第41話 大魔王ヨーリンの妖術
カーテットもリマもペクターも邪神については何も知らなかった。
三人ともベルトレットの様子がおかしくなってからの記憶が残っていないらしかった。
そのせいで、どれだけ情報を引き出そうとしても、俺たちの知っていることしか出てこなかった。
最悪ウランクを生き返らせることができれば、邪神について聞けるかもしれない。
「無理だ。魔王は既にいない。それより忘れたのか大魔王に消されたことを」
「そうでしたわね」
「そうでしたわねって。あれどこやったんだ?」
「ワタクシの世界です。でも、この体じゃ移動できません。ラウル様に力を貸せばできると思いますが、邪神を倒さないとワタクシの力を貸せないのでしょう?」
「ぐむむ」
つまり、魔王から直接情報を引き出すことは困難と言うより、今は無理ということか。
「それにしても、人は不便ですわね。記憶は消え去るものではなく取り出せなくなるだけですのに」
ひんやりとした冷気を俺は足元から感じた。
「何が言いたい?」
「……」
ヨーリンからの返事はない。
だが、次の瞬間、ほんの一瞬だけ、俺の影が元勇者パーティの三人の影を飲み込んだ気がした。
「ダメかー。三人なら邪神について知ってるかもって思ったんだけどなー」
「邪神、邪神です?」
「あれ、邪神って。確か魔王城の地下で……」
「ええ。ベルトレット様と一緒に行った魔王城の地下で何かあったような」
「は? お前ら知らないんじゃないのかよ!」
「突然思い出したです。あたしどうかしてたです。二人ともごめんです」
「そうです。こんな、こんな仕打ちあんまりじゃない! 謝って許されると思ってないけど、謝らないと気が済まないわ! 本当にごめんなさい」
「あ、あ、過ちを犯してしまいました。どうか。どうか許してください。今は神ではなくラウルとアルカに祈りを」
様子がおかしい。邪神について思い出しただけじゃなく、他のことも突然思い出したようだ。
三人とも、泣き、喚き、おえつを漏らしながら、すがるように俺とアルカに頭を下げてきている。
これは人間が思い出した時の反応ではない。
俺を殺した時のことを三人は思い出したと言うのか。
ふっ。と怒りが湧いてくる。そうだ。俺は一度この三人とベルトレットに殺されたのだ。だが、その怒りをすぐに収めた。ここで怒りをぶつけても何も解消しない。俺はあくまで冷静に対処しよう。一生後悔して生きてもらう。それが最善のはずだ。
「お、おにい。どうする?」
アルカが震えている。
血が滴るほど強く握り拳を作って、アルカはこちらを見てきた。
「手の傷をタマミに治してもらえ。こっからは俺に任せろ」
「うん。ごめんね。止めるのはわたしの役割なのに」
「大丈夫だ。俺の方が少しだけ長く向き合ってきたからな」
「お願い」
「任せろ」
アルカが十分離れたのを見てから俺は三人に向き直った。
「知ってること全て話せ。それと、カーテットお前は魔王討伐の報告、後の二人はこの街の復旧に努めろ。勇者パーティなんだろ? それくらいやれば俺のことは許してやる」
「わかったです」
「当たり前じゃない」
「それでいいなら」
覚悟がすぐに決まったらしい。
話の中身はまず、邪神の封印場所は魔王城の地下であるということ。
次に、そこまでにはさまざまなトラップがしかけられているということ。
最後に、邪神は封印されながらもモンスターの方からいけば力を与えられ、自分たちもそこでより強力に洗脳されたということだった。
「よし、だいたいわかった。行け」
三人はすぐに動き始めた。
一段落ついたところで俺は地面を見た。
「ヨーリン。何かしたか?」
「大魔王としてラウル様のためにできることをしたまでです」
「どうして協力してくれるんだ?」
「決まってるじゃないですか。ワタクシの思い人だからですよ。あんまり言わせないでください」
「ありがとな」
俺はポロッと素直に感謝の言葉を述べた。
なんか、今までで一番足が熱い気がする。
「ど、どうした」
「わ、ワタクシは別に照れてなんか、いませんからね!」
なんか言葉おかしくないか? ま、いいか。
「……感謝がこんなに嬉しいなんて。え、ワタクシどうにかなってしまいそう」
小さく色々しゃべっているしヨーリンは大丈夫だろう。
「しかし、魔王城には何もなかったはずだが?」
「魔王もいないとか言ってたっけ? それも行ってみればわかるだろう。祈りがないとわからないんだろ?」
「それもそうか……」
「あの。最後に一ついいかしら」
リマが戻ってきた。
「なんだ?」
「この街に勇者の剣を抜ける方がいたんだけど、ラウルの知り合いかしら?」
「いいや? ベルトレットじゃなく?」
「もちろん。だって、おじいさんだったもの」
謎の老人について気になったため、俺たちは街を出る前に少しだけ調べてみることにした。
昔の勇者が何か知っているかはわからない。
だが神が。
「会ってみるもの一興だろう」
と言ったことで探してみることとした。
「お主か。ここの事態を治めたのは」
「え、はい」
しかし、その老人は突然俺の背後に現れた。
どういうわけか、俺以外の誰もついてきていなかった。
「アルカ? みんなは?」
「大丈夫。仲間たちは無事だ。だが、お主と直接話がしたかったのでな」
「え? 俺と話を?」
そもそもどうしてこの老人は俺を知っているんだ。
俺は一度も会ったことがないはずなのに。
「とうとうワシ、いえ私の役目は終わったのですね」
「ああ」
老人は神の言葉を聞くとかすかに笑顔を浮かべた。
神の存在に驚くでもなく、神の声をまるで懐かしんでいるように笑っている。
どう考えてもただならぬ関係だが、俺は口を挟めなかった。口を開けなかった。
途中、封印や邪神という単語が出てきたせいで、おそらく勇者の関係者なのだろうと思ったが、神と老人の関係は結局最後まで掴めなかった。
「今、邪神が封印されている場所はわかるか?」
「申し訳ありませんが分かりません。私たちで封印したことは覚えています。ですが、今どこにいるかまではさっぱり。動かされたということしか」
「かまわない。もういいぞ。年だろう。余生を楽しめ」
「ありがたいお言葉。そうさせてもらいます。少年。君はいい目をしている。魔王となった勇者の代わりは君しかいない。期待しているよ」
返事をしようと思った時にはもうそこに老人はいなかった。
代わりにアルカの顔が目の前にあった。
「え、ちょ。おにい! 近い! 何、え、何? 嘘」
「……」
慌てた様子で顔を赤くするアルカに俺は瞬きを繰り返してしまった。
「何もしないの? 大丈夫? スキル使ってまで急に顔を近づけるのはよくないよ。ほら、わたしももう小さい子どもじゃないんだし、みんなの前だし」
「そうだな。すまない」
アルカが何を気にしているのか理解できないが、俺は戻ってきたらしい。
あの老人は誰だったのだろう。
わからないが、老人は邪神の居場所を知らなかった。
それなら今俺がやるべきことは明確になった。
「魔王城を目指し邪神を倒す! そのための準備をできる限りやろう!」
俺は装備の点検から始めることにした。
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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