学園都市に転校して来たら、タブー扱いされている神から、世界を旅する力と使命を与えられた件

柊ユキ

第一章 始まり×初まり

episode 001:【八の理】

「おい、天宮あまみや。学園都市のパンフレットには、目を通したんだよな?」

「あ、はい。見ました。穴が開くぐらいには」

「なら、学園都市の正式名称ぐらいはいえるな?」


 問いに対し少しだけ考える。そして、青色のブレザーに身を包んだ黒髪の少年──天宮湊斗みなとは自信をもってこう答えた。


「──学園密集型科学発展都市ですよね」

「……。あぁ、そうだ」


 一瞬の間を開いた。その時、間違えたか? などと焦るがそれは杞憂で、すぐにスーツを着た女性がそれを肯定した。


「ここはお前が住んでいたクソ田舎とは何もかもが違う」


 彼女は吊り上った鋭い眼を湊斗に向ける。


「クソ田舎って……」

「あぁん? 何か言ったか?」


 目の前の人間から発せられる圧に、気圧され湊斗はただ首を横に振ることしかできなかった。

 担任の先生ってよりも、野蛮な不良生徒って言われた方がしっくりくるな。申し訳ないけど、鬼頭おにがしらって名前がよく似合っている。

 そんなことを考えていると、鬼頭先生が思考を遮るように話しかけてきた。


「主な理由として、学園都市の技術が外とは比べ物にならないほど発展しているということがある。常識までもが覆ることだってある。その代表例として──」

「宗教とか、神とかの類いがタブー扱いされる」


 鬼頭先生の言葉が終わる前に、湊斗は口を開いた。


「あぁ。そうだ。学園都市の成り立ち上、それらはタブーにならざるを得ない。とにかく、このことに限らず気を付けておくことだな」

「はい」

「少ししたら、名前を呼ぶ。そうしたら教室に入ってこい」

「わかりました」


 そう言って、先生は自動化された教室のドアを抜けていった。


「職員室だけじゃなくて、普通の教室のドアも自動ドアかよ」


 早速、常識の違いで湊斗は呆れていた。

 入都許可が下りるのが遅れたと聞いたときには、どうなることかと思った。が、なんとか転入初日までに学園都市に入ることができてよかった。

 でも、おかげで、予定は大狂い。さすがに転入日と入都日が重なるのは予想外のことだった。

 思い出して、苦笑を浮かべる。


「廊下から、中庭が見えるのか」


 ふと外を覗くと、緑の木々と規則正しく並べられた石畳が見えた。中庭の先には昇降口があるのだが、こんな時間にここを通る人はいない。

 少なくとも、湊斗はそう思っていた。だが、そんな甘い推測は簡単に崩れ落ちてしまった。

 小柄な水色髪の少女が目に映ったのだ。キョロキョロと地面を見渡していて、探し物をしているのだと瞬時に理解できた。

 白色の制服を着ていることから、デネアグリグ学園の生徒であることも把握できる。人がいたことに少し驚きつつも湊斗が観察を続けていると──


「あ、やば」


 ──目があってしまった。

 探すのに疲れてしまったのか、一度顔を上げた少女と目があった。少女は気まずくなってしまったようで、すぐに目を逸らす。


「おーい! 転校生!!」


 教室内から響いた先生の声。湊斗は自分が呼ばれていることに気がついた。少女のことが気になりつつも湊斗は自動ドアの前に立つ。


「よし。失敗しないように気を付けないと。ここが、新しいスタート地点になるんだから」


 自動ドアが反応するところまで寄ると、ゆっくりと扉が横にずれていく。完全に開いたところで、鬼頭先生を視界に入れると、彼女は教壇を指でさしていた。

 おそらく、こっちにこいということなのだろう。

 それに従って教壇に立つと、先生から自己紹介をするようにと耳打ちされる。

 大きく息を吸って、吐き出す。そして、教室を見渡した。規則正しく並べられた椅子と机。そして、その上に座る静かな生徒たちが目に映る。

 思い出せ。このために何度も練習した自己紹介文を!


「初めまして。天宮湊斗と言います。今日、学園都市に来たばっかりです。なので、この学園や、学園都市について知らないことばかりです。だから、いろいろなことを教えてくれると嬉しいです」


 何度も練習した文を失敗することなく、言い切った。あとは、最後に挨拶を入れるだけ。そう意気込んだ。


「これから、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げた瞬間、突然、重い鐘の音が耳に響いた。そして、湊斗は意識を剥奪された。


  ♢♢♢


 どこまでも果てしなく続く星空。何もかもがどうでも良くなる。思考がうまくまとまらない。


「ここは? 俺はさっきまで教室に」


 必死に紡いだ言葉。だけど、それ以上考えられなくて。湊斗はただ固まっていた。

 少しあと。湊斗が落ち着いてきたころに、頭の中に情報の渦が流れ込んできた。


  ────────────────


 世界の管理者たる神から貴殿に世界を旅する力を与える。


 第一項 二つの世界を旅する権限を貴殿に与える。ただし、悪用はするべからず。

 第二項 双方の世界で課せられた使命を果たさなければこの理は終わることを知らない。

 第三項 どちらかの世界に存在するとき、もう一方の世界の時は止まる。

 第四項 どちらかの世界で命を失った場合、二つの世界で命を失う。

 第五項 世界を旅するための条件は特定の行動を行うこと。

 第六項 特定の行動は世界を三往復、又は二つの世界で過ごした合計時間が一週間を超えると、その度に別の物へ変わる。

 第七項 旅先の世界において使用される言語、文字は全て貴殿の第一言語に翻訳される。

 第八項 上記七項と本項を合わせた計八項を【八の理】と定め、第三者に伝達することの一切を禁じる。又、この理に反した際には罰則を与える。


  ────────────────


「っっ!!」


 雷撃を浴びたような激痛が頭を駆け抜け、湊斗は苦悶の声を漏らす。けれど、それも一瞬の出来事。何事もなかったかのように痛みはすぐに引いて、違和感を残しながらも普段通りに戻る。唯一違うところといえば──


「なんだよ……。この【八の理】ってのは」


 ──脳裏に【八の理】が刻み込まれていることだろう。

 落ち着いてきて、思考が回るようになった矢先にこれだ。湊斗は次から次へと押し寄せる不可解な出来事に困惑しつつも、さっきに比べて働くようになった脳に鞭を入れる。


「世界の管理者たる神というのは誰だ?」


 が少なくとも、学園都市の人間ではないということだけはわかる。


「世界を旅する権利というのは?」


 これについては、全くわからない。もう一つの世界っていうのが何を指すのかがわからないからだ。


「わからないことが多すぎる。だけど、人智を超えた力が働いていることは間違いない」


『第三項 どちらかの世界に存在するとき、もう一方の世界の時は止まる』


 時を止める技術だなんて、今まで聞いたことがない。仮想世界で止めるならまだしも、現実の時を止める技術なんて。


「はぁ……」


 あまりの出来事に湊斗はため息を吐く。それとほぼ同時に再びあの鐘がなった。ここにくる時にもなったあの鐘が。

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