鳥を匂え

桐山じゃろ

第1話

 鳥を飼ったら、まず匂いを嗅ごう。


 ブラウザバックしないで少しだけ読んでほしい。

 割とシリアスな話なのだ。



 私が鳥の匂いに目覚めたのは、結婚して数年後に文鳥を飼い始めたときだ。



 だからブラウザバックしないで。すぐ本題に入るから。ちょっとだけ我慢して読んで。



 最初に飼った鳥は桜文鳥だ。後に卵を産んだことから、メスと判明した。

 雛鳥の雌雄は区別がつかない。鶏だってヒヨコ判定士でもなければ、鶏冠が生えるまで判らない。


 こんな感じで私が知る限りの鳥トリビアをいれていくから、最後まで読んでくださいお願いします。



 その桜文鳥からはメープルシロップの匂いがした。

 インターネットで「文鳥 匂い」等と検索すると、「コンソメ」「甘い匂い」「ひだまりの匂い」といった情報が出てくる。匂いの方向性に個体差はあれど、「良い匂い」だ。


 そもそも鳥は体臭があまりない。清潔に飼っていれば、ペットの中でも臭いに困らないランキング上位だろう。

 ペットショップで手軽にお迎えできる鳥は大抵草食だから、フンの匂いも殆どしない。



 私の可愛いメープルシロップ臭の桜文鳥はある日痙攣を起こして急死した。

 ネットや書籍、動物病院等で仕入れた健康に育てるありとあらゆる方法を実践していたが、ある朝突然の出来事だった。


 生きものだから、いくら気をつけても、どう頑張っても、急死することがあるのだ。

 しかしショックから立ち直るのに歳月を要した。




 現在我が家ではマメルリハを飼っている。

 噛み癖が治らないやんちゃ坊主であるが、可愛い。これを書いている今も私の足をガジガジ噛んでいる。痛い。


 マメルリハのことは措いておく。



 もうすぐで、ようやく本題である。



 夫の実家では、コザクラインコを飼い続けている。

 私が夫と結婚した時にいたコは、数年前に十六歳で亡くなった。こちらは明らかに寿命であった。

 人の手に握られるのが嫌いなコだったが、晩年は義母の手の中を好み、亡くなる前の晩はかなり長い時間、手の中でうたた寝していたらしい。


 次に飼い始めたコザクラインコは、始めから人の手の中が好きなコであった。

 鳥にも個性がある。どんなに小さな雛から人の手で育てても、人の手のなかで眠らない気高い子もいれば、誰の手の中でも安心しきって眠りこけるコだっている。


 そのコザクラインコは後者のパターンだと思えた。

 初対面の私に握られ、大人しくしていたのである。


 あまりの可愛さに、私は匂いを嗅いだ。最早鳥飼いの習性であり、鳥界の常識である。



 臭かったのだ。



 水浴び直後の桜文鳥も、いつものメープルシロップは鳴りを潜め、急に「あ、鳥臭い」となる。


 その、鳥臭さを煮詰めたような、濃い臭いがしたのだ。


 私は手の中のコの鳥臭さを、夫や義母に伝えたが、私以外にはわからないという。

 何度も嗅いでみるが、やはり臭い。

 鳥好きの身としては、どんな鳥臭も受け入れる所存ではあるが、そのコは明らかに悪い臭いがした。



 私に鳥飼い経験値がもっとあれば、その時何か手が打てたのではと、今でも後悔している。




 そのコは、ほどなくして虹の橋を渡った。

 ペットショップから迎えた時は元気に見えたのに、二ヶ月もしないうちの出来事だった。




 昨今の事情により二年ほど帰省できていないから、その後迎えたというコザクラインコたちの臭いは確認していない。

 だが義母は「臭いにヒントがあったのでは」とチェックをしているそうだ。




 私の日課は、今も私の踵の固いところをガジガジと噛むマメルリハの臭いを嗅ぐことだ。

 今日もほどよく鳥臭い。

 元気そうで何よりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鳥を匂え 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説