第23話 一体目の四天王

 幼い少女を抱きかかえ、街のシンボルだったと思われる塔の残骸のような高いところから見下ろすモンスター。


 死神の怯えた様子を見るに黒い柱と関係があるんだろうが。


 そもそもあの女の子は誰だ?


「私のガーレインちゃんを返せー!」


 俺の隣までやってくるとラーブが大声で叫んだ。


「誰だよガーレインちゃんって」


「あの女の子」


「どこにいたよ」


「私がガレキを殴ったの」


 ラーブのスキル、物にも使えたのか。


 じゃなくて。


「お前は誰だ!」


 俺はガーレインをさらったやつに向けて叫んだ。


「俺か? 俺はそうだな。あんたらが探してた魔王」


「何?」


「その部下、四天王が一人ジャック・サイだ。いや、よくやるよな勇者さん。いや女勇者さんよ。今までの勇者がどれだけダメだったかわかるよな。よくて魔王様の部下の一、二体しか倒せてなかっただろ? それを一代で一気に八体も倒しちまうなんてな」


「俺は勇者じゃない」


「そうかそうか! じゃあ、さぞ勇者は優秀なんだろうな」


「知らん」


 俺は勇者について詳しくない。


 だから、ベルトレットがどんな生活をしてきたかほとんど知らない。今となっては知りたいとすら思わない。


 俺はタマミやラーブたちと魔王を倒す。妹を取り戻すために。


 サイが早々白状してくれてよかった。こいつは俺の敵だ。


 俺はサイに剣を向けた。


「おっと。そんなことしていいのか? こっちにはお前のお仲間のガーレインって子がいるんだぜ?」


「っ!」


 俺もガーレインなんて知らないが、ラーブの能力で変化させた以上これからの仲間候補だ。


 むやみに危険にさらすわけにはいかない。


「そこから一歩でも近づいてみろ。こいつの命はない」


 サイが鋭い爪をガーレインの喉元に当てた。


 なんとかして救出しなければならない。


 だが、このままじゃ打つ手なしだ。


「やり方がこすっからいぞ!」


「なんとでも言え! これでも俺はお前らを警戒してるんだ。こんなこと今までなかったからな。実力者だって認めてるんだぜ?」


「どーせそんなこと言って! 万年ドベの下っ端のくせに」


「おい、ラーブ」


「う、うるさいうるさい!」


 どうやら図星だったらしい。大声で叫んできた。


「お前らにはわからないだろ! 努力してやっと手にした俺のこの地位! もしかしたら明日には自分の立ち位置に別のやつがいるかもしれない恐怖! それに、今まで死ぬまで安泰だった四天王を倒そうとする人間! 俺はな! 魔王様が復活されるまで生きなきゃいけないんだ! どんな手を使ってもここを生き残らなきゃならないんだ!」


 ラーブのセリフはかなりダメージがデカかったようだ。想像以上に息を荒くしながら弁明してきた。


 大声を出したが、ガーレインは起きそうにない。


 ほっとしていると、サイは舌を伸ばしはじめた。


「ほら、いいのか? 色々言ってくれたが、こいつが危ないんだぞ?」


 サイは伸ばした舌をガーレインに当てた。


「キモ」


「何がキモいだ! もっとあるだろ! 怯えろ! 俺に恐怖しろ! 俺は四天王! お前らがさっきまで戦っていた八芒星のやつらよりも強いんだぞ!」


 実際、死神は呆然としたままなのを見れば実力の高さは簡単に想像できる。


 エイトーンよりも強いだろう。雰囲気から俺もそれは感じ取っている。


 だが、なんだろう。芯がない。


 エイトーンはサイより弱かっただろう。だが、芯が通っていた。グループを信じ、たとえ魔王がいなくとも、敵ながら信じる道を進んでいたように感じた。


 それに比べてサイは自分を守ろうとするばかりだ。


「お前、弱いだろ」


「誰が! 俺は強い! 見せてやろうか。見たいよな? そういうことだろ? 俺は強い。この中で誰よりも強い!」


 サイは羽を広げ飛び上がった。同時にガーレインを空に向けて投げた。


 人質をとっている自覚はあるらしく、ガーレインはサイの尻尾に巻きつけられた。


「見るがいい」


 何か続きそうだったが、俺は話半分にサイめがけてガレキを投げた。


「何っ!」


 正確に尻尾を切り離した。しかし、支えがなくなったことでガーレインが落下している。


 俺はそこで死神の肩に手を置いた。


「おい、シニーちゃん。今落ちてるガーレイン。あいつお前の妹みたいなもんだろ? 年上の兄弟なら妹を助けろ。でなけりゃ一生後悔するぞ」


「え」


「任せた。お前ならできる。俺は調子に乗ったサイを叩く」


 俺は笑顔で死神の背中を押してから、サイの腹を狙ってジャンプした。


「おのれ、羽のある俺に飛行勝負か! だが、あいつの命は終わりだな! 人間は飛べない!」


「俺は信じてるからな。仲間を」


「うるさい! どちらにしろお前の負けだ。デストロイ・」


「うるさいのはお前だ」


 サイが手を前に突き出し何かの構えをとった。


 俺は、何かが出るより早くサイの腹に拳をぶち当てた。


「うっ!」


「彼方へ飛べば倒したか確認できないぞ」


「それもそうだな」


 神の言葉で、俺は地面に向きを変え、サイを殴り飛ばした。


「うあっ!」


 うめき声をあげながら、サイは地面に激突した。


 空から見下ろすと死神が手を振ってるのが見える。無事ガーレインを回収できたようだ。


「動けるじゃん」


 俺はサイの落下地点に着地した。


 煙のせいでよく見えない。だが、どこかに何かがいることはわかる。


 目を凝らすとシルエットが二つ見えた。ん? 二つ?


 分身したのか。俺は反射的に構えをとった。


「ジャック・サイは魔王様に仕える四天王において最弱」


 何者かの言葉と同時にサイが投げ捨てられた。


 霧が晴れ顔が見えると、そこにはあやしいげな笑いを浮かべた女性のような生き物がいた。


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