてこられたのです。でも、罰はそれで終わりなので、あとは何をしようと自由です。今は何も見えませんが、寝て起きたら、人里を探しに行きましょう」
魔女は何時間もかけて、人一人が横になれるくらいのかまくらを作ると、その中に小さくした火を移し、いくつか木片をくべて、欠伸をしました。
「私は今日の活動を終えます。おやすみなさい、火」
火は魔女が寝た後も仕事の約束を守り、魔女の周りを暖め続けました。
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