第24話 四天王の部下を幼女に変えて
「ジャック・サイは四天王において最弱」
仲間であるはずのサイをバカにしながら女性型のモンスターが現れた。
サイと違い高いところから見下す癖はないようだ。
「お前は?」
「私はクイーン・ブビルナ。四天王です」
やはり、と言うべきか。ご丁寧に名乗ってくれたのは新しい四天王。
四天王という名前と柱の数を考えれば、黒い柱はそれぞれ四天王を呼び出すための道具のようなものなのだろうか。
余裕があれば死神に聞いているところだが、今はそんな悠長なことしていられない。
「仲間なのに協力しないんだな。それに最弱なんて言うくらいだ、お前ら仲悪いのか?」
「それはそうでしょう。我々四天王は魔王様に仕えていることが共通しているだけです。お互いに協力関係はありません」
「俺みたいなのがいてもか?」
「あなたのようなはしたない女性は魔王様に会う権利がありません。私だけで十分です」
「お前らを呼ばなかったさっきのやつと同じじゃないか」
「私をジャック・サイと同じだと思ってもらっては困ります」
どうやら、協力関係にないというのは本当のようで、他の四天王がやってくる気配はない。
サイだけがハブられているわけではなく、後から手の内がわかった状態で戦うために、他の四天王を利用していることなのだろう。
こちらとしては協力して出て来られるよりいい。
俺が守れる範囲なんてたかが知れてるからな。静観決め込んでくれてる間に一体ずつ倒すまでだ。
「さあ、どこが違うのか見せてもらいたいところだな」
「私は部下を信頼していなかったジャック・サイとは違います」
そう言うとブビルナは手を上げた。
何かの合図だったのか、どこからともなく魔物の群れが現れる。
「ブビルナ様万歳!」
「ブビルナ様に栄光あれ!」
「ふふふ。魔王様に対してもでしょう?」
嬉しそうに笑うブビルナ。
エイトーンの物体操作とは違い、どうやら本物の部下をどこからともなく呼び出せるらしい。
「さあ、私の部下たちがあなたたちをたっぷり可愛がってあげます。まあ、あなたたち数人じゃどう転ぼうとなす術はないでしょうけど」
ブビルナは余裕そうだ。
油断しているのはありがたいが、油断させてしまうほどこちらが不利。
サイの時もそうだが、エイトーンとの戦いも知っている様子だった。おそらくだが、協力はしてないが情報は共有されてるんじゃないか?
だとしたら、おそらくこちらのタマミやラーブが、個人では弱いことを見抜かれているだろう。
俺は急いで死神とともにラーブたちのもとまで戻った。今のところ欠員はいないようだ。
「ねえ、何あれ」
最初に聞いてきたのはラーブだった。
「あれは二体目の四天王とその部下だ」
「なるほどね。あんなのが他に二体もいるわけだ」
「その通りだが、冷静に分析している場合じゃないぞ」
「まさかラーブさん。あそこに突っ込むんじゃないですよね?」
タマミがおそるおそる聞いている。
「は? 突っ込む? 何言ってんだ?」
「ラウルちゃん心配しすぎだよー」
ラーブは軽いノリで俺の肩を小突いてきた。
え、俺が心配しすぎ?
いやいや、ラーブの戦闘能力は低い。足がものすごく速い程度だ。スキルを考えても勝算はないだろう。
弱っている死神や図体のデカイ巨龍、自我のないガレキならまだしも、四天王の部下。それも軍団として相手にするなんて無茶だ。
「やめとけって。さっきまでみたく俺が蹴散らす。ここでシニーちゃんとベヒちゃんに守っててもらえ」
「二人にはちゃんづけするんだね」
「ホント今そういうこと言ってる場合じゃないぞ」
「私、知ーらない」
「あ、おい! ラーブ!」
ラーブはブビルナに向けて走り出してしまった。
何やってるんだ。タマミのスキルがあると言っても、相手できるはずないだろ。他の相手を殴っている間に一撃もらってアウトだ。
「待て」
「待ってください!」
俺を止めたのはタマミだった。
「なぜ止める? タマミならラーブが危ないってわかるだろ? だからラーブに聞いてたんじゃないのか?」
「そうです。わかります。わかりますけど、ラーブさんだって、もちろん私だってラウルちゃんが心配なんです」
「俺が?」
「そうです! 中身は男の子かも知れませんけど、今の体はラウルちゃんの妹のアルカちゃんのものでしょう? 無茶したら危険な女の子なのはラウルちゃんもおんなじなんです! だから、ラーブさんはラウルちゃんの負荷を少しでも減らすために行ったんですよ」
「俺のため……?」
考えていなかった。
そういえば今の俺は、アルカの体に魂を間借りさせてもらってるようなものだ。
傷つくのは俺の体じゃない。アルカの体だ。
俺だってアルカが無茶をするのは嫌だ。生きていた頃も本当はどこか安全なところでのんびり暮らしてほしかった。
なるほどな。理屈はわかる。
「だが、それなら余計俺に任せてくれよ。これは俺の目的を達成するための行動だ。二人は手伝ってくれてるわけだろ? なら、気持ちはありがたいけど、二人を俺以上に危険な目に合わせるわけには」
そこでタマミは俺の口に人差し指を当ててきた。
そのままじっと見つめてくる。
「私たちだってラウルちゃんと同じ、神様から力をもらった人間なんです。少しは信じてくださいよ」
後方で何やら大きな爆発がした。
慌てて振り返ると、四天王の部下の大軍勢がいたはずの場所には小さな女の子の群れが出来上がっていた。
「私の部下に何をしたのです!」
混乱しているブビルナがラーブに聞いている。
「まさか、あれを一人でやったのか?」
「二人ですよ。私の強化だってあるんですから。それに、少し離れてきたんですよ?」
確かに集中すると今までより力が強まっているのがわかる。
俺も新しいスキルに頼りきりだったせいで細かな変化を見落としていたようだ。
「わったしのスッキル! 私の細工! だんだん私を好きになってくれる女の子への変え方がわかってきたの!」
なんだかとんでもない方向にスキルが成長している気がするんだが。
もし元に戻ったとしてもラーブは怒らせないようにした方がよさそうだ。
「女の子に変える? バカなことを言わないでください! 変えた程度でこんなことになりますか! さあ、あの者を攻撃するのです!」
「あたしのママをいじめるな!」
「よーしよし。ありがとうね。いい子いい子」
「えへへ。ありがとうママ」
「何が起きているというのです?」
それは俺も同じ感想だな。
「それじゃ行ってくるわ」
「話聞いてました?」
「ラーブじゃ決定打に欠けるだろ?」
俺はできる限り足音を消せる最高速で移動した。
「くそう。こうなったら頭を叩くしか。リーダー格が消え」
「どこ見てる? こっちだこっち!」
俺はブビルナに剣を振るった。
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【あとがき】
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