リアルは小説よりも奇なり

【1】


「──では、今日はここまで! 急なゲリラだったけど見てくれてありがとう! 明日もやるからお楽しみに!」


そう言って配信用に立ち上げていたソフトを介してライブを終わらせる。集中していたせいで固まっていた体をほぐしながらおれはコメントのログに視線を移す。


『おつかれさまでした~』『乙』『明日もきます』『おやすみなさーい』『自分も好きなゲームだから楽しかった!』『グランさんおつー』


そんなに多くもないコメントにわずかながら充足感を感じながら、ふと目に留まったアカウント名に意識が向いた。


「エカルラートさん……ここ最近見に来てくれてるなぁ」


エカルラート。元々そこまで視聴者数が多くないのに加えて随分と特徴的な名前だったこともあってやけに記憶に残っている名前だった。


いつも律義にコメントまで残してくれる、一配信者としてはありがたい存在である。


「この調子で見てくれる人が増えてくれればいいんだけどなぁ」


と呟いて、おもわずそんな言葉が零れてしまった自分を首を振って叱咤する。駆け出しのマイナー配信者としては一人でも充分喜ぶべきところなのだ、それ以上を今のうちに願うのは贅沢というものだろう。


「んっ。ん~~~~~! とりあえず寝るか」


見れば時計は零時を少し進んだところだった。別に明日は土曜日で授業も午前中しかないのでそこまで響く時間ではないが、このままダラダラと夜更かしをする理由もない。


早いうちに寝て明日に備えよう。そう心に決めて布団に潜り込む。


「さて。明日はどうするかな」


今日の続きをやってもいいし、ゆっくりと雑談も楽しそうだし……そういや最近やっと覚えた曲もあるから久々に歌枠もありかもしれない。それから……──


【2】


ぴぴぴぴ……ぴぴぴぴ……ぴぴぴぴ……


「ん、んぅ……」


耳元から聞こえてきた控えめな、それでいてやけに耳に突き刺さるアラーム音で目ます。


どうやら今日の配信について想いを巡らせているうちに眠っていたらしい。


おれは無造作にスマホを手に取るとアラームを止めて起き上がる。 カーテン越しにうっすらと差し込む朝日が起きたばかりの目に眩しい。ただ、ゆっくりはしていられない。


おれはベッドから起き上がるとクローゼットから制服を取り出しながらリビングへと降りていく。


「おはよ」


「おはよー。ご飯炊いてあるからあとは好きにしてね」


「んっ」


リビングのドアを開けると朝のニュース番組を見ていた母さんがこちらに気付いて振り向く。


そんな親に軽く頷きながらおれはお茶漬けを作ってぱぱっと朝食を済ませる。


手早く食器を片付け、その足で洗面所に向かって身だしなみを整えていく。そうしてリビングに戻って制服に着替えれば準備完了。おれは壁に立てかけてあった通学カバンを持ち上げる。


「じゃ、行ってくる」


「はーい、気を付けるのよー」


「分かってるー」


玄関を出て自転車に跨る。


夏のぬるい風を受けながら駅まで駆け抜けていく。 セミの声。 木々が揺れる音。 通り過ぎていく車のエンジン音。


平日に比べればだいぶ自然の音の方が目立つ、そんな十分弱の通り道。


駅に着けば額にうっすらと汗が滲むが、それも丁度やってきた電車に乗り込んでしまえばひんやりとした冷房の風にあてられてすぐ気にならなくなる。


そして人もまばらな車内で揺られること数駅。高校前駅で降りればもう目と鼻の先がおれの通う高校である。


改札口を出て、他の生徒に紛れるように歩いていると不意に後ろから走り寄ってきた人物に背中を叩かれる。


「よっ、北斗」


「おはようございます、緋色先輩」


少し目線を下げた場所にある馴染みの顔に軽い会釈と共に返事をする。同じ部活の先輩にして──おれがVになるキッカケとなった片想いの相手。


「ん? 今日はなんか心なしか眠そうじゃん? どした、Vの配信でも見てたか?」


「はは。まぁ、そんなとこです……」


正確には見てたんじゃなくしてた、なのだけど。


「先輩は……いつも通りですね」


普段とあまり変わらない先輩にそう返すと当の先輩は「そうかい?」と訝しげに首を傾げつつ、


「まぁ推し事でエネルギーを補充してるからね。推しの配信はいいぞ、あれは見る栄養ドリンクだ」


「栄養ドリンクですか」


「そっ、栄養ドリンク」


そう言ってドヤる先輩をよそにおれの脳内はモンスターだったり翼を授けたりする飲み物を机一杯に広げる緋色先輩というシュールな絵面を想像してしまって反応に困ってしまった。


そうしているうちにおれ達は昇降口についてしまう。学年ごとに校舎が分かれているから先輩とはここで別れることになる。


「それじゃまた部室でなー」


「はい、放課後また」


小走りに離れていきながら笑う先輩に頷き返しながらおれも教室へ足を運ぶ。まずは、午前の授業を超えていかないとな。



【3】



「よっ。早かったね」


「まぁ土曜ですし」


放課後、部室のドアを開けるとそこには既に椅子に腰かけて本を読んでいる緋色先輩の姿があった。他にも部員はいるのだが、ほとんどが幽霊部員なり他の部と兼部してたりで全員が揃うこと自体少ないのに加えて今日は土曜、参加厳守でもないためこうやって土曜の放課後まで残って部室に来るのは自分と先輩ぐらいのものだった。


まぁ、部活とはいっても文化祭なんかが近付かない限りは基本的に駄弁ったりすることがほとんどだから仕方ないことではあるのだが。


それでもこうやって先輩と会える機会があるのは個人的にはかなり大きいもので、おれは先輩の真向かいに座るような形で言葉を投げかける。


「今日は何を読んでるんです? バスカヴィル?」


「緋色の研究。バスカヴィル家の犬は先週読み終えたからね」


答えつつパタンッと本を閉じる先輩におれは「そうですか」と返しつつ購買で買ったパンを取り出す。


それに合わせて先輩も可愛らしい布に包まれた弁当箱を取り出していく。


「ん? それ、焼きそばパンか?」


「そうですけど? どうしたんっすか?」


パンにぴったりと巻き付けるように包装されたサランラップを慎重に剥がそうとしているとおれの手にある焼きそばパンに気付いた先輩が弁当箱の蓋に手をあてたまま微笑む。


「別にどうってことはないんだ。ただ最近の推しを思い出してね」


「へぇ。どんな配信者なんです?」


先輩の趣味はマイナーな配信者巡り。好きな先輩の推しを知ることは先輩の好みを知ることと同義。そうやって先輩の好きな曲だとかゲームだとか食べ物だとかファッションだとかを知って、理解を深めるためにその世界に踏み込んでいくうちに気付けばVになっているんだから我がことながら笑ってしまいそうになる。


で、そんなおれに先輩は


「ほぅ、知りたいか?」


と言いながら、先輩自身も話したくてたまらないのだろう、こちらの返事を待たずに続けた。


「グラン・シャリオって配信者なんだが」


「お、おぅ、おおおおおおおおおおおおう!?」


まさかの名前に危うく焼きそばパンを落としかけた。まるでお手玉のように何度も手と手の間でラップに包まれた焼きそばパンを躍らせているとそんなおれの様子を不可解に思ったのか、「どうした?」と先輩が首を傾げる。


「あ、あぁ、いや。おれも知ってる名前だったんでちょっとびっくりして」


嘘である。 あぁいや知らないというわけではないのだ。むしろよく知っているというか。 グラン・シャリオ。 何を隠そう、おれのVとしての名前である。


「ほぉ! 君もグラン・シャリオを知ってたか! ちなみにどの配信が好きだ?」


「えっと、ゲームですね……」


「分かる! グランのゲーム良いよなぁ。あれはいずれ癌にも効くようになるぞきっと」



「そ、そうっすね……」



動揺してしまったことはなんとか誤魔化せたのか、それとも推しの話が出来そうな相手を見つけた喜びでそこまで意識が回っていないのか、先輩はずずいっと弁当箱そっちのけで話し出す。



「癌といえばあれは見たか? 『外科医シミュレーター』!」


「あー、あの操作キャラが変な挙動する手術ゲーですっけ?」


「そうそう! いやぁメスで腕バッサリ行った時のリアクション良かったよなぁ。『斬鉄剣じゃねーんだぞメスは!』『つまらんものじゃないんだわ腕は』」


「コメントでちらほら『免許返納しちまえ』とか言われてたっすね」


「それそれ! いやぁあれはやっぱ皆そう思うよなぁ。あたしも思わず同じコメントしたし。グランのシミュレーター物はああいうのがあって面白いんだよな」


「で、ですね……」



なんとか記憶を頼りに話を合わせていると先輩は、



「そうだ、シミュレーター物といえば」



と何かを思い出したように手を叩いた。


「『海の家シミュレーター』だったな、焼きそばパンの話題が出たの」


「えっ。『海の家シミュレーター』?」


「そう。もしかしてこっちはまだ見てなかったか?」


「あっ、いや、見たことはあります……」



『海の家シミュレーター』。タイトル通り海の家の経営者としてお客の要望に応えていくゲームなのだが……あれを配信したのは相当前だ。


確かに海の家なら焼きそばとか作ることもあっただろうし、そこで焼きそばパンについて何か言ったかもしれないけど……そんな自分ですら忘れてるぐらい前の話題すら覚えてるのか?


そんなおれの驚愕とも戦慄ともいえぬ反応にはやはり気付かず、先輩はどこか期待に満ちた視線をこちらへ向けてきた。……え、なに視線。


「君は焼きそばパンの焼きそばは本格派? それとも雑派かね?」


「え!? 焼きそば!?」



焼きそばの派閥。本格派というのはいわばパンに挟まずともそのまま食べれるようなクオリティのもので、雑派はパンに挟むことを前提とした少しパサッとした、どこかお祭りの屋台にあるようなやつのことだ。


ぶっちゃけ、総菜パンとしての焼きそばが好きだから、そういう意味ではおれは後者になるのだが……さっきの先輩の何かを期待したような視線とこの質問の意図が気になってしょうがない。


「お、おれは本格派ですね。やっぱ焼きそばパンって焼きそばがメインなとこあるし」


「むっ。そうか。君は本格派だったか。惜しいなぁ……」


「惜しい?」


「うむ。グランは雑派なんだ。君も雑派だったら中々に面白かったんだがなぁ」


「面白い? えっと、何が面白いんです?」


なんだか嫌な予感がする。おれは恐る恐る先輩が何を惜しがっていて、何が面白いのかを問いただすことにした。すると先輩は、


「聞きたいかい?」と口元を綻ばせた。


「グランはね、フルネームをグラン・シャリオって言うんだ。これはフランス語で北斗七星を意味する言葉でね。君の名前も北斗だろ? だからもし君が焼きそばパン雑派だとグランとの共通点が多くてまるで三次元版グランみたいだと思ってね」


「それだけの共通点じゃ別に三次元版のグランとは言えないんじゃないっすかね? っていうか、よく気付きますね、そういうの」


「まぁね。これでもシャーロキアンの一端だ、推理したくなるんだよ。それにあたしのペンネーム兼SNSアカウント名と同じような命名則だからね。あたしのエカルラートもフランス語で緋色なんだよ」



なんとか平静を保ちながら答える。正直先輩がグラン=おれだと勘付いてるのかと思ったけど、それはどうも杞憂だったらしい。というかエカルラート……その名前は確かにおれの配信でも最近よく見る名前だ。あれ先輩だったのか。 「んで、グランなんだけどさ──」 今までそっちのけにしていた弁当箱に手をつけながら、先輩はその後もずっと推しの話をし続けるのであった。



【4】



「つ、疲れた~~~~~~」


帰宅するなり早々ベッドに倒れ込む。時刻は……確認するのすら面倒だが窓から広がる空の色がすっかり夜の帳を迎えて漆黒に染まり切っていた。



「先輩、全然収まる気配がなかったな……」


あの後、先輩は延々とグランの話をし続けていた。やれ初の歌枠で披露したあの曲はテンション上がったとかやれホラー配信の時のリアル側での物音にびびってたグランは面白かっただの、歌ってみたはあれが好きだの、自分も使ってるメーカーの日焼け止め商品のレビューは参考になっただの……思い出すだけでも凄まじい熱量で語る先輩は本当に楽しそうで、心の底からグランが好きなんだと実感させられる。


(気付かれることはなかったけど……もし気付かれてたらどうなってたんだろうな……)


グランとしてのおれはいわゆるバ美肉な配信者。


リアルで言ってみれば女装しているようなものに近い。身近な存在と言ってもパソコン越しの、どこの誰かも分からない少女の姿をした男と同じ部活に所属する見知った男とでは抱く感情は違ってくるだろう。


(普通に引かれるよな……)


考えれば考えるほど嫌な方向に想像が働いてしまう。そうやって思考の海に沈みこんでいると不意にアプリのアラームが鳴り響く。


慌てて止めたその画面には『配信準備』の文字。考え事をしているうちにもうそんなに時間が経ってしまったらしい。


ずっと嫌な方向に想像が働いていたからか、どうにも配信に気が向かない。押し寄せる疲労感に今日ぐらいはいいんじゃないか、と嘯く心。


『推しの配信はいいぞ、あれは見る栄養ドリンクだ』


ふと、そんな言葉が脳裏を掠めた。次いで、脳裏に焼き付く先輩の笑顔。 それを思い出すだけで、力が漲っていく。やろう。やってやろう。


好きな人がおれを……グランを推してるんだ。グランの配信で笑ってくれてるんだ。


だったら、今はそれだけ考えればいい。もしバレたらなんて二の次だ。


おれはベッドから身を起こすと壁際に作った配信スペースに向かう。 慣れた手つきでパソコンを起動させる。流れるように各機材の状態をチェック。


問題無し。 一度咳払いをして緊張を紛らわしながら放送を開始する。



「──やっほー! 今日もグラン・シャリオの配信にきてくれてありがとう!」 その声に応じるようにぽつぽつとコメントが流れてくる。それをなんとはなしに目で追っているとあるコメントが目についた。


『今日なんか声疲れてない?』


(あー、表に出ちまってるか)


普段はそういうのを気取られないように明るく振舞っているつもりだったが、今日ばかりは声に出てしまったらしい。それでもおれは落ち着いた口調でそれを話題の切り口に変えていく。


「ははっ。実はちょっと身バレしそうになってさ」


するとざわつくようにコメント欄が流れ始める。


『誰にバレそうになったの?』『マジで? 大丈夫なん?』『どんな感じでバレそうになったんです?』『親?』


心配そうなコメント、好奇心に駆られたようなコメント、面白いオチを期待しているようなコメント、それらは様々な色を帯びていたけどそれらにかいつまんで返していく。


「親じゃないし最終的にバレてないから大丈夫。心配するほどのことじゃないよ」


『会社とか学校ってこと?』『でもしばらくは気を付けた方がいいっしょ』『んで、相手が勘付いた感じ? うっかりポロった感じ?』『PON?』


「いやいやPONじゃないPONじゃ。相手の方がちょっと鋭い感じよ。こう、例えるならホー……金田一みたいな」


『金田一w』『マニアックすぎん?』『そこはホームズとかちゃうんかいw』『金田一も何代目かによるよね』


「はは。たしかにねー」


話題が話題だからか、質問攻めの勢いで雪崩れ込んでくるコメントは正直疲れた体では全てを追うのが難しい。


それでもなんとかおおまかな疑問には答えていき、それらも落ち着いた頃には予定していた通りのゲームもしっかりとやり通し、終始目立ったトラブルもなく無事に配信を終えることが出来た。


少し凝り固まった体をほぐしながら、楽しんでいるうちにどこかへ行ってしまった疲労感が再び押し寄せる気配に脱力する。



「ふぅー。やりきったー。でも、もうちょっとだけ……」



背もたれに身を預けたまま画面を操作していく。今日はコメントを追いきれなかったから、ログでそれらを確認しておきたい。


そう思って開いたログを見て──固まる。想像以上に多いコメントもそうだが、それ以上に驚いたのには理由がある。


(これ……半分近くがエカルラート──先輩のコメントだ!?)


内容自体は他のコメントと大差ないが言葉選びにはなんというか、どことなく容疑者を追い詰める探偵のそれを髣髴とさせる含みがあった。


(やばい。やばいやばいやばいやばい!)


今日の配信でおれはどんな風に返していただろうか。焼きそばパンの話題とかしたっけ? いや落ち着け、今日の配信だけでそんなすぐバレるようなことは──


ぴろん。


「おわあ!?」


突然の通知音に椅子から転げ落ちそうになる。バクバクと喧しい心臓を必死になだめながら確認する。


『やっほー、夜分にすまないね北斗。──いや、グラン・シャリオって呼んだ方がいいかな?』


「ひぇっ」


バ レ て る。 どうする? どう返す? 何言ってるんですか、なんのことですか、いきなり何の話ですか……いやだめだどれも論破される未来しか見えない。 何か、上手い具合に誤魔化す方法は……そうやって慌てふためいているうちに更にメッセージが送られてきた。


『沈黙も一種の肯定、と取っていいのかな? まぁ、別に構えなくてもいいよ。ちょっと言いたいことがあるだけでね』


「い、言いたいこと?」


なんだ? 一体、何を とぅるるるるる。とゅるるるるるるるる……


「ぬおおお!?」


突然のコール音にまた驚かされてしまった。着信相手は先輩。


「も、もしもし」


恐る恐る通話に出る。すると電話の向こうからは思いの外軽い声が。


『やっぱあれ君だよな!? なんでずっと隠してたんだ今まで君の口からグランのグの字も出てこなかったじゃないかというかいや待った無理しんどい今日ずっと推し本人に推しの推しポイント語ってたとかマジほんとおま、おまなんなんなんで焼きそばパン逆張りしたんだよ君ほんとほんとにさぁ!』



前言撤回。なんかすごい熱量だった。何とも言えない重さがあった。 その熱量に気圧されていると、そんなおれの様子に気付いたのかあるいは返事がないことを怪訝に思ったのか少し間を置いて、


「もしもーし」


と控えめな声が聞こえてきた。



「あ、はい! なんですか先輩?」


「なんですか、じゃないぞ? なんで黙ってたんだい。少なくとも今日とか言う機会あっただろ」


「いやいや、言えるわけないでしょ! 先輩が推してるって言ってたし、それでバラしちゃったら幻滅させちゃうでしょ!」



すると何故か沈黙が訪れた。かと思うとどこか得意げな声が。


「ふっふっふっ。甘い。甘いぞ北斗。まるでコンビニデザートのやっすいシュークリームのように甘いぞ。あたしがそんなことで推しに幻滅すると思っていたか! 甘い甘い!」 「は、はぁ?」


なんかドヤ顔まで見えそうな声音に逆におれが困惑する。でも先輩はそんなおれにはお構いなしに言いたいことだけを言っていく。


「それじゃ、これからも応援してるから! それじゃおつかれ!」


「えっ、ちょっ……切れてる」 先輩にしては珍しく嵐のような勢いだった。


でも……


「杞憂だったんだな」


先輩の言葉にどこか救われている自分がいる。そして同時に、もっともっと先輩が推し続けられるようになりたい、という気力が沸いてきている。


ただ、一つ問題があるとすれば──


「次会う時どんな顔すりゃいいんだ……」


Vとファン。 グランのことを推してる先輩。 先輩に片想いしてるおれ。 なんとも奇妙なことになってきた。


「……事実、いやリアルは小説よりも奇なり、か」



果たして、おれの未来はどんな風に紡がれていくのやら。 それはきっと、神のみぞ知るのだろう。


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