退廃した世界で僕は生き抜かない

@momomomom

第1話

 全身を覆う寒気に促されるように、僕はゆっくりと目を開いていく。

 

 瞼を開けるのすら億劫に感じる…


 眼前に広がるのは空だった。暗い赤色しか持たないオーロラに支配されているような、静脈血が染み出しているような、そんな不穏で異常な空だ。時折、ひんやりとした空気が震える身体にぶつかってくる。穏やかだが寂しさ、不安を感じさせる風。


 身体が鉛のように重い。異常な状況下で思考は定まらず、視線を空から逸らす気力も湧かない。可能ならば身体のいかなる部分も動かしたくない。しかし依然として震えは止まらない。無視するなと言わんばかりに僕の身体を揺らしてくる。


 何とかしないと。

 底をつきそうな気力を振り絞って上体を起こす。予想はできていた。おかしいのは空だけじゃなかった。地面は黒くひび割れており、所々にまたしても赤黒い草が茂っていた。周囲には数多もの枯れ木。葉はひとつも付いておらず、どの幹も何やら固形物が混じった赤い液体を垂れ流している。枯れていなければ紅葉のように綺麗だったのだろうか。そんな楽観的な感想がふと浮かぶ。しかし、そんな楽観さを押しつぶすように、絶え間ない不安はもう手の施しようがないほど膨らみきっていた。


 何もかもが違う。空も地面も植物も、何もかも僕が知るそれじゃない。僕が知る空は青かったし、地面は茶色だった。木だって枯れることはあるにせよ、少なくともあんなグロテスクな液体を垂れ流すはずがない。こんな世界、僕は知らない。


 震えの止まらない両手に視線を移す。青白くなっている右の手のひらに大きな傷がある。


 いつの傷だ?分からない。いや、違う…これだけじゃない…

 

 僕はどうして気を失った?

 どこで気を失った?

 何をして、誰と過ごしてた?

 毎日何のために生きていた?


 僕は誰なんだ?


 傷のある震えた手で頭を掻きむしる。寒気はまた増していく。思考は暴れ、身体と同時に脳を揺する。身体と脳の悲鳴が聞こえる。


 こんなの手に負えない…


 力が抜ける。背中と後頭部が地面と衝突する。血に濡れた空は星のない夜空と化し、意識は再び途切れた。

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