ブラックバッカラの自由疾走(パルクール)

アーカーシャチャンネル

ファイル1

 彼女がリモートで受験していたのは、パルクールと呼ばれるもののライセンス取得試験だった。


『パルクールとは――』


 一般的にビルとビルの間を飛び越えたり、それこそニンジャのようなアクションを披露するようなものと認識されているのがパルクールだ。


 しかし、そういったものを一般的にパルクールとは認めていない。当たり前の話である。それは、ライセンス取得試験でも同じ。


 そうした誤った回答をしているようでは、この試験では不合格になるだろう。


 映像では道路というか一般道をランナーが走る、という動画が流れていた。他にも障害物競走のようなフィールドを走る様子も流れている。


『数日前に発生した謎の霧、その中は一般の街と変わりありません。そのような場所で派手なアクションを見せれば、どうなるかはわかるでしょう』


 動画のナレーションは女性の声だが、その人物は動画上に姿を見せていない。本当の意味でも声だけだ。リモートワークを連想させるような光景と言えるかもしれない。


 口調に関しても一般的な教習所で見かけるような教官と似たようなものだ。特に何処かの軍隊とか、そういったノリではないのは明らかである。


 それなのに、このライセンス取得試験を受ける人数は多いという話がSNS上でも話題となっていた。


【霧の中から情報を持ち出せば、ものによって企業から賞金が出る】


【場合によっては億万長者も夢じゃない】


【しかし、危険な任務なのでは?】


【危険度は低いという話だ。ここは日本、それを踏まえれば物騒な案件ではないだろう】


【情報を持ち帰れなかった人物も無事に帰還できている状況を踏まえれば、物騒ではないな】


【いわゆる、バラエティー番組のアトラクションイベントと考えればいい】


 様々な声は他にもあるが、ライセンスを取得して謎の霧に入り、そこで情報を持ち帰れば賞金がもらえるという。


 情報のレアリティによっては高価買取もあるという話だが、その話に対して疑問に思う人は多い。


『我々の行うパルクールは、あくまでも情報回収のための手段の一つでしかありません。他とは違うのです』


 謎の霧内部からの情報回収、それを行うためのパルクールなのである。


 このライセンス習得のための試験も霧が発生して数日の後に唐突に行われ、SNS上でも『バズる』レベルだった。


「他とは違う……?」


 自宅のノートパソコンでリモート試験を受けていた女性の名はミニバラ、いわゆるバーチャル配信者の中の人でもある。


 彼女がライセンスを習得しようとした理由は、配信者としての収益化も理由の一つにあった。その為に、霧の内部の情報が必要なのである。

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