『天才少女』と『変態少年』が繰り広げる放課後頭脳戦。

絢郷水沙

第一章:数当てゲーム

01:プロローグ。絶対に譲れない闘いがそこにはあった。

「いいや、絶対にこっちだ!」


 特別棟の四階、『数学演習室』の札が掲げられた教室に二人の男女の声が響く。


 声の主の一人は、学ランを着た短髪の青年――桐早木とうさきすずめ。この教室を部室とする『知的ちてき遊戯ゆうぎ研究会』の現部長にして唯一の男子部員だ。

 その部長の発言に怪訝な眼差しを向けるのは、彼の向かいに立つ少女。


「いいえ、絶対にこっちです!」


 肩甲骨のあたりまで伸ばした黒い髪をツインテールにしている彼女の名は、安堂あんどう一夏いちか。あだ名はチロ。すずめの後輩にして、この部の女子部員の一人だ。

 そんな二人が今、放課後の部室にて何やら“とある派閥”に関して討論を繰り広げていた。


「絶対にこっちですって! それなんて、その……形が卑猥というか……」

「ヒワイってなんだよ」

「ですから──ッ!」


 言いかけて頬を少し赤らめたチロは黙ってしまう。と、そこへ。


「失礼します……」


 扉を開けて入ってきたのは一人の少女。


 彼女の名は芽有めありすず。チロと同級生の、同じくここの部員の一人。やや赤毛のショートボブ。端正な顔立ちであるが、丸眼鏡をかけていて、前髪で目が隠れがちなせいで地味な印象を与える。

 そんな彼女は、うつむきがちにのっそりと部室に入ってきた。なんだが気分を悪そうにしている。


「オッスースズ! ねえ聞いてよ、センパイってばさ───」


 チロは鈴を見るなり愚痴りだす。愚痴の内容はさっきまでの雀との言い争い。鈴の方はため息をつきながら、


「あ……、うん……。そうなんだね……」


 と曖昧に受け答えしている。心ここに在らずという感じだ。


「おう鈴。ていうかどうした、顔色が悪いぞ。何かあったのか?」


 雀がそう気にかけるも、


「へ? あ、いえ……、なんでもないです。気にしないでください」


 と鈴は近くの机に鞄を置く。その間もチロは鈴のそばで愚痴を続ける。だがしかし、どうやら上の空の鈴の耳にはその言葉が届いていないようだった。


「でさーセンパイはこっちがいいとかって言うんだけどさ、普通こっちじゃない? てかさ」

「いいや絶対こっちなんだって!」


 再び言い争い始める二人を尻目に、一人ため息をつく鈴。


「もう! なんでわかってくれないんですか!」

「いやいや、それはこっちのセリフで!」


「あのー、お二人さん」


 ふいに鈴に声をかけられ、二人はすっと黙った。鈴はそんな二人に、沈んだ声ではあるが、どこか楽し気に提案した。


「そんなに譲れないなら、ここはひとつ、『ゲーム』で決着をつけてみませんか?」

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