神社

 今から、5年ほど前のこと、小学6年生の夏休みの話を語ろうと思う。僕は奇妙な体験をしたことを未だに覚えている。

 あの頃は、僕、裕、宗助の三人の少年は秘密基地を作ることに熱中していた。僕はもともと、部屋で読書をするような子供であったが、交通事故の影響で一時は体を動かすことが出来なかったということもあり、動けることが出来るようになった途端、外でよく遊ぶ子供になった。遊ぶことが多くなったこともあり、友達も増えた。裕、宗助もその頃、出来た友人だ。そんなこともあり、子供の時のロマンを僕たちは作り上げることにした。だからこそ、今、僕は未だに自分の好きなことであるゲームを仕事にしているのだと思う。

 話は戻るが、僕たち三人は小学校の裏山にある神社、その脇にある鍵のかかっていない倉庫を勝手に清掃し、自分たちの宝であるゲーム機やおもちゃ、お菓子を持ってきては楽しんだ。通常であれば、倉庫は近隣の住民が神社を清掃するために機材が置いてあると思うが、最近使われた形跡もなく、また、神社に足を踏み入れた跡が無かったことから、僕たちはこの場所にしたんんだと思っている。そんな倉庫の中身には、幾つかの札、鈴の付いた棒が置いてあり、僕たちは神具だとも知らずに流行っていた漫画の真似をしながら遊んでいた。罰当たり、今ではそう判断できる。

 あの日は日差しの強い日だった。風は吹いておらず、気温が高かかった。僕たちはいつも通り、秘密基地に行った。木々も多く、木陰もあり、やや涼しかった。


「なぁ、今日は何して遊ぶ?」


 と裕は云った。


「うーん、涼しいけど……あまり動きたくないなぁ」


 と宗助は外で動くことを嫌そうに云った。元から小太りの宗助だ、そもそも動くことを嫌っているのだから、熱くても寒くても動くことにはいつも反対している。


「じゃあ、どうする?」


「じゃあ、秘密基地でトランプなんてどうかな?」


「三人だとあまり楽しくないぞ」

「そうだね」


「じゃあ、何がしたい?」


と僕は云う。宗助は反対しかしないのだから、僕は少しだけ腹が立っていた。


「うーん、テレビゲームでいいんじゃないかな」


「いつも通り過ぎるしな」


「各々が遊びたいことを遊べばいいんじゃない?」

 

と僕は云い、神社のほうに歩いていく。誰からも止められることはなかった。

  



 山の中を散策すること、十分。やはり木々が多いため、涼しい風が吹いている。

みんみんとセミが鳴いている。暑さの象徴。鳴くのはやめてほしい。そんなことを考えながら、蜜のある木々を探す。そう、僕はカブトムシ、クワガタを探しているのだ。時間的には昼前の11時と云うこともあり、今は木々の葉に隠れて休んでいるはずだ。そう考えながら、探している。ここにもいない。僕たちはこの裏山のことを知り尽くしている。川や崖の位置、獣が住まう危険な場所までだ。僕は少し考えてから決意した。獣が住まう危険な場所その向こうにある大樹。そこには必ず、いるはずだ。すぐに実行に移した。ゆっくりとした足取りで獣道を歩く。相手に気づかれたが最後、終わりだ。だがらこそ、ゆっくりとゆっくりと歩く。

 右には洞窟がある、最も危険な場所のすぐ近く。よく見れば子連れの大猪がいた。心臓の鼓動が高まる。慎重に慎重にだ。そう心に云うと、物音一つ立たせず、歩いた。

通り過ぎるとふぅと一息つく。緊張が一気に解けた。危険な場所はもう、終わった。早くあの大樹に行こう。

 


 森を抜けると、目の前には巨大な大木が立っている。樹齢推定600年ほどだろう。そんな木だが地域の方が知っている様子はない。だから僕たち三人の秘密にしている。

 そんなところに僕よりも先客がいた。見たところ、裕にも見える。だから、僕は駆け足で向かった。だけど、近づくにつれ、気づいた。裕が来ていた服とは全く別なのだ。だから、次の行動に悩んだ。とりあえず、話しかけてみることにする。


「ねぇ、君。どうしたの?」


 その子はこちらに気づき、振り向いた。少女だった。黒髪を肩のあたりで切り落としたショートカットで同い年くらいだろうか、そんな印象を与える顔つきだった。フリルをつけた白い半袖に黒のパンツの恰好、幼さの際立つ服装だ。


「?」


「迷子?」


 一言目があまりにも失言だとすぐに気づいたが、今更遅かった。だが、特に彼女は気にすることなく、云った。


「ううん、私はよくここに来るだけ。人の子と会うのは初めてよ」


「そうなんだ。僕もここで友人以外で会うのは初めてだよ」


「そう……」


とりあえず、何か話そう。そう思い誘ってみる。


「よかったら、秘密基地に遊びに来ない?」


「ううん、私はやめとくわ」


 彼女は頸を振り、云う。あまりにも興味なさそうに云っていた。


「分かった」


 僕は目的を忘れ、帰ろうとしたとき彼女は云った。


「もう、神社に行くのはやめておいたほうがいいわ」


「え?」


 なぜ、彼女は神社と云った?僕は一言も云っていないのに。


「六時前には帰らないと家に帰れなくなるから」


「それはどういう意味?」


 僕が振り返るとそこに彼女は居なかった。だけれど、彼女の言葉は何故だか破ってはいけない、そんな気がした。

 


 僕は神社に帰った。帰り道も同様に危険な場所では細心の注意を払いながら帰り、無事辿り着いた。だが、先程の様子と変わっていた。裕と宗助は同い年にも見える少年たちと遊んでいた。


「遅いぞ」


 僕が来たことに気づいた優が遊びを切り上げ、云う。僕は知らない少年たちと遊ぶ裕たちに驚き、訊くことにした。


「彼らは誰?」


 裕は指を刺しながら、説明する。


「え、あぁ。彼らはしょうとくんにゆいくん、えれんくんにしんくんだ。さっき、そこで出会って、遊ぶことにしたんだ」


「そう……なんだ」


「おまえもやるか?」


 裕は僕を誘ったが断わった。さっきの彼女の言葉が今でも引っかかっているからだ。僕はそう云うと、秘密基地に入っていく。僕はソファに横になると突然、眠くなり、そのまま体をソファに委ねた。


 

 気が付くと腕時計の針は五時を指していた。そろそろ、帰り時だ。そう思い、荷物をまとめて、秘密基地から出る。


「え」


 外に出た時、すぐに違和感に気づいた。夕方だというのに、今でも太陽は真上にある。もう一度、僕は腕時計を見る。腕時計の針は五時を指している。みんなは疲れを知らず、遊んでいた。


「ねぇ、もう帰らないか?」


 僕はそういった。だが、


「何言っているんだよ、まだお昼だぞ」


「そうだよ。まだ、お昼だよ」


僕は腕時計を指し、云った。


「そんなわけないじゃないか。五時を指しているんだ。だから、帰ろう」


 彼らも、僕につられ、腕時計を見るが、


「どうせ、こわれたんだろ。だって、太陽は真上だぜ」


「太陽が真上にあることが可笑しいんだよ。だって、僕がさっき話してかから、ずっと太陽は真上にあるんだ」


「何言っているんだ、太陽は嘘をつくわけないだろう」


「もう、いい。僕は帰る!」


「ソコマデイウナラ、カッテニオマエハカエレ!」


 誰の声だか分からない言葉が聞えた。




 僕は裏山を走り抜け、下山する。いつもは簡単に帰れたはずの道が遠くなる錯角

を感じた。走っても、走っても辿り着かない。なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで……


「君は」


 横から声がした。僕は足を止め、その声が聞こえる方向に振り向むこうとする。だが、僕の頭を押さえられる。だが、わかる。そこにあの時の彼女がいることを。


「貴方は私の話を信じてくれた。だから、まだ元の世界に帰れる」


「時間が可笑しいんだ」


「うん、知ってる。貴方が正しいわ。彼らに時間の概念が無いのだから仕方がないわ」


 僕は自分の事だけしか考えていない。仕方ないんだ、仕方がない。


「僕は帰りたい。どうすれば、帰れる?」


「帰る意思があれば、この道をまっすぐ帰れば、帰れる。ただ、約束して。これからは歪みが大きくなる。だから、振り向かず、走ること」


「分かった。ありがとう。君は帰らないの?」


「私の居場所はここなの。場と場を繋げ、魂を安らかにすること。それが私に与えられた役目だから」


「それって」


「あまり、気にしなくていい。私の事を忘れ、本来の人生を生きること。あなたはここに呼ばれただけ。でも、それは誤り。貴方は生きているのだから。だから、あるべきところに帰って」


 意味が分からなかった。少女は僕を抱きしめた。優しい匂いがした。あたたかい、それだけだ。


「さぁ、帰りなさい」


 僕は振り向かず、走った。



僕は裏山の前で倒れていたそうだ。そうだ、と云うのも僕には意識が無く、近隣の住民が倒れている僕を見つけたとのこと。その後、目が覚めると、両親から、こっぴどく叱られた。今日の出来事を云えば、両親に不審がられ、一言。


「裏山に神社なんて、ないわよ」


 僕はその後、友人の事、神社の事を調べた。そして、全てが分かった。

 神社は存在しないし、友人も最初から存在なんてしていなかった。僕は数か月前の事故により、生と死の狭間にいたことで、生も死にも干渉できる体質となってしまったということだ。死を干渉できるということはつまり、死の世界への侵入も可能ということ。だから、あの神社は期間が決まった死後の遊び場ということだ。

 僕はあの少女に助けられ、死後の世界から戻ってくることが出来た。だが、もし、少女が僕を助けず、見過ごせば僕はあの世界の住人となっていただろう。そう、結論づけた。


そう、それでいいんダ……………………






-----------------------------------------了----------------------------------------


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