第3話 逃がす ~ I'll let Ohmori escape ~

「新入生は入学試験の順位でクラスを編成し、上級生は新学期開始翌日から行われる学年選抜試験に拠ってクラスを編成するものとする」


 校則の中にそんな文言が収められている、私立森林之木学園特別高等学校。

 この学園に「特別」の文字が付けられているのには理由がある。


 それは……



 「学年選抜試験」は全10教科からなる試験である。そして、各教科上位三名が当該学年のSクラスに編成される。複数教科で上位に入った者がいた場合、四位の者が繰り上がりでSクラスへと編成される事になる。

 更には、主要クインク・プ五教科リンシパリスと呼ばれる試験の成績トップが生徒会長となる一方で、補助クインク・ア五教科ウクシリアリスと呼ばれる試験の成績上位者から、生徒会長以外の生徒会のメンバーが選出される事になる。

 拠って、勉学に限って言うのであれば生徒会長・森之木稜真りょうまに勝る者は、誰一人としていないと言えるだろう。



「会長、今年度の会計になりました、大森水樹です。宜しくお願いします」


「うん、大森くん、こちらこそ宜しく。大森くんはなんの補助教科アウクシリアリスで生徒会に選ばれたの?」


「ぼくは技術テクノロジア美術アーテムの成績が良かったみたいで、ここに」


「へぇ、そうなんだ?2つの成績優秀者なんて凄いね」


「か~いちょッ、何言ってるんですかぁ。かいちょおなんて、主要五教科プリンシパリス成績オールスターズじゃないですか。イヤミにしか聞こえませんよぉ」


「えっと、キミは確か森園さん……だよね?」


「はーい、森園あずさ。ピチピチの17歳、身長148センチ体重はヒ・ミ・ツのDカップ、只今絶賛カレシ募集ちゅぅでぇすッ。えっとぉ、生徒会では書記に任命されましたッ。補助教科アウクシリアリス体育コープスは、かいちょおよりも成績優秀です。ぶいッ」


「森園さん、ぼくが会長と話してたんだけど?邪魔しないでもらえる?」


「えぇ、いいじゃないですかぁ。あずさだってかいちょおとお喋りしたいんですよぉ。それとも、大森会計が梓と遊んでくれるん……でっすっか?うふふっ」


ぱちっ


「そそそ、そなそなそな、何を言ってるんだッ!そうやって、男を誑し込むってのは、知ってるんだ!ぼくは騙されないぞッ」


「ちぇっ、つまんなーい。じゃあ、かいちょお、なんか向こうで面白そうな話しをしている人がいるので、ちょっくら行ってきまぁす。また後で、お話ししましょうねぇ。ばびゅーん」


 これは生徒会発足時の会話だ。まぁ、学年選抜試験の上位メンバーは二年から三年に進級しても、ほぼほぼ顔触れは変わらないので全員が顔見知りだが、友達と言うワケではない。それだけが分かってもらえれば問題ない。

 ただそれだけの話し。




「それじゃあ、メインイベントの確認ってのは、これで終わりか?」


「木之下先生、最後にもう1つ確認したいのですが、宜しいでしょうか?」


「なんだ、森之木生徒会長まだあるのか?そろそろ職員会議が始まるから手短に頼む」


「はい、ありがとうございます。それでは本当に最後なんですが、メインイベントで教師陣を?」


 森之木生徒会長の発言は、生徒会室の空気に静寂を齎していた。カリカリとペンを鳴らしていた中森と森園の手の動きを止め、後日提出する質問を考えていた小森と大森の思考を白紙に戻していった。



「ほう?それは面白い確認だな。まぁそれじゃあ、単刀直入に言わせてもらおう。参加表明される教師陣は少なからず毎年いるが、それは決して学園側から公表される事はない。そして狙いたくても参加表明されたかどうかはメインイベントが終わるまで分からない。そして、参加表明されていないのにも拘わらず狙えばそれはルール違反になる」

「これくらいしか、言う事は出来んな」


「分かりました。ありがとうございます、木之下先生」


 こうして木之下夕樹菜ゆきなは生徒会室を後にしていった。そして森之木生徒会長の発言は、他の役員達の手を止め言葉を奪ったままだった。



きーんこーんかーんこーん


「それじゃあ今日はここまでにしよう。皆にお願いした事は各自纏めて、月曜日に改めて見せてもらえるかな?」

「それじゃあ、ボクはお先に失礼するね。最後の人は戸締まりをしっかりとしてから帰ってね」


 木之下に続き、生徒会室を後にしたのは下校のチャイムに従った会長の森之木だ。

 残りの役員四名は森之木が帰った事を確認すると、先程の発言について雑談が始まる事になるが、それは当然と言えば当然の成り行きと言えるだろう。



っごいコト聞いちゃったね?まさか、会長って本当にせんせぇ達を狙っちゃったりするのかな?そうしたら、っごいコトだよ?大事おおごとだよ?前代未聞の一大事だよッ」


「森園書記、全く根も葉もない事を言いふらすのは止めるのですわ」


「そうだよ森園書記。会長は飽くまでも可能性の話しをしただけであって、教師陣の誰かを狙うとは一言も言ってないじゃないか」


 こうして雑談は、日没まで続いたのだ。流石に夜の帳が降りても学園に残っている事は許されず、皆は悶々としながら家路に付いたのであった。

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