手芸部員は夏の甲子園を目指す

桐山じゃろ

第1話

「甲子園へ連れてって」

 1年の時から好きだったクラスの女子に告白したら、返事がこれだった。


 俺、手芸部員なんですけど。


 ちなみに女子の方も、野球部やマネージャーとは無縁だ。

 結局のところ、振られたわけだ。普通に考えたら。


 だが、彼女は俺にチャンスを与えてしまった。


 甲子園へ連れていけば、俺と付き合ってくれるのか。


 そう尋ねれば、女子は「あーね」と、毛先とスマホをいじりながら答えた。


 ならば、やってやろうじゃないか。



 うちの高校の野球部は弱小だ。ボールを投げられればピッチャーになれる。

 部員は全部で9人、そのうち8人が幽霊部員。

 1人だけ真面目に活動してると思いきや、トレーニング機器目当ての筋肉オタクだった。

 筋肉をボディビルダー部へ追いやり、まずは環境を整える。


 バットがない。学校に生えてる木を無断で伐採して作ってやる。

 ボールがない。詰め物はグラウンドの土でいいか、1球1球魂込めて手縫いしてやる。

 グローブがない。ならば祖母の代から革製品の縫製をやっているうちの工場の工業用ミシンで作ってやる。

 手芸部をナメるな。ハンドメイドならお手の物だ。


 俺の珍プレーを見た幽霊部員が1人また1人と成仏ではなく黄泉返りを果たす。なぜか筋肉部員まで戻ってきた。

 筋肉部員が持ち前の筋肉を駆使してエースで四番。

 キャッチャーからレフトまで、順にポジションが決まっていく。


 そして俺のポジションは、補欠。

 ベンチでもいい、甲子園へ行くことができれば。


 俺のお手製野球部は、地区大会への参加を決める。

 ここで一つ問題が起きた。

 ユニフォームがない。


 作ってやったさ、全力で。練習の合間を縫って縫った。


 初試合の前日、出来上がったユニフォームを持って部室へ行くと…。



 クラスの女子が筋肉とキスしてた。



 俺はユニフォームを一旦持ち帰り、試合当日の朝、全員に配った。

 欠席は誰も居ない。補欠の俺はおじゃま虫だ。


 観客席では女子が黄色い声援を送る。

 俺はさらにその後ろから、試合を見守る。


 俺のホームメイド野球部員は、俺のお手製ユニフォームを着ている。



 徹夜して、全員の背番号を、上下逆に付け直してやった。

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手芸部員は夏の甲子園を目指す 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

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