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霧、それは物理的に霧が発生しているわけではない。単なるSNS上における例えとも言えるだろう。
『謎の霧、それは一般人には見えません。あくまでも、電子機器に干渉する部類のジャミングと言えるでしょうか』
『このジャミング対策をした各種装備、それこそパルクールで装着するスーツなのです』
動画でも言及されていたスーツ、実技試験で実物を見ることになったのだが……どう考えても一般で見るような規模のスーツではない。
そのデザインは、どちらかというとSFやゲーム世界ともいえるような部類である。
装着するインナースーツも、ゲーミングパソコン的な発光する溝はあるものの、それ以外はSFのそれだ。
「スーツに着替えた人から、実技試験を始めます」
スポーツ施設ではなく、ライセンスの実技試験会場は草加駅近くにあるゲーム専門のエンターテイメントエリア、そこで行われる。
異例というよりは、スーツを使用したうえで確保できる広い会場が、ここしかなかったからだという事らしい。
質問をする人間もいたので、そこから把握した話だが。
一方で、試験が行われているフィールドは明らかに様々な競技で流用できそうな広さだったのに加え、貸し切りと言う位には他の客を見なかった事。
他の客に関しては別のゲームフィールドでゲームをプレイしており、ここへは入ってこない、というべきか。
ミニバラの出番になったのは、それからわずか10分ほど。スーツに着替え、メットも装着して……トライアル用のアーマーを装着して試験に挑む。
スーツに着替えた後には使用方法をレクチャーしてもらったりはしたが、これが試験内容と直結するのかは定かではない。
『その直線距離を走ってください。距離は500メートルありますが、時間を競うものではありませんので――』
ミニバラはスピーカー越しから聞こえる審査員と思われる人物の発言に対し、疑問に思う。
当然と言えば当然である。直線距離を走るだけ、今までの実技がアーマーの使用方法などをメインにしていただけに、まさかの展開に驚くしかない。
他のランナーがすでに走っているようだが、向こうがランナーのゴールを待つ様子はなかった。約1分間隔で次々と走っているようにしか思えないのである。
これはミニバラだけでなく、他の試験参加者も思っていた。一方で、タイムを競うものではないことを察している人物も数人いる。
つまり、ここで試されているもの、それはスピード競技としてではない。あくまでもアーマーを使いこなせるかどうか……そこに集約しているのだろう。
「時間を競うものではない、そう明言された以上は試されているのは……」
ミニバラは走るスタイルも無視して、直線距離を突き進む。目の前に見える光景、そこにライバルはいるかもしれない。
しかし、それさえも無視して彼女は疾走する。目的はパルクールライセンスを手にする事。そうすれば、霧の中へと入る事が出来るのだから。
「これで本日の試験は終わりです。合格結果はガジェットの方に贈りましたので、そちらをご確認ください」
「なお、本日が不合格でも翌日以降であれば再試験は可能です。受けたいという方を我々は拒否しません」
「我々は霧の中の情報を求めています。筆記などで問題がある箇所がなければ、余程の事がない限りは――」
審査員の男性からは衝撃的な事実が飛び出した。何と、不合格でも再試験が受けられる。あの言い方だと、無制限で。
不合格を繰り返した人物を不採用とするのは簡単だろう。出入り禁止にするのも容易かもしれない。
それを行わない事には、何らかの理由がある……そう察する人物もゼロではなかった。実際、ミニバラもそれを感じた一人なのである。
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