第3話 調査2

 …………

 …………

「あ、あーっつ」

 痛ーえと言いながら、後頭部をさすり、勝輔は気絶から覚めた。花時計の時刻を見る。十一時四十二分。夜風に誘われ、一つ大きなくしゃみをした。

「まいった、バレてたんだな、貴士」

 まだ倒れたままの貴士の半身を勝輔は抱え起こし、ぺちぺちと貴士の頬を叩いた。「おい、貴士、貴士起きろ」

 ほどなくして貴士は意識を戻し、うー、んーと小さくうなりだした。

「気がついたか」

「……ああ。……ちっくしょー、一体、誰にやられたんだ。まだズッキズッキ疼いてるぜ」

 貴士もまた、自分自身の後頭部を撫でまわしながら、勝輔から体を離し、花時計の方に目をやった。「誰もいる訳ないか、当然」

「まあ、とりあえず、事件現場へ行ってみようぜ」

 勝輔が言い、そうだなと、貴士が答えた。

 小走りで、もはや誰もいない花時計の前に来た二人は、男たちがいたあたりの地面をキョロキョロと見渡した。

「どっかその辺に、なんか手掛かりになるようなもん、落ちてねーか」

 貴士が言う。

「……ん……」

 口数の少ない勝輔は、花時計を囲んでいる鉄柵をまたいで中に入り、巨体を窮屈そうに折りたたんで中腰の姿勢になった。がさごそと草花を手でかき分けながら、調べ始める。

「けど、あいつら何者なんだろうな」

 言いながら、貴士も柵の中へ入っていった。

「……さしずめ、伊賀忍者の、末裔、……」

 中腰のまま、勝輔は言った。

 貴士はそれを聞き、ほほほほと笑った。「お前にしちゃ、ユニークなことを言ったな。伊賀忍者か、なるほどな」

「お前、どう思う」

 今度は勝輔が訊いた。

「んーん」

 貴士は唸った。「ただものではない奴ら」

「それは確かだ」

 勝輔は言った。

 何かがあった。何かが一瞬、ストリートライトの光をピっと、はね返したのだ。勝輔はそれを拾った。

「貴士、ちょい」

 片手でおいでおいでをしながら、野太い声で貴士を呼び、勝輔は立ち上がった。

 それは星型をした可愛らしいポケットウォッチだった。クリアブルーのハードプラスチックで形成されてあり、てっぺんに金色の細い鎖が20センチほど伸びている。その中央部にデジタルパネルが組み込まれてあり、23;50と光る数字が浮き上がっていた。可愛いもの好きの女の子なら、持っていそうな物である。

 これよ、見てみろよと言いながら、勝輔は貴士に手渡した。

「んーん。なかなかしゃれた……オッ、これ……」

 受け取ったポケットウォッチをしばらく見つめていた貴士だが、何かに気づき、声を上げた。

「なんだ。どうした」

 勝輔が言う。

「これ、俺どこかで見たような。んーと、いつだっけなぁ……」 

 眉根を寄せた貴士は小首をややかしげて、右手で頭の毛をぼりぼりと掻きむしった。

「……」

「えーっと、……そうだ!」

 パンと、貴士は手を打った。「思い出した! 文化祭。去年の文化祭の時だ」

 貴士は説明し始めた。

「去年の文化祭で、どこかのクラスがマジックショーを出しものにしてたんだ。それを俺は教室の後ろから観ていたんだけど、その時に前列にいた女子がひとり、舞台に呼び上げられてな、そこで、マジシャンから、何か小さな物はないかと頼まれたときに、その女子がポケットから取り出したのが確かこの星型ウォッチだった筈だ」

「で、その子はどんな子だったんだ」

 勝輔は訊いた。

「どんなって……、小柄でおとなしそうな、あんま覚えてねえなぁ……。なんせ、一番後ろで突っ立ってたんでな」

「そうか、すると、さらわれた女子大生はその子の姉さんか、知り合いか……」

「かもな。こんな時計、方々でよく見かけるってもんじゃないし。外国の土産かなんかかな」

「全然、無関係な人間が持ってたって可能性は少ないってことか」

「と思うんだが。けど、なんか面白くなってきたんじゃねーか、これ。ちょっとワクワクしてきたぜ。よっしゃ、とりあえず、明日からこの時計の持ち主探すとすっか」

 人一人が誘拐されている状態の中で、嬉しそうにワクワクでもなかろうにだが、貴士の眼光は生き生きと輝きだした。

「だな」

 勝輔は言った。

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